ep20.ルパ・リンチェ掃討戦3

■後神暦 1325年 / 秋の月 / 星の日 pm 07:00


――バベル 地下貧民街アンダーグラウンド ルパ・リンチェ拠点区画


 ティスが違和感に気づいてからも相手の増援は続いた。

 今のところ危ういながらも渡り合えている。

 しかし時間が経つにつれ、状況は少しづつ、それでいて着実に悪くなっていく。


 こちらは十数名、一方相手は無限かと思えるほどに奥から奥から新たに現れる。

 僕はグラディオ・イーシスの援護に駆け回った。

 遠くで囲まれそうな者たちのところへalmAを飛ばし薙ぎ払う、追われる者たちの間に入り銃を撃つ、それでも数が減らない。


 オーリとヴィーこどもたちも狙撃でかなりの人数を行動不能にしてくれたはずだ。

 実際、そこかしこに肩や脚を抑えて呻くマフィアが転がっている。

 倒しても倒しても終わらない戦闘は、以前リム=パステルで戦った魔粘性生物スライムを想起させた。

 あれはあまり良い思い出ではない。



 やっぱりティスの言った通りおかしい、こんなのまるでゾンビ映画だよ。

 それに奥から来るルパ・リンチェのマフィアの人たち、みんな必死と言うか、鬼気迫る顔してる……おクスリでもキメてるの?

 フィエルテの疲労も限界みたいだし、これ以上は無理かも……撤退しよう。



 ティスに無線機トランシーバーでリェンさんへ撤退をすることを伝えてもらう。

 しかし、サックの中からはリェンさんと話す怒りの籠ったティスの声が聴こえてくる、あまり良い返事ではないことが容易に想像できた。


 通信を終えてサックから上半身をひょっこりと出すティスは予想通り怒り心頭といった様子だ。



「ちょっとなんなのよ!! 『退くナ、もうすぐ終わルからそれまで耐えロ』、だって!!」


「声真似上手いね……でも雰囲気ごと伝わったよ」


 WWワールドウォー2のマンシュタインもこんな気持ちだったのかな。

 リェンさんは見栄の為に撤退を許さないなんてことはないと思うけど、それでもこの状況で皆を護り切るのはキツいよ……こうなったら……



「フィエルテ!! 全員僕の後ろに集めて!!」


「分かった、何か考えあるのだな? みな聞け!! 余とジェーンの元に集まれ!!」


 考えなんてないよ……

 範囲が広すぎて護れないなら一か所で護れば良い、それだけだ。

 その分相手が集中したって構わない、やってやるさ。



「半歩だって退くもんか! 僕たちとalmAをナメるなよ……!」


 グラディオ・イーシスのメンバーを背に、この区画で一番広い道に立ち塞がる。

 前方から迫るマフィアは目視できるだけでも二~三十人。

 近づかれる前に手甲を象った2機のalmAが拳を握り殴りつける。

 それを抜けてくるのならばハンドガンで応戦していく。

 銃弾たまはまだまだ余裕がある、それにティスがサポートしてくれている限り、僕にリロードの隙はない。



「大丈夫、大丈夫……順調だよ、僕ならできる……!」


 自分を鼓舞するように呟き、目の前に迫る標的を撃ち続けた。


 ときにしっかりと狙いを定めて、

 ときにスキルの速射で手数を増やして、


 確実に、速やかに、相手の間合いになる前に足を撃ち抜く。


 それでも相手の数が減る様子はない。

 しかし発砲音に混ざる奴らの声に、ティスが感じた違和感とは別の違和感があることに気づいた。


 なんでマフィアこいつらは『退け』って叫んでるんだ?

 倒れた奴も這いずってまでこっちに向かってくる……

 この場面だったら普通『待て』とか『やっちまえ』みたいな脅し文句を言うものじゃない?


 奴らの言動の齟齬そごに混乱したが、その答えは意外と早くに解った。

 と言うより、僕が答えに気づく前に答えの方からやって来たからだ。



 ――うわぁぁぁぁあぁぁあっ!!!!!



 奥から迫っていた一人のマフィアが、弾丸のように壁に向かって一直線に吹き飛んできた。

 その更に奥、建物の影から悠然と姿を見せた人物に奴らは追われていたのだ。


 嗜虐的な笑みを浮かべ、逃げ遅れたマフィアを力任せに殴り飛ばしながらこちらに近寄ってくる人物は、本来此処にいるはずがない人だった。



「ジズさん!? なんで此処にいるんですか!? この区画を包囲してたんじゃ……」


「していましタヨ? 少しづツ狭めながら、でスガ」


「え……? どう言う――……」


 僕が彼女に質問をしようとしたところ、今度は別の路地から優しい笑顔を湛えた老人が現れた、チョンバイさんだ。

 ただし、腕や服は返り血まみれで表情と状況が全く噛み合っていない。


 ジズさんのときと同じく、逃げ遅れて自棄になったルパ・リンチェのマフィアたちがチョンバイさんに襲いかかるが、そっと押す程度の力で当てられた掌底で吐血し崩れ落ちていく。



 え……何あれ……エグ過ぎない……?

 リェンさんと同じ柔拳なんだろうけれど、完全に殺しにきてる威力だよ……


 僕もグラディオ・イーシスも呆気に取られていると、背中から無線機越しのリェンさんの声が聴こえてくる。彼女はここにきてようやく今回の計画を教えてくれた。


 先ず僕たちのようにマフィアと無関係の者たち(実際はずぶずぶだけど……)がルパ・リンチェの拠点にしている区画で騒ぎを起こす。

 騒ぎで注目が集まっているうちに周辺の封鎖を完成させて逃げ道を断つ、ここまでは僕も聞いているし、認識に齟齬そごはない。


 ただ、この後からがおかしかった……


 僕は封鎖が完了したら別動隊が奴らを各個撃破していく、そう思っていた。

 しかし実際は封鎖している人員をどんどん前進させて、僕たちのいた場所へ追い込んでいたらしい。

 通りで倒しても倒しても人数が減らなかったワケだ……マフィアの追い込み漁なんて笑えない。



哈哈哈ハハハッ! 正直、数人捕えタ時点で白猫バイマオたちガ逃げてもそれほど支障はなカったんだがナ』


「じゃあなんで撤退するなって言ったんですか……?」


『…………』


「リェンさん? リェンさーん!?」


 急に無線機からの声が途絶えた。

 故障……ではないはず。


「リェンお嬢様は白猫バイマオが以前、魔物相手ニ大立ち回リをしたことを初代様が褒めていたノデ、嫉妬したのでスワ」


「は……? それじゃあラオばあちゃんが僕を褒めたから、ヤキモチでこんな必死で戦うハメになったんですか? 初めはルパ・リンチェにあんなに怒ってたのに? フィエルテたちも巻き込んで? ……リェンさん! ちょっとリェンさん!! 返事して下さいよー!!」


「もうよいジェーン、元は余が薬を奪おうとしたのが原因だ。

それにイーリエン殿はこれが終われば我々にも薬をまわしてくれると約束してくれている」


 なにそれ、それも聞いてないよ?

 僕だけ知らないでことが多すぎるんだけど?

 絶対ワザと教えてくれなかったんだ……絶対ラオばあちゃんに言いつけてやる!!


 力が抜けてへなへなと座り込んだ僕は、立ち上がるのも嫌になり、手甲のalmAにお姫様抱っこをしてもらいルパ・リンチェの拠点から撤収することになった。



 おばあちゃんっ子って素敵だと思うけど限度があるよねalmA。

 僕は浮かぶ多面体が変形した手甲おうじさまに抱えられたまま悶々とした。


【掃討戦のメルミーツェ イメージ】

「いくよalmA……僕が望むように…as I wish…

https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093073609071193

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