ep2.ファルナからの手紙2
■後神暦 1325年 / 秋の月 / 空の日 pm 08:50
――リム=パステル インディゴ商会 飲食店
セイルに渡されたロザリオを一旦手首に巻き、封を切り手紙を開く。
機械を使ったように整然と文字が並び、ファルナの生真面目さが窺える手紙だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
メルミーツェ=ブラン 様
お久しぶりです。
オーレリアの街は、初めこそぎこちなかった住民と兵士の関係も、日を重ねるごとに良い方向へ向かい、今では談笑をする光景を目にすることもあります。
また、移住してきた方々も増え、段々と活気づいてきました。
今回の一件も落ち着いたので、ワタシは神殿に戻り、女神信仰を国教としているヴェルタニアが教義に背いた行為をしていたことを訴えるつもりでした。
しかし、それはジェイル様に止められ叶いませんでした。
ワタシたちはヴェルタニアで国に反旗を翻した罪人とされているそうです。
神殿も同じ意向のようで、それはヴェルタニアから報せにこられたジェイル様の部下が仰っていたので間違いないとのです。
神殿で暮らしていたワタシは外の世界で多くを知り、学びました。
女神エストが唯一の救いである考えは変わりませんが、それぞれの信仰があり、それらは互いに議論をする価値があるものだと知りました。
そして善悪の判断はそれぞれの尺度があり、それらは同じ信仰を持つ者たちでも違うものだと学びました。
長くなりましたが、ワタシはこれからヴェルタニアに他国への貿易品として売られてしまった奴隷たちの解放に向かいます。目的地は大陸の南西、常秋の地域です。
ラミアセプスさんに言われたことですが、重要なのは『自身の選択に責任を持ち、最後まで折れないこと』、ワタシはオーレリアでの選択を最後まで貫き通すつもりです。
例え絶対的な正義が存在しなくても、ワタシはワタシの正義を掲げ、その意志は決して折れることはありません。
最後に、配達人さんへ預けたロザリオは、ワタシからメルミーツェさんへの友愛の証です。
信仰する神がいないと聞いていますが、それでもワタシが一番大切に想っている品を持っていて欲しいのです。
それでは、貴女のこれからが幸せで満ちるよう祈っています。
ファルナ=ティクス
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…………」
奴隷貿易か……可能性として考えてはいたけれど、あったんだね……
前に図書館の本で読んだけど、この大陸は大まかに4分割して春夏秋冬の季節が固定されている。
大陸の北東に位置しているこの地域は春、南西はファルナが言っていた通り秋の地域。
しかも地域間の移動は地形や生態系の関係でとても危険だと書いてあった。
「あの、ファルナさんといつも一緒にいたおっちゃんから、手紙を読み終わったらもう一通渡すようにお願いされたっス」
「もう一通?」
そう言ってセイルが肩掛けのカバンから出した手紙を受け取り開封した。
予想はしていたが、差出人はやはりジェイルだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ブラン 殿
ことの経緯は
我々は国に追われる立場になった。
家の者たちには申し訳なく思うが、反逆者となっても後悔はしていない。
ワタクシは信頼できる私兵を伴って
目的地は大陸の南西、二つの王家で成るワタクシから見れば歪な体制の国家だ。
それもあって国内は争いが絶えないそうだ。
不躾な願いではあるが、
向かうだけでも危険があることや、ブラン殿に商会長としての立場があることも承知している。
しかし、オーレリアの兵力を二人で相手取った力を今一度貸して欲しい。
どうか一考頂けることを願っている。
ジェイル=ドゥーレ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「手紙だと『ヌ』はつかないんだ……」
いや違う、考えるのはそこじゃない。
ファルナはオーレリア以上の戦火に飛び込む気なんだ。
「自身の選択に責任を持ち、最後まで折れるな、か……」
二通の手紙をぼんやりと眺めていたが、心は決まっている。
ファルナを追いかけよう、途中で合流ができるかは分からないけど、少なくとも現地で彼女の力になれるように。
紛争地帯に赴くが、今回は即断即決だった。
僕は立ち上がり、ウカノさんたちがいるテーブルへ向う。
貿易関係にも明るい商会長たちなら多くの情報を持っているはずだ。
「ウカノさん、僕、大陸の南西に行きたいんですけど、どういけば安全に行けるでしょうか?」
「え? メルちゃん、貿易でも始めるんです?」
「いいえ、実は……――」
僕は手紙に書いてあったこと、そして自分の意向を伝えた。
問題は今度はオーレリアなんかとは比較にならないくらい遠くへ向かうこと。
そうなれば家族を置いていくワケにもいかない、だから安全な移動ルートとなるべく多くの情報が必要だ。
「うーん、そうですか。なら海路が良いです。
ただし、アルコヴァンからではなく、ヨウキョウから乗ることになるですね」
「どうしてですか?」
「アルコヴァンはヴェルタニアと戦争中だからな、民間船は出てないんだよ」
ウカノさんに質問をすると、別の卓に居たベリルさんが僕の隣に座り教えてくれた。
この世界の海は不思議なことに、大陸を上から見て時計回りに流れる海流に囲まれているそうだ。
それは高速道路の
ただし、一度海流に乗ってしまうと一方通行で流されるらしい。
アルコヴァンから海流に乗った場合、ヴェルタニアまで流され、必ず迎撃されてしまうそうだ。
「つまり、メルちゃんの求める”安全”を考慮すると、ヴェルタニアの次の着岸場所であるヨウキョウから船に乗る必要があるんです。私からミヤバに協力してもらえるように話しておくですよ」
「留守の間は俺が嬢ちゃんとこの商会の面倒見てやるよ。
ついでに嬢ちゃんが不在だって知られないように偽装もしといてやる。
その方が戻りやすいだろ?」
「スラムの坊主たちは俺に任せな、猫姫が仕切るまでは
「旅先で戦力が必要になったら吾を呼べ!! 全てをなぎ倒してくれよう!!」
「パイもご飯を作って協力しますン!」
いつの間にか集まってきた商会長たちが協力を申し出てくれた。
人との繋がりの温かさを改めて感じ、少しだけ泣きそうになる。
彼らと出会えた偶然に感謝をし、これからも大切に絆を育んでいこう。
「……ありがとうございましゅ」
泣くのを我慢してたら噛んだ……
こんな時に大切なことを僕は知っている、決して怯まないことだ。
何事もなかったかのように話を続けた。
「さっそく明日から出発に向けて取り掛かります。きっと頼ってしまうと思いますが、どうかよろしくお願いします」
商会長たちに頭を下げ、先の失態を有耶無耶にしてやった。
最後の最後でやってしまったが、気持ちを切り替えていこう。
今回はティスはもちろん、子供たちも連れていく、どんなことをしてでも護り抜かなければならない。
明日から買い物ラッシュだよalmA。
僕は浮かぶ多面体を手を添え拳を握った。
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