ep4.狂信者2

■後神暦 1325年 / 夏の月 / 地の日 pm 01:10


――アルカンブル砦 監視塔内部


 砦壁るいへきに繋がる監視塔の階段からalmAに乗って滑り降り兵舎を目指す。

 この砦は外壁の他に内側にも建てられた内壁で主要部も護る構造になっている。

 兵舎は内壁の内側、行けば誰かしら居るはずだ。砦に向かってくる集団のことを伝えてからアーロさんに言われた通りに自室に逃げ込もう。



歌姫ディーバ!! なんでこんなとこにいんだ!?」


「荷出しの息抜きに……それよりも砦に突っ込んでくる集団が迫ってますよ!!」


「あぁ、知ってる。もう内壁の門締められちまってるぞ?」


 ジャスパーさんの言う通り、内壁の格子状の鉄門が下りている。

 襲撃の情報は既に伝わっているようで、集結した兵士たちが迎撃の準備に取り掛かっていた。



「どどどどうすれば良いですか!?」


「うーん……ここに隠れるか、あっちの監視塔から壁に上がってぐるーっと反対側まで行って反対側の内壁の門を開けてもらうかだな。こっち側は流石に開けてやれないけど向こうなら何とかなるかもだ」


 どっち選んでも怖い思いをしそうだよ……ジャスパーさんの言う『あっちの監視塔』は確かに戦闘狂バーサーカー集団が迫っている場所からは遠いから急いで逃げれば巻き込まれなくて済むのかな……



「……わかりました、反対側に行ってみます」


「おう、心配すんな! アーロも昨日言ってただろ、砦もお前らも必ず護ってやるぜ!」


 ブンブンと手を振って走り去るジャスパーさんを見送って、僕も降りてきた監視塔とは別の塔へ急いだ。

 リム=パステルで魔物との総力戦もヨウキョウでの反乱も経験しているが、人同士が大勢ぶつかり合う戦闘なんて経験がないし、したくもない。


 集団は目前なのだろう怒号が遠くから聞こえてくる。

 almAに掴まる手にもティスを抱える腕にも力が入り『痛いわ』と訴るティスに謝り力を緩めたが、正直きちんと緩めることが出来ていたか分からない。



 監視塔の階段を全速力でalmAに登ってもらい砦壁に出ると、既に戦闘は始まっていた。

 砦は堀に囲まれているので弓や魔法を撃ち合っているようだ。

 巻き込まれないようにalmAに抱き着くように姿勢を低くして現在地から反対側の監視塔を目指すが、壁外を僕と同じ方向に向かう一団が目に入った。



「ヤバっ……あれって別動隊?」


「でも人数も少ないわよ。それに何あれ、旗を振ってるわ。あんな滅茶苦茶に振って何の意味があるのかしら?」


「見るからにまともじゃないね、とにかくあの人らより早く反対側から逃げよう」


「たくさん戦ってきたのにミーツェって相変わらず怖がりよね。

大丈夫よ、いざとなったらあたしの幻覚で護ってあげる!」


 いや、マジで期待してるよ。

 ポータルで逃げるって手もあるけれど、人の目が多いここで使うのは憚られる。

 ただ、本当に追い詰められたら躊躇いなく使おう。


 壁上の兵士も旗振り狂人が先頭を走る集団目がけて弓を放っているようで、進むにつれて人数を減らしてる。ただ、どんなに人が倒れようがおかまいなしに集団は進み続け、先頭の旗振り狂人も相変わらず壊れた玩具のように旗を振り回している。


 あまりの狂気にゾッとした僕は目を反らし前だけを見てalmAを走らせた。


 そうしてようやく目的の監視塔のある壁上に辿り着き、壁外を見るとあの集団はもう数名しか残っていない。これはもう戦闘どころではないだろうと安堵したのも束の間、先頭にいた狂人が単騎で突っ込んできた。



「あの人何してんの!? 堀に落ちちゃうでしょ!!」


「ねぇ、あれってアーロさんが話してた橋から叫んでた少女じゃない? 兵士って言うより村娘って感じよ」


 旗にばかり目がいっていたが、ティスに言われてよく見てみると確かに若い女性で、とても正規軍の兵士とは思えない。身に纏う鎧もどちらかと言えば鎧に着られていると言った方がしっくりくる。


 それに武器が数がおかしい……


 剣を腰にさげているのは分かる、でも背中に槍を3本も背負っているのは理解できない。

 バカでかい旗まで持って明らかに兵士ではない女性が持てる重量を超えている。



「ちょ! あの子跳んだわよ!!」


「……は?」


 少女は堀に向かって馬ごと跳んだ。そんなことをしても堀は越えられない。

 血迷ったかと思ったが、女性は迷う事なく馬を踏み台にして馬上から跳躍した。


 それでも当然壁の高さに届くわけがない、このままでは壁にぶつかり落ちてしまう。

 しかし、女性は壁の石材の隙間に槍を突き立て、足場を作り再び跳躍、それを三度繰り返し砦壁を登ってきた。



「バケモノじゃん……」


「どうするのミーツェ、監視塔はあの子の奥よ?」


「引き返したい……けど、ここに居る兵士さんで抑えるかな?」


 兵士たちを侮っているわけではないが、あんなバケモノムーブをする狂人相手に無事でいられるか心配になる。後で死んだと知らされたら僕はきっと後悔するだろう。



「う~……嫌だけど、戦おう。ティス、ここで待ってて」


「わかったわ、でも危なくなったら魔法使うから迷わず逃げてね」


 手持ちの武器はテイザーガン、ハンドガン、それと砦で一目惚れして譲ってもらった戦棍バトルメイスが一本。手に馴染んだ武器ハンマーがないのはいささかか不安だ。



「我が名はファルナ=ティクス!! 異教徒ども!! 直ちに降伏し、オーレリアを囲む砦から撤退せよ!! さもなくば女神エストの名の元に粛清する!!」



 ファルナと名乗った女性は旗を掲げ、単騎で乗り込んできたにも関わらず降伏要求をしてきた。

 普通に考えれば頭がおかしくなったのかと思ってしまうが彼女の眼は本気だ。

 それどころか瞳孔は開き血走っている。もしかすると危ない何かをキメてるのかもしれない。



「や、やっぱり接近戦は止めとこうかな……」


「そうね、あの子眼が普通じゃないもの」



 この世界で振り切ってヤバい奴の二人目だよalmA。

 僕は浮かぶ多面体を壁にテイザーガンを構えた。

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