ep14.ブラン商会の本気3
■後神暦 1325年 / 冬の月 / 天の日 am11:00
――アルテスタ近郊 平原地帯
昨日も来て思ったけれど、アルテスタ……と言うかイゼルランドは農業をするなら気候や地形的にはとても恵まれていると思う。
それでも残念なくらいアルテスタの食料自給が低いのは、きっと魔獣が多いからだ。
街から少し離れれば急降下してくるバカでかい鳥に突進してくる羊、農地を広げようにも先ず討伐から始めないといけない。
「輸入頼りになるのも分かる気がするねぇ……」
almAに頭上を警戒してもらいながら、しみじみと独り言を呟いていると、オーリが今日の目当ての魔獣を見つけてくれたようだ。
「ミー姉ちゃん! いた! いた!」
「うわぁ……本当にデカい……ツーク村の近くにいた
探索で飛ばしているドローンからの映像を映したディスプレイをオーリから見せてもらうと、冗談みたいなサイズの牛が足を折り曲げて悠然と座っている。
見たところ一頭だけ、と言うより、軽自動車並みの大きさの牛が群れを成していたら近づこうなんて絶対に思わない。
単体であっても銃弾がどこまで有効なのか予想ができない。
なので、almAに牽いてきてもらった荷車から円筒状の道具を取り出す。
「コレ使おう、あのサイズは正面からぶつかるのはちょっと避けたいよ」
「昨日造ってたやつ? 何それ……筒?」
僕が拠点で造ってきたのは、
本体重量も5kg未満の個人が携行できる小型の
グレネードランチャーより軽量で、何より威力が高い。
大きな魔獣だと聞いていたから、これくらいの火力が必要だと思ったんだ。
「オーリがやりたい! こう!?」
「あー! 脚に乗せちゃダメー!」
擲弾筒を
でもそれは誤解から生まれた呼び名だ。
「コレね、脚に乗せそうな形してるけど、こうやって使うんだ」
僕は擲弾筒を地面にしっかりと固定して斜めに傾けた。
荷車から予備の擲弾筒を持ってきたオーリも真似をする。
子供に兵器の使い方を教えるのはどうなのかと思いつつ、怪我をさせてしまうよりは……と無理やり納得してレクチャーを続けた。
「じゃあ、いくよ?」
数分後、準備ができた僕とオーリは爆撃を開始した。
ポンッとコルク栓が抜けたような音を鳴らし、榴弾が弧を描き魔闘牛へと飛んでいく。
そして数秒後……
発射音からは想像できない轟音と共に平原に黒煙が上がった。
何故かパチパチと拍手する子供たちの横で、『やってしまった』とあんぐりする僕。
練習でダミー弾を試し撃ちはしていたけれど、こんな派手に爆発するとは思っていなかったんだ……
「街まで聴こえてたらどうしよう……パニックとかにならない……よね……?」
「もう今更よね」
爆撃を受けた魔闘牛は吹き飛んで、あまり見たくない姿となっている。
かなり近くに着弾したこともあるが、これは完全にオーバーキルだ。
僕は急いでちょっとグロい魔獣を回収して逃げるように街へ戻った。
色々と想定外ではあったけれど、これで三原色の魔石は確保だ。
~ ~ ~ ~ ~ ~
――同日 アルテスタ
アルテスタの門を抜け、人目を避けるようにそそくさと船に帰ってきた僕は、その日はもう外に出ないと引き籠ることにした。
街に被害が出るようなことはしていない、それでもあの爆音で騒ぎになっていたらと思うと、どんな顔をして外を歩けば良いのか分からないんだ……
「オーリ、ヴィー、あのね、平原のことは内緒にして欲しいんだ……」
「「うんっ!!」」
口元に人差し指でバツの字を作り無邪気に笑う子供たち。
僕もこの子たちみたいに楽しめれば良かったのだけど……
気を取り直して出来ることをしよう、そう思った僕はルベラさんへ声をかけた。
「ルベラさん、これまで集めた魔石って加工してもらうことできますか?」
「任せてください! スフェン、あれ持ってきて!」
彼女に呼ばれてスフェンが持ってきたのは円盤状になった鉱石が2枚。
それは上下に重なっていて、上部には取手がついている。
どう見ても小さな
「急ごしらえなんで人力ですけど、別の道具はこの子が造ってますから、安心してください」
僕が訝っていたのを察したのか、ルベラさんはそう言いながら作業を始めた。
ノミと金槌で魔石を砕いて、丁度良いサイズになったものから石臼へ入れていく。
正直、石で石をすり潰せるのかと半信半疑だったが、不思議なことにゴリゴリと硬いものが砕ける音と共に粒が細かくなった魔石が石臼から流れてくる。
「お姉ちゃんの魔法があれば高硬度の魔石もポロポロなんだよぅ」
「えっと……脆くできるってこと?」
恐らく魔石の原子のようなモノの結びつきを変えられるのだろう。
硬い構造から脆い構造へ、もしかしたら逆もできるのかもしれない。
その後もルベラさんは、砕いた魔石がサラサラになるまで石臼をひき続けた。
色鮮やかな魔石が段々と細かくなっていく様は何とも面白い。
僕を始め、子供たちやティスもルベラさんの作業に見入ってしまい、ひき終わった魔石をビンに詰めたりと手伝いをしているうちに日は暮れていった。
――その夜
「ミーツェ! いるか!?」
船外から聞こえた呼びかけに甲板に出ると肩で息をするアニマがいた。
珍しく一人、ハシゴを降ろし船内へ迎え入れると、これまた珍しく興奮している。
表情から悪いことではないと察しはついたが、それは予想以上に嬉しい報告だった。
「店を構えるれる空き家を画廊のオーナーが貸してくれた! 中も好きにして良いらしい!」
「ほんと!? こんなに早く見つかるなんてすごいよ……!!」
アトリエが荒らされた日、僕がアニマとラメンタにお願いしたこと、それはアトリエ兼お店として使えそうな物件探しだ。
幾つか条件があったので、簡単にはいかないと思っていた。
しかし、それがたった3日で決まるとは……きっと空き家を貸してくれたオーナーさんも、アニマの絵に心動かされて投資してくれたのかもしれない。
そう思うと物件が決まったこと以上に嬉しくなってしまう。
「明日、見に行ってもいい? 画材の準備も順調だからお店の方も並行して準備しないと!」
「あぁ、オレも手伝うよ。ところで、昼間は大丈夫だったか? 晴れてるのに雷が落ちたみたいな音がしただろ?」
「………………」
視界の端に口元に指でバツの字を作る子供たちが見える。
素直なのは良い事だけど、バレるから今は止めて欲しい……
「あー……うん。僕は聴こえなかったけど、そんなことあったんだ……ハハ……怖いね」
何も知らない、何もなかった、いいねalmA。
僕はアニマから顔を背けて浮かぶ多面体を凝視した。
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