ep13.ブラン商会の本気2

■後神暦 1325年 / 冬の月 / 獣の日 pm08:00


――メルミーツェの拠点 温室


「え……? どういうこと?」


「むふぅ、これでバッチリなんだよぅ」


 ゾラ家での用事を済ませ拠点へ戻ると、別の画材の調達をお願いしていたスフェンもバベルから戻ってきていた。

 ただ、何故か彼の姉を連れてきている……



「いや、ロカさんとお姉さんにポータルのことを話すのは問題ないんだけどさ。連れてきちゃっていいの?」


「いいんだよぅ、お姉ちゃんがいれば魔石もサラサラなんだよぅ」


 またIQ下がった……


「えっと……ウチ、魔石の加工が得意なんです」


 なるほど、ロカさんが金属が得意なように、お姉さんは魔石加工に特化してるのね。


 確かにスフェンにはロカさん絵筆やペインティングナイフを作ってもらえないかお願いして欲しいと言った。

 絵筆は専門外かもしれないが、金属加工のスペシャリストのロカさんならば最高のナイフを作れると確信していたからだ。

 ついでに魔石の加工についても聞いて欲しいともお願いしたけれど、まさか加工が得意な人を連れてくるなんて予想できるはずがない。



「魔石は高級な顔料になるらしいから、手伝ってもらえるのは嬉しいんですけど……お姉さんはそれでいいんですか……?」


「まぁ……この子、言い出したら聞かないんで……ご迷惑でなければご厄介になっていいですか……?」


 こうして半ばスフェンになし崩しにされるようにお姉さんも動力船で暮らすことになった。

 彼らの両親やロカさんはそれで良いのだろうか、菓子折りでも持ってご挨拶に行くべきだろうか、そんなことを考えながらその日は就寝した。



 ~ ~ ~ ~ ~ ~



――翌日 アルテスタ近郊 平原地帯



「わぁ……本当にだだっ広い平原だ……」


 絵具の顔料にはグレードがあるそうだ。

 植物性のものより鉱石、鉱石よりも魔石、その魔石の中でも優劣があるのだとか。

 シアンの顔料の中でも希少なのがこの平原近辺に生息する魔鳥まちょうらしい。



「さて……どうかな……ほーら、美味しそうな餌だよー?」


「餌って……それでいいのかしら……」


 ティスが呆れるのはもっともだ、だって餌は僕だから……

 目当ての魔石を希少たらしめているのは数が少ないからではない。

 単純に魔鳥を狩るのがとっても危険だからだ。

 上空から急降下で獲物を襲う大型の鳥、つまり猛禽類の魔獣らしい。



「魔鳥は頭が良いらしいよ。あからさまな罠にひっかからないって言ってたもん」


「だからって自分で釣るのってどうなの?」


 確かに普通に考えれば正気を疑われるだろう。

 でも僕には勝算がある、と言うか勝算がなければこんなイカれたことはしない。



「ティスも見たでしょ? almAの機動盾形態シールドシェイプ



 機動盾形態シールドシェイプ、亀の甲羅みたいな形に成ったalmAをスキルで動かす。

 これで急降下からの強襲を防いでから仕留める。

 万が一、失敗しても別のスキルで動きを減速させているうちに狙撃圏内に隠れてるヴィーが撃ち落とす二段構えだ。

 僕は頭上に注意しつつ、両手を広げてクルクルと回ってみせた。



「きたわよ!!」


「よしっ! alm……―」


 ――!!!!!!!!!!!!!!!


「……ま?」


 こちらに向かって急降下してきた魔鳥が勢いを失ってボトリと堕ちる。

 僕が防ぐ前にヴィーが打ち落としたのだ。

 猛スピードで飛来する魔鳥への偏差射撃、きっとあの子には全て視えているのだろう。



「はは……流石うちの子、ってことで良いよね?」


「そうね……」


 その後は完全にヴィーの無双状態だった。

 僕を襲おうとする魔鳥を片っぱしからあの子が仕留めていく。

 轟音が鳴れば仲間が死ぬ、そう理解して新たな挑戦者が現れなくなる頃には十数羽の魔鳥が平原に転がっていた。

 それも全てヘッドショット……うちの子すごいけど怖い……



「次はサイレンサーがないと襲ってすらこなくなりそうだね……」


「この量……花畑のスタンピードを思い出したわ……」


「まぁ……取り合えず、シアン系の魔石は十分だね。次は魔羊まようかな?」


 魔鳥を回収して、一時拠点に保管した後は川沿いへ向う。

 イエロー系統の顔料である魔羊まようの群れがいるらしい。


 バカでかい羊を想像していたが、実物は角がやたらと攻撃的に前に突き出ている以外は意外と普通サイズ。

 甘く見た僕はツーク村でもやっていた勢子を用いた追い込みをやろうとした。

 ……が、逆に追いかけられてしまい、魔鳥と同じように僕を餌にしたヴィーの狩猟無双になってしまった……



「羊って臆病な生き物なんじゃないの……?」


「相手は魔獣よ? どうしてそんな考えになるの……?」


 死屍累々の中でティスがまたも呆れている。

 僕だって予想外だったんだ、あんなに狂暴なんて聞いてない。

 とは言え、必要十分な魔石は確保できそうだ。

 問題はこの後……魔石の取り出し、それを思うと気分が沈む。




――同日 アルテスタ 停泊所マリーナ 動力船甲板


「か~んぱ~い!!」


 何度も何度もやった作業でもあり、未だに淡々とはできない解体を終えて、魔石を取り出した後に残ったのは大量の肉や毛皮や羽や角。

 数が多すぎて結局、花畑のスタンピードの後のように途中から魔石だけ抜き取り、残りは元素値にする為にポイポイと拠点の施設に投げ入れた。

 それでも消費しきれないほど肉に急遽ラメンタたちを呼んでBBQバーベキューをすることにしたんだ。



「ルベラちゃんも食べて食べて~、アタシちゃんがいっぱい焼いてあげる!!」


「お姉ちゃんばっかりズルいんだよぅ」


「ほれスフェン、ウチのやるからラメンタさんにひっつくのは止めな」


 ルベラ、とはスフェンのお姉さんだ。

 すっかり霊鉱精ドワーフに抵抗のなくなったラメンタはあっと言う間にネッカム姉弟と仲良くなった。

 見た目が幼い彼らを子供扱いしているけれど、実はラメンタよりずっと年上なのは黙っておこう。

 そんなことを考えながら、良い焼き具合の肉を頬張っているとアニマが隣に来た。

 なんだか妙にかしこまっている。



「ミーツェ、すまないな……画材を用意する為に魔獣を狩りにいったんだろ……?」


「謝んないでよ、僕はアニマの味方なんだ。だからこれは僕がやりたくてやってるの」


 リスクを孕む魔獣狩りを心配してくれたのか。

 でも僕は感謝してるくらいなんだ。


 前世で助けて欲しいと願った自分が妄想した理想の人。

 今も僕はそれを演じてるだけのまがい物かもしれないけれど、それでも『貴方の味方』だと言葉に出して言えるくらいには成長できたと思う。


 そうさせてくれたのはアニマだ。



 怒ることも、悲しむことも、全部無駄じゃないんだ。

 少しづつ、少しづつで良い、理想を現実にしていこう。



 明日も魔石集めも頑張ろうねalmA。

 僕は浮かぶ多面体を背もたれに異世界ジンギスカンを頬張った。


【ルベラ イメージ】

https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093075274339788

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