ep17.メルミーツェ困惑する
■後神暦 1325年 / 夏の月 / 黄昏の日 am 00:15
――アルカンブル砦 砦壁上通路
砦に戻るまで夜通し移動していたせいで昼夜が逆転してしまった。
変な時間に目が冴えた僕は夜風に当たるがてら砦壁上からオーレリアを遠目に眺めていた。
街の灯りが少ない気がする……
ファルナたちは上手くやったのかな?
ラミアセプスが味方にいれば絶対に負けることはないと思うけれど、アイツ気紛れだもんなぁ。
結局どうしてあの狂人がファルナに協力していたのか未だに分からない。
弱肉強食を地でいくようなラミアセプスが奴隷を気に掛けるとは思えないし、同行している間に言われた言葉から予想できることはあるけれど、それをすることでアイツが得る利がさっぱり分からない。
「君、
「…………」
監視塔から降りてきた猫人族の兵士に忠告されたが、あり得ないことだ。
僕に話しかけてきた時点でこの兵士はたぶんアルカンブル砦の関係者じゃない。
「……ラミアセプスでしょ?」
僕の
「あらぁ、バレちゃったぁ~」
「白々しいよ、僕が他の人に見えないようにしてるの知ってたでしょ」
兵士の周りの景色が一瞬揺らぎ、厳つい男性の顔から湿った笑顔の女性へと変わる。
がっちりとしていた体格も、しなやかで丸みを帯びた体型へ……
余ってしまった軍服の腰回りを『あらあら』と言った表情でベルトを締め直している。
「何の用さ? 僕、アンタのこと怖いから出来れば放っておいて欲しいんだけど」
「ンフフ、でもあの後どうなったか知りたくないのぉ?」
「…………知りたい」
「素直ねぇ~、まずオーレリアの軍隊はほぼ壊滅したワぁ」
「嘘でしょ? 確かに中枢区にかなり兵士が集まってたと思うけど、街全体で見れば数割くらいの人数じゃないの?」
「本当よぉ、物足りなかったから私がやったワぁ」
街全域を一夜で駆け回るなんて普通は出来ないよ。
加えて兵士を殺して回るなんてあり得ないけど、コイツなら言うなら本当なんだろうね。
しかも理由が『物足りない』って……ただの
「本当はミーちゃんにやってもらいたかったけどぉ、倒れちゃったからねぇ~」
「倒れてなくてもやらないよ。僕あの後どうなったの?」
「さぁ? 気づいたらいなくなってたワぁ」
「本当に?」「本当よぉ」
食い気味に答えられた。これ以上は教えてもらえそうにない。
笑顔に圧を感じる、それならと別の質問に切り替えた。
「ウォークはどうなったの?」
「逃げたワぁ」
「見逃したの? 本当に? なんで?」
「本当よぉ。ちょっと期待外れだったけどぉ、まぁ教材として頑張ってくれたからご褒美ねぇ~」
「教材?」
「そうよぉ、あの子との戦いで自分が甘いって思い知ったんじゃないかしらぁ? よく知りもしない他人を信じるなんておバカさんよぉ?」
冗談めいてラミアセプスはクスクスと嗤うが確かに言う通りだ。
ウォークの人となりを疑わなかったのは甘かったと思う。
それでも常に人の善性を疑うことはしたくない。
「確かにウォークを信じたのは僕の落ち度だけど、初めから人を陥れようと考える奴なんて少ないはずだよ」
「性善説や性悪説を論じるつもりはないワぁ。
まぁ、どちらと聞かれたら私は性悪説を推すワねぇ。
う~ん、やっぱりまだ解ってなかったのかしらぁ」
「もう何なのさ!」
「ンフフ、癇癪起こさないのぉ~。
「わかんない……」
「もっと思慮深くなりなさいってことよぉ~。
ミーちゃんは死にたくないんでしょぉ~? 生きるのに必死になったことはないかしらぁ? 相手も同じよぉ? どんなことをしても生き残りたいって思うものだってことを前提にするべきだワぁ~」
悔しいけれど正論だ……
「……わかった」
「ンフフ、偉いワぁ~。いっぱい戦っていっぱい強くなりなさ~い」
「だからほっぺ突っつかないで! それに僕は戦闘狂じゃない、できれば戦いたくなんかないよ!」
頬を突く指を押し退けようしたがビクともしない。
どんな力で固定しているんだ?やっぱりコイツはバケモノだ。
僕が困っていると、ラミアセプスは満足したようで指を引いて話しを続けた。
「そうそう、明日オーレリアにいってみなさ~い。西側の砦からアルコヴァンの兵が街を奪還に来ているはずよぉ。朝にはこの砦にも伝令がくるんじゃないかしらぁ」
「なんでそこまで知ってるのさ?」
「私が
ラミアセプスは顔だけ狼人族の男性に変えて見せた。
あの能力は扇動、諜報なんでもアリだ。
その気になれば一人で国を転覆させることも出来るんじゃないかとすら思えてくる。
「この砦にもずっと居たのにミーちゃんったら気づいてくれないんだものぉ、悲しくなっちゃったワぁ~」
「は? ずっと? いつから?」
「そうよぉ、背伸びしたドレスで歌ってたのも良かったワねぇ、わざわざ歌姫ちゃんを迷わせた甲斐があったワぁ~。あ、ブロッコリーが好きなのも知ってるワよぉ」
「嘘でしょ……あれってアンタのせいだったの……? ティスがいれば姿を変えてても見破れるんじゃないの……?」
「妖精族の子かしらぁ? 視界に入らなければいいのよぉ~」
マジかよ……いや、コイツなら平然とやってのけても不思議じゃない。
そんなことよりどうして僕を観察してるんだよ、怖過ぎるだろ。
「あのさ、
「
「違うよ!! 怖いから構わないでって言ってるんだって!!」
「ンフフ、考えておくワぁ~。そろそろ行くワねぇ~」
最後の最後に僕をからかったラミアセプスは満足そうに嗤い、砦壁からこちらを見たまま後ろ向きに堀へ飛び込んだ。急いで下を覗き込んだが、アイツの姿は闇に溶け、水音すら立てずに静寂だけ残して消えてしまった。
「襲ってきたり、説教してきたり、からかったり、何がしたいんだよぉ……」
どこまで見られてたんだろうalmA。
僕は浮かぶ多面体に抱き着いて監視されてた事実に戦慄した。
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