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2024年3月28日 00:34 編集済
お捧げ二次創作。 〜ラメンタの宝物・後編〜 男はコントラバスのケースを手にとり、持ち上げ、片手でアタシちゃんの腕をとった。「……はっ? 何やってんの? 離してっ!」「コントラバスはもらう。代わりのものを、渡す。君は絶対に受け取らなきゃいけない。そうしないと、僕は泥棒になってしまうからね。」「バ、バカじゃないの……。アタシちゃん、マナ欠乏症なのよ? 聞いてた?」「聞いたよ。僕のアトリエにおいで。」 そのアトリエは、窓から柔らかく光りが差し込み。観葉植物の緑がみずみずしく。あちこちに絵の具が散っていた。まさしく、画家のアトリエ。「ほら、これ。」 渡されたのは、4/4フルサイズじゃなくて少し小さいバイオリン。「……ちっちゃい。」「うん。子供のころにやめたんだ。これで、このコントラバスは僕のもの。大きい楽器が欲しかったんだ。そのバイオリンじゃ、君の言う通り小さすぎて、描きたいものが描けなくてね。」 言うなり、男は、コントラバスの表面を、ナイフでざりざり削りはじめた。「はっ……? 壊すの?」「楽器としてうまく音が出る、という定義なら、壊すね。でもまあ、見てて……。」 男は、削った場所に、絵の具で色を乗せはじめた。 淡桃色。黄色。赤。萌黄。若葉色。橙色……。点であり、線であり、時には丸で。 繊細に、大胆に、迷いなく。いや、時々立ち止まり、全体のバランスを見て、色を付け足していく。時々、アタシちゃんを見ながら。 なんて鮮やかで、綺麗な色彩。「僕はね、新しい表現がしたいんだ。」 コントラバスに、描かれたものは……。 正直、良くわからない。何の形を描きたかったのか、アタシちゃんには掴めなかった。 でも、色んな色が咲き乱れ、光りがあふれて、綺麗だった。 これはもう、コントラバスではない。楽器としては使えない。 新しい芸出品だ。 世界でただ一つの芸術品として生まれ変わり、祝福の光りに包まれている……。「ふうむ。……良いだろう。」 筆を置いた男は、満足そうに笑った。「どうかな? どう思う?」 アタシちゃんを振り返った男は、ぎょっ、と驚いた。 アタシちゃんが、ぽろぽろ泣いていたからだ。「聞いて……。アタシちゃん、さっきまで、もう死のうって思ってたの。 いずれ、マナが欠乏して、アタシちゃんは死ぬ。この病気は治らない。」 ぐす、鼻をすすり、「それだけじゃない。独りになるのがすっごい怖くて、浮かないように頑張ってたのに、コントラバスだって、自分の時間を全部そそいで、練習してきたのに、この病気で、全部パアだよ。もう、何もかもイヤになって。 でも……。この絵を見てたら……。 アタシちゃんも、生まれ変われるかな、って思った。 自殺なんて、しない。うっ……。」 男は泣くアタシちゃんを、そっと硝子を扱うように、抱きしめてくれた。(マナ欠乏症のアタシちゃんを、抱きしめてくれるんだ……。)「自殺なんて、駄目だよ。」「うん。しない。この絵が、アタシちゃんに教えてくれた。それが、この絵の感想だよ。……あなたの名前を、教えてくれる? アタシちゃんは、ラメンタ。」「アニマート。」 アタシちゃんは、あの日見つけた希望を、光りを、忘れない。 大事な宝物。 あの絵を思い出せば、いつだって力は湧いてくるし、いくらでも、バイオリンに心を込められる。 羽ばたけ、音。 アタシちゃんの大切なバイオリンから。 自由に、羽ばたけ! ───完───追記。気に入っていただけたようで幸いです。ε-(´∀`*)ホッお捧げものですので、好きにしてもらってかまいません。掲載OKです。では、「アタシちゃん」に訂正しますね。あと、二人が出会ったとき、本当に見知らぬ人同士だったのか、先輩、後輩、ぐらいは知ってる間柄だったのかわからなかったので、まったく初めて、の方向で書きました。これで大丈夫だったでしょうか?さらに追記。了解です! それなら、大丈夫ですね。(しゅごい、いただきました。えへへ……)コメント欄ビックリ投稿なので、前編、後編に分けましたが、掲載の際は、どうぞ、一つにしてください。『〜ラメンタの宝物・後編〜』の文字を削除すれば、綺麗につながります。
作者からの返信
コメントありがとうございます!ふぉぉぉぉぉぉ!!なんて…なんて素敵な物語でしょう…ありがとうございます!!本気で泣きました…!!昨日から明日か明後日までにかけて少し忙しくて、頂いたコメントのご返信が遅れておりますが、こちらだけは絶対今お礼をしたくご返信させて頂きました!!あの…図々しいお願いですが、頂いたこの物語を本編の『画家と音楽家』の後に掲載してもよろしいでしょうか?(ep8の前あたりに…)コメントからでも読めるのですが、もっと皆さんに読んで欲しいんです。追記:掲載のお許しに加え、一人称の変更までありがとうございます!次話で明かされることですが、実はアニマートはラメンタを知っていました。ただ、遠巻きに知っているだけだったので、いずれにしても加須様が書き上げてくださった反応になると思います。(そこも含めて「しゅ、しゅごい…」となったのです)
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お捧げ二次創作。
〜ラメンタの宝物・後編〜
男はコントラバスのケースを手にとり、持ち上げ、片手でアタシちゃんの腕をとった。
「……はっ? 何やってんの? 離してっ!」
「コントラバスはもらう。代わりのものを、渡す。君は絶対に受け取らなきゃいけない。そうしないと、僕は泥棒になってしまうからね。」
「バ、バカじゃないの……。アタシちゃん、マナ欠乏症なのよ? 聞いてた?」
「聞いたよ。僕のアトリエにおいで。」
そのアトリエは、窓から柔らかく光りが差し込み。観葉植物の緑がみずみずしく。あちこちに絵の具が散っていた。まさしく、画家のアトリエ。
「ほら、これ。」
渡されたのは、4/4フルサイズじゃなくて少し小さいバイオリン。
「……ちっちゃい。」
「うん。子供のころにやめたんだ。これで、このコントラバスは僕のもの。大きい楽器が欲しかったんだ。そのバイオリンじゃ、君の言う通り小さすぎて、描きたいものが描けなくてね。」
言うなり、男は、コントラバスの表面を、ナイフでざりざり削りはじめた。
「はっ……? 壊すの?」
「楽器としてうまく音が出る、という定義なら、壊すね。でもまあ、見てて……。」
男は、削った場所に、絵の具で色を乗せはじめた。
淡桃色。黄色。赤。萌黄。若葉色。橙色……。点であり、線であり、時には丸で。
繊細に、大胆に、迷いなく。いや、時々立ち止まり、全体のバランスを見て、色を付け足していく。時々、アタシちゃんを見ながら。
なんて鮮やかで、綺麗な色彩。
「僕はね、新しい表現がしたいんだ。」
コントラバスに、描かれたものは……。
正直、良くわからない。何の形を描きたかったのか、アタシちゃんには掴めなかった。
でも、色んな色が咲き乱れ、光りがあふれて、綺麗だった。
これはもう、コントラバスではない。楽器としては使えない。
新しい芸出品だ。
世界でただ一つの芸術品として生まれ変わり、祝福の光りに包まれている……。
「ふうむ。……良いだろう。」
筆を置いた男は、満足そうに笑った。
「どうかな? どう思う?」
アタシちゃんを振り返った男は、ぎょっ、と驚いた。
アタシちゃんが、ぽろぽろ泣いていたからだ。
「聞いて……。アタシちゃん、さっきまで、もう死のうって思ってたの。
いずれ、マナが欠乏して、アタシちゃんは死ぬ。この病気は治らない。」
ぐす、鼻をすすり、
「それだけじゃない。独りになるのがすっごい怖くて、浮かないように頑張ってたのに、コントラバスだって、自分の時間を全部そそいで、練習してきたのに、この病気で、全部パアだよ。もう、何もかもイヤになって。
でも……。この絵を見てたら……。
アタシちゃんも、生まれ変われるかな、って思った。
自殺なんて、しない。うっ……。」
男は泣くアタシちゃんを、そっと硝子を扱うように、抱きしめてくれた。
(マナ欠乏症のアタシちゃんを、抱きしめてくれるんだ……。)
「自殺なんて、駄目だよ。」
「うん。しない。この絵が、アタシちゃんに教えてくれた。それが、この絵の感想だよ。……あなたの名前を、教えてくれる? アタシちゃんは、ラメンタ。」
「アニマート。」
アタシちゃんは、あの日見つけた希望を、光りを、忘れない。
大事な宝物。
あの絵を思い出せば、いつだって力は湧いてくるし、いくらでも、バイオリンに心を込められる。
羽ばたけ、音。
アタシちゃんの大切なバイオリンから。
自由に、羽ばたけ!
───完───
追記。
気に入っていただけたようで幸いです。ε-(´∀`*)ホッ
お捧げものですので、好きにしてもらってかまいません。掲載OKです。
では、「アタシちゃん」に訂正しますね。
あと、二人が出会ったとき、本当に見知らぬ人同士だったのか、先輩、後輩、ぐらいは知ってる間柄だったのかわからなかったので、まったく初めて、の方向で書きました。
これで大丈夫だったでしょうか?
さらに追記。
了解です! それなら、大丈夫ですね。(しゅごい、いただきました。えへへ……)
コメント欄ビックリ投稿なので、前編、後編に分けましたが、掲載の際は、どうぞ、一つにしてください。『〜ラメンタの宝物・後編〜』の文字を削除すれば、綺麗につながります。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
ふぉぉぉぉぉぉ!!
なんて…なんて素敵な物語でしょう…ありがとうございます!!
本気で泣きました…!!
昨日から明日か明後日までにかけて少し忙しくて、頂いたコメントのご返信が遅れておりますが、こちらだけは絶対今お礼をしたくご返信させて頂きました!!
あの…図々しいお願いですが、頂いたこの物語を本編の『画家と音楽家』の後に掲載してもよろしいでしょうか?(ep8の前あたりに…)
コメントからでも読めるのですが、もっと皆さんに読んで欲しいんです。
追記:
掲載のお許しに加え、一人称の変更までありがとうございます!
次話で明かされることですが、実はアニマートはラメンタを知っていました。
ただ、遠巻きに知っているだけだったので、いずれにしても加須様が書き上げてくださった反応になると思います。(そこも含めて「しゅ、しゅごい…」となったのです)