ep6.5.少年の心を取り戻せ

■後神暦 1325年 / 夏の月 / 地の日 pm 03:00


――アルカンブル砦 倉庫


 窓の少ない場所で生活をしていると日の光で感じる時間感覚が段々と狂ってくる。

 砦の性質上、仕方のないことだが規則的に寝起きしている兵士と違い、ほぼ自由裁量で仕事をしている僕たちの感覚は完全に狂ってしまった。


 最近ではお昼過ぎに起きて遅い夕食くらいのタイミングまで物資の搬出をしていることはざらにある。



「やっぱり規則正しい生活って必要だよね……目覚まし時計作ろうかな」


「何それ?」


「街とかでも鐘で時間を報せてたでしょ? 前世では時計にその機能を組み込んで決まった時間に起きれるようにしてたんだよ」


「へぇ~、でもどうやって作るの? 製造所?」


 そこなんだよね。

 拠点で造っちゃえばすぐなんだけれど、起きて倉庫で荷物を出してご飯を食べるだけの生活だとちょっと変化が欲しくなっちゃうよね。



「自分で作ろう!」


「作るって……ミーツェ時計作れるの?」


「作れないよ。だけど僕に秘策あり、だよ」


 僕はむふーっと自身あり気な態度でティスを連れて倉庫の物陰から拠点に戻った。



――製造所


「やっぱり、ここで作るんじゃない」


「違うって。ここで作るのは部品だけ、組み立ては自分でやるよ」


 工作って心躍るよね。

 振り返ればリム=パステルではハメられて地雷系の服を着せられたり、この砦に来る前はサーシスさんに女らしくないと所作について指導されたし、いざ砦に着いたら似合わないドレスを着せられた。

 ドレスは事故として、男所帯のこの砦では淑やかさなど求められていない。

 ポジティブに考えたら僕の壊れかけの男心を修復するには絶好の場所だ。



「いいかいティス、歯車を用いた物造りはロマンなんだよ。覚えておくといいよ」


「何言ってるか分からないけど、楽しそうで良かったわ……」


 用意するのはノコギリ、手動ドリルなどの工作具、それに鉄の棒や複数の歯車といった部品になるもの。全て出来るまで時間がかかるので、製造所の3Dプリンターもどきから出来上がった分だけを持って倉庫へ戻った。



「まず空き箱を分解して半分くらいの高さで上が開いた箱を作るでしょ、そこの側面に2本の鉄の棒を通す為の穴を開けます」


「うんうん」


「そうしたら、鉄の棒に歯車コレを通して交互に噛み合うようにします」


「なんで?」


「変速歯車って言ってね、嚙合わせる歯車の大きさを変えると回転する速さを変えられるんだよ。例えば歯が5個の歯車と10個の歯車を嚙合わせると、5個の歯車が1回転しても10個の歯車は半回転しか出来ないんだ」


 僕が作ろうとしているのは時計と言うよりタイマー。

 歯車を重ねて一定の時間が経ったら仕掛けが動くようにする物を作ろうと考えた。



「何となく分かったけど、それに何の意味があるの?」


「リム=パステルで造った遠心分離機のモーターあるでしょ? あれって一定で回り続けるんだけど、それと組み合わせて目覚まし装置を作るんだよ。そろそろ出来上がってるかもしれないからもう一度拠点に戻ろう」


 そうして拠点から持ち帰ったのは、鉄製の箱とホーンが組み合わさった部品、スプリング、薄い鉄板、小さな鉄芯、銅線、圧電素子だ。

 ホーンのついた部品以外は全て組み合わせて一つの部品にする、ハンマーで圧電素子を叩いて電気を発生させる電子ライターの着火部のアレだ。



「どんな物になるかはさっぱりだけど、組み上がっていくのはワクワクするわね」


「でしょ~? 分かってもらえて嬉しいよ~」


 カチカチと電気を発生させる部品はティスも興味を持ってくれたようだ。

 歯車の時限装置に着火装置を組み合わせ、そこから伸びる銅線をホーンのついた箱に繋げる。こうして蓄音機に似た形の自作目覚ましが完成した。



「で、最後はこれを箱の中に入れて準備完了だよ」


「え……それって……」


 僕が取り出しのはリム=パステル防衛戦で双子が魔粘性生物スライムを撃破した対戦車ライフルの銃弾たま。子供の手より大きな薬莢、その中の火薬を銅線が繋がった箱にさらさらと詰めていく。



「爆発しない?」


「するよ、その音で起きようかなーって」


「正気……?」


 気づけば時間もだいぶ経っていたので、出来上がった目覚ましを部屋に置いて僕たちは食堂で夕食をとり、夜は不安がるティスを宥めて就寝した。


 毎回火薬が必要だったりモーターの寿命を縮めたりとコスト面は最悪の目覚ましだけど、工作が出来て僕は大満足だった。



 ~ ~ ~ ~ ~ ~



――翌朝


 …

 ……

 ………


 ――!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 部屋に轟く爆発音で僕とティスは飛び起きた。

 それどころか付近の通路にいた兵士さんたちが敵襲と勘違いし部屋に踏み込んできたことで、二重に驚いた僕はただ尻尾を逆立てて固まっていた。


 その後は偉い人に怒られ周りからは”頭のおかしい娘”のレッテルを貼られてしまった……

 当然目覚ましは二度と使用禁止と厳命されお蔵入りが決定した。



 くそぅ……ただちょっと少年の心を取り戻そうとしただけなんだよalmA……

 僕は浮かぶ多面体に泣きついた。

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