ep14.5.スラムの女帝とマフィアの女帝
■後神暦 1325年 / 秋の月 / 黄昏の日 pm 00:00
――リム=パステル スラム街近郊 メルミーツェ自宅前
スフェンが造船を請け負うことが決まり、もう暫くバベルに滞在することとなった。
まさか精巧なミニチュアで納得させられることになるとは思わなかったし、リェンさんに報告をしたら『
そして、補給を済ませた
「
「そそそそうです! だがら揺らざないでぐだざいぃ」
リム=パステルに戻った理由、それは我慢が利かなくなったリェンさんに押し切られてラオばあちゃんに会いに行くことになったからだ。
憧れの『おばあ様』にこれから会えると興奮するリェンさんは、僕の両肩を掴みブンブンと前後に振り何度も何度も確認をしてくる。『会いに来るのは
「うぇ……げほっ……酷いですよリェンさん……船の件も勝手に決めちゃうし、僕少し怒ってるんですからね?」
「それはすまなかっタと思ってル、だから費用はワレらが持ツと言ったダロ? それで許してクレ」
まぁ確かにペニシリンの報酬もかなり良かった。
スフェンも予算が増えて船のグレードを上げられるって言ってたから良いんだけどさ……
「で、
「たぶん中央広場にいると思いますよ、もし居なくても誰かしら居場所は知ってると思います」
「
そう、今回はジズさんも同行している。
リェンさんはマフィアのボスなのだから護衛がつくのは当然である。
僕はalmAをバベルに残ったザックたちの護衛につけている。
子供たちが居るのでこれも当然だ。
お陰で僕を護ってくれる人は居ないワケだけど……それは仕方ない。
色々と諦め、スラムの通りを抜け中央広場へと二人を案内した。
――スラム中央広場
名前の通り、スラムのほぼ中央に位置する開けた広場。
二年前まで昼間はともかく、夜は閑散とし、余所者が足を踏み入れようものなら無事では帰れない危険な場所だった。それも今では昼夜問わず活気があり、『スラム』と呼ばれている方が不思議なくらいには発展したと思っている。
「
「えぇ、素敵な街でスワ、ただ、通りを外れレバ不埒者も居るようでスワネ」
ジズさんの言う通りだ。
以前より明るく安全になったスラムだが、今でも無法者が集まり易い場所であることは否めない。
先ほども珍しい異国の装いであるリェンさんたちを、裏通りから値踏みするように見ていた
とは言え、そんな奴らもおいそれとは悪事を働けない。
何故なら僕の視線の先の人物にバレようものなら半殺しでは済まないからだ。
「ラオばあちゃ~ん! お客さんだよ~!」
「
折れそうなほどに左右を首が振り辺りを見回すリェンさんを宥め、いつもの場所に座るラオばあちゃんに近づく。今日は珍しく昼間から飲んでいるようだ。
「おう、ミーツェか、アタシに客って誰だ?」
「こここ此の人ガおばあ様なんダナ!?」
「うん? おばあ様? ……おい、この娘……もしかして」
「シ、シーワンの娘、イーリエンと申しマス! あああの! ウェイジュおばあ様ですヨネ!?」
「
まさか孫に会えるなんて思ってなかったよ」
念願のおばあ様に会えたリェンさんと、初めて孫に会えたラオばあちゃんに水を差すような無粋はしない。僕たちは少し離れた場所で二人が語り合うのを見守った。
微笑ましい光景だったが、視界の端からフラフラと水を差しそうな人物が二人に近づく姿を見つけ、僕は全力で走りその人物を羽交い絞めにした。
「何してんですかレイコフさん!!」
「おう猫姫! いやよぉ、ウェイの奴が
「いや、あの人ラオばあちゃんのお孫さんですから!!」
酒臭っ!!
もう泥酔してるじゃん……ラオばあちゃんが昼間っから飲んでいたのはこの人と飲んでたからか……それにしてもラオばあちゃんは酔った素振りがないのに、何でレイコフさんはベロベロなんだ……?
護衛がチョンバイさんじゃなくて本当に良かった、こんな場面に出くわしたら修羅場が確定しちゃうところだったよ。
僕が酔っ払いの相手をしていると、広場に面した店から悲鳴が響いた。
恐らく新参でスラムのルールを解っていない者が暴れているんだろう、慣れたくはないが此処では珍しいことではない。そして次に起こることも珍しくない。
――ゴォルァァァァ!!クソガキどもぉぉぉ!!!!
地鳴りのような怒声をスラムの女帝が響かせる、哀れ彼らは粛清されるだろう。
しかし今回は女帝の孫まで飛び出していった。
慌てて追いかけようとしたが、それはジズさんに止められた。
「大丈夫デス、お嬢様もきっと初代様の前デ恰好をつけたいのでスワ」
「でも万が一があったら……」
「見ていてくだサイ、お嬢様はワタクシよりずっとお強いですカラ」
護衛としては間違っていると分かっていても、リェンさんの気持ちを汲むジズさんが言うのならばと僕も彼女と共に事態を見守った。
少しすると、二人が駆け込んでいった店の入り口から次々と人が吹き飛んでくる。
熊人族の男性、狼人族の女性、鬼人族までいた。
「この街でやんちゃするんじゃねぇ、クソガキどもっ!」
ラオばあちゃんの
思わず耳と尻尾がひゅんとなる。
「
リェンさんの倍以上ある体格の男がまるで無重力かのように浮き上がる。
何をしているのかさっぱり分からなかったけど、相手の力を利用して投げているのだとジズさんが教えてくれた。
拳法には明るくないが、
傍から見れば、軽く当てているように見える掌底で相手はバタバタと倒れていく、中には嘔吐する者までいた。
「うわぁ……悲惨……僕でもここまで酷くやられたことないよ……」
こうしてスラムの女帝とマフィアの女帝の圧倒的な暴力により、あっと言う間に叩きのめされた新参者たちはスラムのルールを知ることになった、彼らには本当に同情する。
その後の二人は夕暮れまで語り合い、帰り際にはぐずるリェンさんをジズさんと一緒に引きずりバベルへ戻った。
――バベル 下層街 作業場
「
「はい、また行きましょう。ラオばあちゃんも嬉しそうでしたね」
「そうカ!? そう思うカ!?」
花が咲きそうな笑顔のリェンさんはまるで可憐な少女のようだが、彼女がマフィアのボスで齢40を超えた大人の女性であることを忘れてはいけない。地雷を踏み抜いてあの掌底の餌食になるのはご免だ。
「次はチョンバイも連れテ行ってやロウ、喜ぶゾ!」
「……それは止めましょう」
そんなことしてレイコフさんと鉢合わせたら修羅場だよ……
だってチョンバイさんが殴ったら内臓破裂するって言ってたよね?almA。
僕は浮かぶ多面体を隣に立ち、柔拳の恐ろしさを思い出し戦慄した。
【ラオばあちゃん イメージ】
https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093073239347725
【若かりし頃のラオばあちゃん(ウェイジュ=ラオ)】
https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093073239578523
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