ep2.紛争地帯へ2

■後神暦 1325年 / 夏の月 / 獣の日 pm 02:00


――アルコヴァン オーレリアへ続く街道


 お馴染みになったティスの入れるサックを背負いalmAに乗って街道を進む。

 結局、今回の依頼を受けることにした僕は、変わり映えのしない街道の景色をぼんやりと眺めながら一昨日からの出来事を思い返していた。


 ウカノさんが帰ったあと、ティスに経緯を話し、僕の能力が戦争利用されることや、奴隷制度への嫌悪感を吐き出した。特に否定されることもなく、それを含めてどうしたいか聞いてくれたことで話しながら自分の気持ちを整理することができた。


 翌日には島へサーシスさんにも相談に行き、彼女の見立てでも霊樹精エルフ誘拐の拠点になっているのは地理的にオーレリアだろうと言われたことが依頼を受ける決め手になった。


 その後すぐベリルさんに先日の謝罪と依頼を受ける旨を伝え今に至る。

 ただ、いつ戦場になるか分からない場所に赴くのはやはり不安だ。



「複雑そうな顔ねぇ。大丈夫よ、すぐ渡してすぐ帰れば良いんだから! それよりも留守番させてるオーリとヴィーあのこたちのお土産の心配をした方が良いわ」


「はは、確かにそうだね。あんまり待たせたらまた怒られちゃうしね」


 悶々としているとティスが僕の顔を覗きこみ話題を振ってくれた。

 彼女の言う通り、双子へのお土産選びのように明るい事を考えた方が良い。


 あの子たちも駄々をこねていたけれど、戦場になんて絶対連れていけない。

 これについては僕は譲ることが出来ない。

 夜間は拠点に戻るけれど、日中の移動や砦に滞在する間は双子はお留守番だ。


 ただ、子供だけで待たせるのは不安だったので、事情を話してサーシスさんに島で面倒を見てくれないかお願いしたところ二つ返事で受けてくれた。優しい彼女の元でなら少しは寂しさを感じないはずだ。


 少し前向きになれた僕にティスは続ける。



「そう言えば目的地まではどれくらいなの?」


「聞いた話では馬車で20日以上かかるって言ってたけど、almAなら半分以下の日数でいけるんじゃないかな?」


「じゃあお土産は行きで買って行きましょう、帰りは扉で戻っちゃえばいいわけだし」


「そうだね、途中の街で良さそうなものを探して先に渡すのもアリかもね」


「向こうについた後は?」


「砦にセルリアン商会が駐在する場所があるらしいよ。そこで物資を出してあとは現地にいる商会の人がやってくれるみたい」


 オーレリアを取り囲む砦は複数あるそうだ。

 物資や資金を提供している軍部にとってのパトロンであるセルリアン商会は、砦の中でも一番大きく堅牢なアルカンブル砦という所に部屋だけではなく倉庫用のスペースまで用意されているらしい、凄いよね。


 砦の倉庫スペースに物資を搬出するまでが僕の役目で、駐屯しているセルリアン商会の人にも軍部の人にも詮索無用との書状をベリルさんがしたためてくれた。

 拠点の力このちからを秘匿できるのは有難いことだけど、ムルクスさんが手伝ってくれた搬入とは違って、搬出は一人でやらないといけないのは今から憂鬱だ。



「あっ!! ミーツェ!! 川沿いの村よ、カニあるかしら~?」


「まだ飽きてなかったんだ……いいよ、あったら買って行こう」


 今日の移動はここまでにしようかな。

 初日だし早めに戻ってあの子たちとの時間も大切にしよう、と言うか僕にはそれが一番なんだ。



 ~ ~ ~ ~ ~ ~



■後神暦 1325年 / 夏の月 / 黄昏の日 pm 04:00


――オーレリア周辺 アルカンブル砦前


 石造りの外壁に馬車がすれ違えそうなほど大きな跳ね橋。

 建物を囲むのは外敵の侵入を拒む河川の水を引き入れた深い堀。

 砦と呼ぶよりは城と呼んだ方がしっくりとくるアルカンブル砦に僕たちは到着した。


 馬車で20日以上かかる道のりを僕たちは約8日で走破した。

 早く依頼を終わらせたい僕たちは、安全そうな区間を子供たちが寝た後に数時間だけ夜間移動をしていた。お陰で初日の宣言通り半分以下の日数で到着することができたんだ、もちろんお尻も無事だ。



「大きいわね~、見上げてたら首が痛くなっちゃいそう」


「だね~、ここが包囲戦をしている場所じゃなかったら古城観光の気分を味わえたのになぁ……ちょっとだけ残念だよ」


「でも二人だけで旅するのって久しぶりだったわね、花畑を出たとき以来?」


「うん、リム=パステルに戻るときも二人だったけど、あの時はそれどころじゃなかったもんね」


 確かに道中はなんだかんだで楽しかった。

 ティスとの二人旅は初心に返ったようで目に映る景色も新鮮だったような気がする。


 今更ながら旅行気分を味わえていたことに気づき機嫌良く門へ近づくが、楽しい気持ちに水を差す奴がいた、やたら偉そうな狼人族の門番だ。



「おい、ここは軍事拠点だ。お前らみたいなガキが来るところじゃない、しかも何だ? 妖精族なんておぞましいもん連れやがって」


 は? こいつ今なんつった? 僕の家族を悍ましいと申したか?

 よし、これで撃とう。


 気分を台無しにされただけじゃなく、ティスをけなされて頭にきた僕は対人用に持ってきていたテイザーガンに手をかけた。

 短絡的ではあるが、家族をバカにするのは僕にとってのタブーだ。


 これはワイヤーに繋がった電極を撃ち出して電気ショックを与える銃だ……死にはしないけれど精々ビクンビクンするといいよ……



「バカ者!! 事情も聴かずに追い返す奴があるか!!」


 いよいよ銃を抜くところで、奥から門番こいつより職位が高そうな同族の兵士が出てきて男を𠮟りつけた。怒られてやんの、ざまぁみろ。



「すまないね。それで、お嬢さん方がここにきた理由を聞いて良いかい? 家族に会いに来たのかな?」


「いいえ、セルリアン商会のベリル代表の依頼で物資を届けにきました。書状はこちらに……」


 子供扱いされたのは少し複雑だけれど、話を聞いてくれる人がいて良かった。

 きっとこの人にも家族がいるんだろうね、面会を想定して初めから丁寧な対応だったのだと思う。そして門番あいつは独身だ、異論は認めない。



「君みたいな子供が……? それに荷物が見当たらないが?」


「はい、理由は書状に書かれています。ご確認して頂ければ納得頂けるかと」


「……なるほど、では確認の間こちらで待ってもらうことになる。ついて来てくれ」


 少し訝しがられたが、上司っぽい兵士に連れられ待合室のような場所へ案内された。

 もちろん去り際に門番を煽り散らかしてやった、僕の家族を侮辱するのは許さない。


 その後、上司っぽい兵士の更に上位職と思われる人に幾つか質問をされ、書状と齟齬がないとのことで砦に入る許可が下りた。


 砦は石造りのしっかりとした構造だが、内部は一部木組みで内壁を造り居住性も確保している印象だった。

 僕はセルリアン商会の居住区域に案内され、駐在している商会関係者に挨拶をした後に割り当てられた部屋に向かった。



「はぁ、一息つくと明日からの荷出しを考えるとちょっと憂鬱だなぁ」


「あたしも手伝うから心配ないわ」


「ティス荷物持てないでしょ……」


「風魔法で暑くないように扇いであげるわ!」


 あ~なるほど、期待してるね……つまり僕一人で運ぶのは変わらないわけだね。

 いや、僕にはalmAがいる、こんな時こそ相棒の出番だよ。


 ティスより期待してるねalmA!

 僕は浮かぶ多面体に媚びた笑顔を向けた。


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【KAC20241】企画の短編『〇〇には三分以内にやらなければならないことがあった。』で、ミーツェたちがアルカンブル砦に到着する前に立ち寄った町の住人のショートを公開しています。良かったら覗いてみてください。

 https://kakuyomu.jp/works/16818093072974053732/episodes/16818093072974075582

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