ep19.ルパ・リンチェ掃討戦2
■後神暦 1325年 / 秋の月 / 星の日 pm 05:40
――バベル
新たに知ったalmAの
分裂は言葉のまま、almAが複数体に分かれることができる。
これを”スプリット”と名付けた。
もう一つの形態変化は、ある程度の制限はあるものの、生物以外であれば形も機能も真似るように変形できる。
これは”シェイプ”と名付けた。
任意の物体を二つ自由に操作するスキル”
目立ったデメリットもなく強力なのに、今まで使わなかった理由は単純に”使いこなせなかった”から。
物体の操作だけなら問題ないけれど、それでは両手を空けている意味がない。
かと言って全てを同時にこなそうとすると、腕を四本動かすようなもので脳がパンクする。
ならば僕が処理しきれない分をalmAに手伝ってもらえばいい。
”
これはこの世界で僕が得た
理屈は説明できないけれど、今までの経験でalmAは僕の意図を汲んで動いてくれているのは解る。
正に名付けたスキル名の通り、”
「フィエルテ、皆を止めて。一発目は此処から撃ち込むから」
「ん? あぁ、みな! 止まれ!! それで、撃ち込むとは魔法か?」
「魔法……ではないんだけど、それなりに派手だと思うよ」
目的の区画の数十メートル手前で立ち止まり、斜めがけで肩にかけていた円筒をおろす。
フィエルテも彼の号令で足を止めたグラディオ・イーシスも一様に興味深げに円筒を見ている。
「コレはなんだ? 魔導具か?」
「そんなところかな。あ、僕の後ろには絶対立たないでね」
この円筒は『M72 LAW』をモデルにしたと思われる使い捨て式の携行対戦車兵器……つまりロケットランチャーだ。
噴射口をカバーしている蓋を外し、内筒を伸ばすとカチンッと音が鳴り
――後方確認、よし……
無反動砲で一番注意しないといけないのは
『全員無事で戻る』なんて言っておきながら、自分が爆風で吹き飛ばしてケガさせちゃいました、なんて笑い話にもならない。
「おはよ~ございま~す(小声)」
「なぜ挨拶をしている? それにもう夜になるぞ?」
「僕の故郷では
――!!!!!!!!!!!!!!!
肩に担いだランチャーのトリガーを押し込むと、爆風を巻き上げて弾頭が発射された。
一直線に飛んだロケット弾は建物手前で壁に当たりその周囲を吹き飛ばす。
「行こう!!」
「あ、あぁ! みな進め!!」
爆発の威力に唖然としていたフィエルテへ声をかける。
我に返った彼が再び号令をかけ、僕たちはルパ・リンチェの区画へと突撃した。
―さぁ開戦だ!!
「ぶっ壊れろぉぉぉ!!」
僕の上半身ほどの大きさに巨大な
何処に麻薬を溜め込んでいるのか分からない、そもそも全ての建物がそうなのかもしれない。ならば更地にする勢いで暴れてやればいい。
――オォォオォォォォォ!!
グラディオ・イーシスもメンバーも奮闘をしている。
ある者は建物を破壊し、ある者は果敢にマフィアの集団に飛び込んでいった。
騒ぎを聴きつけて路地から次々とルパ・リンチェの構成員も現れる。
町内全てがマフィアなので当然だが数が多い。
「almA!! 頼んだよ!!」
蹴散らしたい場所へalmAを叩き込み、後の細かい動きはalmAに任せる。
今回の僕の装備はハンドガンを二丁、取り回しの良い銃で相手へ駆け寄り、至近距離で足を撃ち行動不能を狙う。
出発前にリェンさんに言われたこと……『殺す必要はない』。
麻薬に関することを吐かせるのでむしろ死んでもらっては困るらしい。
捕まえた後の事は惨そうなので聞きたくはないが、殺さなくて良いのは気が楽だ。
――うわぁぁぁ!!
グラディオ・イーシスのメンバーの叫びが聴こえた。
彼らにも戦闘が苦手な者もいる。そういった者は建物の破壊に注力していたが、気づかれてしまたようで今は逃げることしかできないみたいだ。
僕は手甲を象っているalmAに自身を彼らの頭上目掛けて放り投げさせた。
――”
飛び越し様にグラディオ・イーシスのメンバーを追いかけるマフィアへ銃弾の雨を浴びせる。
攻撃速度を上げるスキルの恩恵で、3点バーストほどではないものの、着地するまでに二丁のハンドガンの
「目が回るわ……ミーツェ、
「ごめんね、なるべく宙返りは控えるよ。
空のマガジンを抜くと、代わりのマガジンが宙を浮いて装填される。
サックの中で振り回されたティスが、眉間を抑えながら風魔法でリロードをしてくれているのだ。
しかもスライドまで引いてくれる親切なおまけ付き。
「ティスって器用だよね、僕はマガジン抜くだけいいなんて本当に助かるよ~」
「任せなさい、いっぱい練習したんだから!」
ふんすと鼻を鳴らすティスだが、その自信は誇張でも何でもない。
彼女は僕が使う銃器のほぼ全てのリロードを風魔法だけで完結させられるようになっている。
「行こうティス、
僕が走り抜ける道に立ち塞がるマフィアは子供たちが狙撃で撃ち抜いてくれる、それでも近づく者はalmAで蹴散らせる、
今の僕は独りに見えるかもしれないが、実際は家族にサポートされている、負ける気はしない。
しかし暫くしてティスが何かに気づいたようで、僕の耳元まで身を乗り出した。
「ねぇミーツェ、おかしくないかしら?」
「何が?」
「いくら何でも相手が多すぎだと思うのよね」
確かに……地区の一角まるごと拠点だからって一か所に押し寄せ過ぎな気もするね。
実際、この区画の入口から僕たちは全然進めていない。
望楼から全体を見たけれど結構広かったはず、ロケット弾の爆発で区画の端からも押し寄せてきたの?
何かがおかしい、それでも相手は待ってはくれない。
考えようにもそこまで頭のリソースを割くほどの余裕はない。
無限湧き……なんてことはないよね?almA。
僕は浮かぶ多面体が変形した手甲を振り回しながら一抹の不安を感じていた。
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