ep10.城塞都市オーレリア2

■後神暦 1325年 / 夏の月 / 星の日 pm 01:00


――オーレリア市街 裏通り


 建物同士の間を抜け、日の光が届かない薄暗い路地裏で仮眠から覚めた。

 深夜から午前中にかけて歩き回って集めた地理情報を整理する。


 まず、この街は建物がかなり密集している。

 その一点だけはアルコヴァンの首都、リム=パステルにも劣らないほどだ。


 そして街壁に近い場所には兵舎や倉庫と思われる軍事関係の建物が多い気がする。

 反対に中央に寄るほど街としての生活を維持するための建物が増え、更にその先は厳重に警備されている区画があるみたい。


 まだ南西側の一部しか確認できていないけれど、全ての地区で同じような作りであればこの街は外側から軍事、生活、中枢の層で区分けされた構造なのかもしれない。



「ふぁぁ……取り合えず日中はあまり目立たないところを移動しようか」


 大きく伸びをして持ち込んだローブのフードがしっかりと被れているか確認をする。


 これまで何度も頼ってきた隠密ステルス性能持ちの”アクラブ”を編成しているとしても、魔人族至上主義の街でを出して歩く勇気はない。


 僕は寝起きの宣言通り、裏通りを更に暗い方へ歩き出した。


 奴隷が居るならどこだろう?

 あまり物みたいに考えるのは嫌だけど、奴隷の用途ですぐに思いつくのは三つ。


 一つは労働力、街では普通に生活している人もいるのでこれはあり得る。

 そうなると生産拠点っぽいところを探せば良さそう。


 二つ目は戦力、ファルナが率いてたのは魔人族だけだった。

 それだけで断定はできないけれど、これだけ要塞化している街で奴隷を戦力として狩りだす理由が見当たらないので可能性は低そう。


 最後は貿易。これが一番可能性が高いと思う。

 だとしたらどこかに纏まって居るはずだから、それなりに大きい建物を探すのが良いか?


 本当はもう一つ扱いに思い当たるものがあるけれど、それは考えたくない。


 当たりをつけた建物がないか探索を続け、街の東側に移動するころには、すっかり日も暮れて夜の帳が下りていた。



――同日pm08:00 オーレリア市街 飲食街らしき通り


 日中より人通りは少なくなって移動がしやすくなったが、思ったように目的が果たせず勢いで出てきてしまったことを反省する。

 そもそも何の情報も持たずに来てしまったのは悪手だった。



「街の地理を把握するのが限界かなぁ……」


 街路樹に寄りかかって座り、次はドローンを壁外から飛ばそうかなどと考え、今回の探索を諦めかけていたが、通りを歩く軍人らしき二人の男の会話が耳に入る。


 僕は気になってその男たちの後ろを歩き話しを盗み聞いた。


「またあの宗教狂いの女に『奴隷を解放しないさい』って絡まれて参ったぜ」

「あ~街中で演説みたいなこともしてたよな。そもそも奴隷制度を知らなかったってどんだけ田舎者なんだって話だよな」

「本当にな。前は住人からも人気だったけど、負け帰ってからはもう落ち目だろ?」

「今でも支持してるのは部隊長くらいだし、そもそもあの人の生家もあまり良い噂聞かないしな」

「だなー、部隊長のお気に入りだからって毎回仕事の邪魔すんなって話だけどな」

「仕事って言っても殴るくらいしかしてないだろ?」

「バカ言え、気持ちよくもしてやってるぞ?」

「お前よく古代種エンシェントなんかとできるよな……」


 宗教狂い……もしかしてファルナのことじゃない?

 それに古代種エンシェントって、これは当たりでしょ。


 ただ、こいつらの話から考えられることは心底気持ち悪い……

 一番当たって欲しくない予想だったのに……


 その場で殴り倒して尋問したい気持ちを抑え、男たちの”仕事場”まで後をつけた。

 着いた先は市街の生活エリア内にあるさくに囲まれた異様な建物。

 平屋建てで敷地面積は民家2軒分程度、真四角で窓はなく、某ゲームで初心者が建てような外観だ。


 隠密ステルスのお陰で簡単に入ることができた室内は、仕切りもなく柱が立つだけの大部屋。そこに数名の兵士が退屈そうにカードゲームに興じている。

 つけてきた男たちは部屋の一角にある地下へ続く階段に真っ直ぐに向かっていき僕もそれに続いた。


 ……最低だ。


 地下に下りて確信した、この場所はやっぱり奴隷を収容している施設だ。

 いや、施設とは呼べない、これはただの地下牢。

 入口と男たちが監視する場所以外は灯りはなく、真っ暗な闇の中に無数の気配と陰鬱な空気、そして据えた臭いが漂っていた。


 降りて早々に男の一人が魔導具のランプを持って奥へ向かっていく。


 その灯りで通路を挟んで鉄格子で仕切られた部屋が並んでいるのが分った。

 少しすると抵抗する気力も失った霊樹精エルフの女性を乱暴に髪を掴み連れて戻り、薄気味悪い嗜虐的な笑みを浮かべている。



 ――あ……やめっ…………


 思わず口に出そうになった言葉を飲み込んだ。


 男たちが油断したときに鍵を奪うなり、隙を衝いて牢を壊すなりして、ここの人たちを逃がすべきだ。分かってはいた、理解はしていた、でも……


 霊樹精エルフの女性が着る、ボロ布に首を通す穴をあけたような服をたくし上げて覆い被さり、反応がないことに理不尽に怒り殴りつける男に我慢ができなかった。



*****日本語スラングがぁぁぁ!!!!」


 飲み込んだ言葉は罵倒に変って口から出た。

 全身の血が一気に沸騰するようだ。


 僕は霊樹精エルフの女性に覆い被さる男の顔面を蹴り上げた、力加減など知ったことか。


 ――全員ぶちのめしてやる……


 シエル村でも似た光景は見た、行く先々でも人の汚い部分は当然あった。

 だからと言って順応するのは違うだろ?ましてや許容するなんてもっと違うだろ!!



 僕は間違ってないよalmA!!

 浮かぶ多面体はいないがそんなことは関係ない。

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