ep17.収穫祭1

エスト …… 27.4%

ツツミコト …… 25.4%

ノートス …… 21.0%

****** …… 26.1%

****** …… 00.1%



『あらあら、随分とエストの数字が減ったわねぇ』


『まぁ、そこかしこで戦をしておるしの、さもありなん』


『それより数字が変じゃありませ……――』


『そんなことより! うちの奴らの祭りだぞ!! いや~子供らに祀ってもらえるって良いもんだよな~』


『は? わたくしだって年始に祀られてるわよ? ノートスの祭りよりずっと盛大に』


『いや、数字……―』


『わかってないな~、規模じゃないんだよ、気持ちよ気持ち』


『………………』



 ~ ~ ~ ~ ~ ~



■後神暦 1325年 / 冬の月 / 獣の日 pm00:20


――アルテスタ 自由市場(収穫祭)


 南からの潮風が気持ちの良い収穫祭の午後。

 天気も快晴、アニマの展示を鑑賞しに足を運んでくれる人も増えてきた。

 ジャンル違いの場所でも評判は上々。


 しかし僕は手伝いにいけない、何故なら…………



「甘いやつで一つ!!」


「キャラメルですね~、ありがとうございます~」


「こっちは普通のとアノ匂いのやつ!」


「あ、は~い、カレーとバターですね~」


 僕は事前にブラン商会で収穫祭に屋台の出店申込みをしておいた。

 場所は自由市場のど真ん中、つまり全エリアから人を呼び込める位置にある。

 商品は色々考えたけれど、良い匂いがして、簡単に作れて咀嚼音そしゃくおんが鑑賞の邪魔にならないものを選んだ。



「「キャラメルポップコーンで~す」」


 そう、ポップコーンだ。

 ニコニコとうちの子たちが袋詰めされた商品を運んでくれている。

 夏の地域であるバベルにはポップコーン豆が栽培されていたんだ。

 用途はもっぱら家畜の餌だったみたいだけど、お陰で安価で大量に買うことができた。



「フッ……キャラメルやバター、それにカレーの匂いに抗える人がいるなら見てみたいもんだね」


「ミーツェ……鍋振りながら言ってもカッコつかないわよ……?」


 そうなんだよ……とにかく忙しいっ!!


 全然アニマの展示の手伝いに行けないよ……

 いや、匂いで釣る作戦は成功してるからいいんだけどさ、限度があるって!


 屋台の幕で隠れる場所から計量や袋詰めを手伝ってくれているティスやネッカム姉弟も大忙し、でも言わせて欲しい。

 鍋を振り続けている僕が一番忙しいっ!!


 力自慢の”オルカ”を編成してなかったら、とっくに腕が壊れてるだろう。



「お嬢さん、コレ、劇の感想! 割引してくれるんだろ?」


「ありがとうございます! 3割引きですよ~」


 営業スマイル全開で差し出された用紙を受け取りながら鍋を振る。

 僕たちを忙しくしている原因の一つはこれだ。


 アニマの展示へのアンケート用紙と引き換えにポップコーンの割引をしている。

 彼の作品を観てもらうフックになれば……と思っていたのだが、思った以上にフックがかかり過ぎた。


「ミー姉ちゃん!」

「アニマお兄ちゃんのところお客さんいっぱいだよ!」


 子供たちが嬉しそうに言うように、割引目当ての人の他にも、人だかりに興味を持って寄って来る人、評判が回って観に来る人、人が人を呼ぶ循環ができつつある。

 遠目から見ても誘導で右へ左へと走り回るラメンタが忙しそうだ。



 さて……こうなってくると、次に起こることは大体予想できるよ。

 証拠はないけど、アトリエ荒らしに画材の買い占め、展示エリアの妨害までしてきた奴らが黙ってるなんて考えられない。


 もちろん何事もないのが一番だけど、あれだけ粘着してくる奴らなんだ、楽観的に構えるほど僕もバカじゃないよ。



「……ほーら、きた」


 見覚えのある男が体格の良い取り巻きを引き連れて文芸エリアの奥へと向かって行く。

 思った通り、自由市場で難癖をつけてきた痩せ男、エラトだ。

 びっくりするほどテンプレの悪役っぷりに呆れつつ、子供たちを呼び戻す。



「オーリ、ヴィー、こっちきて~」


 すぐにでも飛び出して、問答無用で制圧してやりたいけれど、そんなことしたらこちらが悪者になりかねない。

 かと言って、静観するつもりも毛頭ないので、こっそり無力化してやる。

 こんな時の為に事前に揉め事が起きたときの行動は決めてあるんだ。



「じゃあティス、ヴィーと店番よろしくね」


「分かったわ、ヴィー、お金貰ったらあたしに渡して」


 店の台の下にいるティスが計算をしてくれれば、ヴィーは代金とおつりの受け渡しだけでいい、実働部隊は僕とオーリだ。

 屋台の天幕に入っていったオーリがドローンを高く飛ばし、僕はこの日の為の銃を持ってエラトたちの後を追った。



『ミー姉ちゃん、きこえるー?』


「うん、聞こえるよ。どう、狙えそう?」


 猫耳に引っかけたインカムからオーリの声が聴こえる。

 今回、オーリのドローンには武器を積んだ。

 武器、と言っても今僕が持っているモノと同じで殺傷力はない。

 小型のトランキライザーガン。

 ガスを使った空気圧で小さな麻酔注射筒を飛ばす、所謂ダーツガンだ。



『ばっちり! 撃っていいの?』


「待って待って、もう少ししたら撃っていいから」


 練習の風船割りゲームですっかり撃ちたがりになっちゃったよね……

 うちの子たちがトリガーハッピーになったらどうしよう……


 妙に緊張感のないことを考えながら人の影に隠れてエラトへ近づいた。

 奴らが目指す先はもちろんアニマの展示スペース。

 わざわざ体格の良い取り巻きを連れているのも悪い予感しかしない。



「おい! なんだこの芸術未満は!? 収穫祭は芸術家が作品を披露する場だぞ!!」


 わぁ……文句まで代わり映えしないねぇ。

 そもそも見てもいないのに、着いたそばからそんなこと言って周りの目とか気にしないのかな?



「まぁいいや……オーリ、戦闘準備だよ」



 絶対邪魔はさせないよ、ねalmA。

 僕は振り返って屋台横で浮かぶ多面体へ内心で決意を伝えた。

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