ep3.狂信者1
■後神暦 1325年 / 夏の月 / 天の日 pm 04:00
――アルカンブル砦 倉庫
僕たちが砦に出発した後、追加で輸送したい物資があれば自宅にあるポータルから拠点に運んでもらうようにお願いはしていたが、まさか初めに搬入した量の数倍になっているなんて思わなかった……
きっと自宅は連日引っ越しみたいなことになっていたんだろうと想像できる。
「ハァ……ハァ……おえっ……疲れ過ぎて気持ち悪い……」
「任せて! 風よ!!」
ブイーンとファンが回転する音に続いて頭上からそよ風程度の弱々しい風が僕に送られる。
偵察用に2機造った
ヨウキョウで何度もalmAに上空偵察をしてもらって時間をロスした教訓から、僕も移動中に何か出来ないかと思って作ったのだが、結局、ティスとオーリの玩具になってしまった。
「ねぇ、風魔法で扇いでくれるんじゃなかったの……?」
「アハハ、ごめんって。ちょっと待ってね」
ドローンを着陸させたティスが悪戯に笑いながら風を送ってくれた。
自然の風と違い、纏わりつくように流れる風は、熱を取り去り汗ばんだ身体を快適な体温に戻してくれる。
「……ありがとう。オーリもだけどティスも随分ドローンを気に入ってるよね」
「えぇ! 自分で動かせるのが楽しいわね。
花畑では花びらを風魔法で飛ばす遊びとかしていたけど、ドローンみたいに思い通りに飛ばないのよね」
そっちの遊びの方が僕からすれば楽しそうだと思うけどな……
まぁドローンは
「そうなんだね、でもそろそろ切り上げるからドローンはサックにしまってくれる?」
「う~ん、仕方ないわね。じゃあご飯食べにいきましょう! まだ旅楽団いるかしら~?」
「アハハ……イナイデ欲シイナ」
不思議そうな顔をするティスを軽く流し、搬出をした旨を商会の人に伝え食堂へ向かった。
突然大量の物資が倉庫に出てきたのに書状の指示に従って詮索はしないのは流石プロの商人と言ったところだろうか。
明日以降、各砦に複数の馬車で運搬をするそうだ。
何度か往復するそうなので、その間に残りの物資を搬出しておこう。
――食堂
「良い匂いがしてきたわ~、早く行きましょ!!」
「お、
くんくんと鼻を鳴すティスに着席を急かされる僕に、数席奥から大声で手招きする男性がいた。
無精髭の隻眼、昨日僕を拉致した
無視を決め込もうとしたが、そうはいかなかった。
聞こえないふりをし、そっぽを向いた瞬間、
「おう
「ミーツェ、知り合い?」
「……うん」
楽団のときといい、強引な人だ……
僕らは
「君は昨日の子じゃないか、どうしてジャスパーに絡まれているんだい?」
「絡んでなんかないぞ。それよりアーロ、夜間哨戒だったお前も
兵士さんがアーロ、
アーロさん大正解だよ、絡まれるどころか昨日は拉致られましたよ。
彼、悪い大人なんです叱ってください。
「昨日、ジャスパーさんに酷いことされました……」
「なっ!? お前、何したんだ!? まさかこんな幼い子に……」
「いやいやいや!! 違うって、楽団員だと勘違いして楽屋まで連れてっちまったんだよ!! そうだよな!?
「え? ミーツェ、楽団見たの? ずるいわ!!」
僕たちの席は
ジャスパーさんを問い詰めるアーロさん、
僕に誤解を解くように頼むジャスパーさん、
楽団を見れなかったことにむくれるティス、
誰か助けてくれ。
当事者ながら言い合う様を傍観した。
そして暫くすると少し落ち着いたようで、ジャスパーさんが話題を昨日のことに変えた。
「いや、まさかセルリアン商会から物資を運んできた奴だとは思わなかったぜ。でもよ、歌も良かったぜ! 正に完璧で究極の
「え~、あたしも見たいわ! ねぇジャスパー、今日は
いや、どこかで聞いたことあるよ、そのフレーズ。
それになんでティスは呼び捨てにするくらいにジャスパーさんと意気投合してるのさ、仲良いな。
「楽団の話ではないが、ミーツェくんは暫く砦に滞在する予定かい?」
「あと数日はお世話になると思います」
「そうか……もしかするとこの砦も近々ヴェルタニアと戦闘になるかもしれないんだ。
そうなったら絶対に部屋から出ないでくれ。我々が必ず砦も君たちも護って見せる」
アーロさんの話では城塞都市と化したオーレリアを取り囲んでいる砦は此処を含めて六つあるそうだ。
オーレリアの正面で河川を挟んだ位置にある、ここアルカンブル砦。
その河川の西側の橋を護るディズエール砦。
対岸側に建ち、西からの補給を妨害するクロワス砦、プレアプス砦、サエール砦。
そして東側の橋を対岸側から護るルアンダル砦。
僕たちが居るアルカンブル砦は元々オーレリアと繋がる大きな橋が中州を挟んで二つあったが、今は防衛の為に破壊してあるそうだ。つまりもしアルコヴァンに攻め込もうとしても東西の小さな橋を渡るしかなく、相手は大きな戦力を送り込めないらしい。
これが、長年オーレリアを占領されても、それ以上進軍されていない理由だと教えてもらった。
「何日か前にどうやって中州まで辿り着いたのか分からないが、落とした橋の対岸から少女が一人でこちらに叫んでいたんだ」
「ヴェルタニアの人ですか?」
「魔人族だし恐らくね。少女曰く、『オーレリアはヴェルタニアの地、これは女神エストの意志である』だそうだ」
「すっごい暴論ですね……」
「だがその少女が昨日、先頭に立ってルアンダル砦に攻め込み陥落させてしまったんだ。しかも兵士だけではなくオーレリアの民衆も巻き込んでだ」
今日届いたルアンダル砦の生き残りからの報告では最前線で戦う少女も続く民衆や兵士は狂ったように戦っていたそうだ。
ジャスパーさんが軽いノリだったので気づかなかったが、言われてみれば周りの兵士は少し緊張した空気になっている。
「奴らも補給にオーレリアに戻るだろうし、実際戦闘になるとしても数日先の話だ。それにもしそうなったとしても、先ほど言ったように必ず護るから安心してくれ」
「はい、でもそうならないと良いですね」
「まったくだ」
食事を終えた僕は、安心しろとは言われたが内心不安になりならが自室へ戻った。
~ ~ ~ ~ ~ ~
■後神暦 1325年 / 夏の月 / 地の日 pm 01:00
――翌日
「ねぇティス、ドローン飛ばしたいからってここまでくる必要あった?」
「やっぱり室内より外の方が思いっきり飛ばせた良いじゃない!」
ドローンで遊びたいティスに搬出の息抜きと言われ、倉庫から少し離れた
セルリアン商会はよほど信用があるのだろう。
「……ミーツェ、ちょっとこれ見れ」
僕が一人で納得をしていると、ご機嫌で操作をしていたティスが急に真剣な顔でドローンのカメラからの映像をこちらに向けた。ティス用の小さなディスプレイには土煙をあげてこの砦に向かってくる騎乗した集団だった。
「嘘……これってヤバくない?」
まさか昨日聞いた少女と
補給に戻るってアーロさん言ってたよね!?almA。
僕はティスを引っ掴んで浮かぶ多面体に飛び乗った。
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