ep4.部隊編成の力
■後神暦 1323年 / 春の月 / 海の日 am 07:00
安心できる拠点でぐっすり眠り気力も全快。
今日からしばらくは部隊編成の検証と拠点確認の二軸で進めていこう。
分かりやすいように編成をメルミーツェのみに戻してみよう。
―…Ready
UMTのReady表示と共に少し身体重くなるのを感じる。
昨日へし折った角をもう一度力いっぱい叩きつけるが、コンっと可愛らしい音をたてバウンドする。
「やっぱり、フィジカルお化けの”オルカ”を編成から外したからかな?」
―…Ready
今度は”オルカ”を編成にセットし、角を叩きつける。
メキっと可愛げのない音をたて折れた角が更に折れて砕けた。
「おぉう…すごいね…」
手元の端末に映っているのは熟知しているキャラクターたちではあるが、始めたてのゲームをプレイするような手探り感にわくわくしてしまう。
「次は熱操作のスキル持ちの”エリアス”を編成してみよう」
―…Ready
急に視界のUMTの文字が急ぼやける。さらに耳の奥がざわつく。
「あ、あれ? 目が…音うるさっ!!」
もしかしてエリアスの設定?生まれつき目が悪い代わりに聴力が発達したってプロフィールに書いてたし。
目を細めてUMTを操作してエリアスを編成から外すと視界が戻る。
―…Ready
「急に五感が変わるのは気持ち悪い…」
身体的にデメリットな部分も反映されるんだね、覚えている限りでは盲目のキャラは居ないからUMTを操作できなくなる事態にはならないと思うけど、隻眼とか補助具なしで歩けないキャラもいるから気を付けないと。
「お腹も空いたし、いったん休憩して次は拠点の確認をしよう」
~ ~ ~ ~ ~ ~
ウサギもどきの肉を食べて思う。焼くだけではやっぱり味気ない。
「せめて塩が欲しい…」
味としてもそうだけど、低ナトリウム血症も怖い。
現状解決に使えそうな設備は二つ。
一つはゲームでクラフトの際に消費する元素値と呼ばれるポイントさえ足りていれば謎プリンターで大体のものが作れる製造所。
もう一つは物質を元素まで分解、元素値として変換しプールするリサイクル施設。
「ゲームで溜まった元素値が使えればいいなぁ。よしっ!行こう、almA!」
――拠点内、製造所
《 元素値「Na」「Mg」「K」「Ca」が不足しています 》
「ですよねー…」
予想はしていた、ゲームでは元素値といっても数字として一括りになってし、
だから欲しいものの元素が足りない可能性が高いことも予想してた、予想してたけど…
「ないと言われるのは心にくるなぁ…」
まずは元素値を稼がないといけないから、リサイクル施設は場所の確認だけにしておこう。
そもそもリサイクル施設は設置数に応じて変換レートが上がるから各階層に設置してある。
このフロアのもので使い方だけ確認して日のあるうちに森に戻ろう。
~ ~ ~ ~ ~ ~
そこからは森で拾う、拾う、何でも拾う、拾ってはリサイクル施設に投げ入れる。
食べられそうなものはalmAで分析、ダメならリサイクル施設に投げ入れる。
順調に採集しているとalmAが目の前で警戒音を鳴らす。
心当たりがあり過ぎる既視感に身構えた直後、ウサギもどきが現れる。
「ですよねー!!」
二度目とは言え、当然怖い。怖いけど今は部隊編成でキャラをセットしている。
一人だけど独りじゃないんだ、almAもいるし今回は僕も戦える!!
突進にカウンターを狙うように拳を構える…が…
ウサギもどきはalmAをすり抜けて走り去っていく。
「…は?」
何が起きたか解らず思考停止し、走り去るウサギもどきの後ろ姿をただ見つめていると、突然何かに吹きと飛ばされ、後方の木に激しくぶつかる。
――バリンッ!!
ガラスの割れるような音が響く。
状況が理解できないまま体を起こすと目の前に牙が異様に発達したイノシシが土を蹴っている、今にも突進しますよと言わんばかりの姿勢だ。
良かった、シールド張れる
ウサギもどきはこのイノシシもどきに追われていたんだ。
シールドは3枚、突進を受けたときに1回、木にぶつかって1回割れた。再展開は1分後、それまで許された被弾は後1回。手が震える、熊くらいのサイズのイノシシ、怖くないはずがない。
本当は逃げるのが正解なのかもしれないけど、やらなきゃ今後生きていけないんだ。覚悟を決めないと…!
セットしてしてきた編成はプロフィールが狩人の
武器がない今は素手で戦えるようにしたけど、もう少しバランス考えておけば良かった…変更は間に合わない、でも後悔しても仕方がない、これでやるんだ!集中しろ!
「almA! 防いで!!」
多面体の前面が傾斜のついた盾のように変形し、突進してきたイノシシもどきをしゃくり上げた、今だ!
”
「うあぁぁあぁぁぁああぁあぁぁあ!!」
ミシミシと音が聴こえてきそうな腕を振り上げ、体制を崩したイノシシもどきに
限界異常に上がった筋力から渾身の拳を叩きこむ。
スキルで身体のリミッターを外した一撃は反動でこちらの筋組織も壊していく。
反動ダメージまでゲーム通りに再現しなくてもいいだろうに…
痛い痛い痛っっったい!!でも今畳み掛けないと…!
「almAぁぁぁ!!」
「ピギィィ!!」と大きく鳴き足をばたつかせるイノシシもどきの眉間にalmAの変形したスピアが突き刺さり、一度だけビクンと大きく跳ね動かなくなった。
「はぁ…はぁ…ふぁぁぅぁ……」
緊張の糸が切れへたり込む。
「戦えたけどやっぱりalmAがいないとダメだね…」
そりゃそうだよね…前世のゲームの力で強くなったつもりで気が大きくなっていた…いくら知識や力が身についたって僕が使いこなせないといつか自滅する。
原付にジェットエンジン乗せて爆発四散するような結果だけは絶対に避けたい。
今後は能動的に狩りをして少しは戦うことに慣れていこう。
――その後は編成でセットした狩人の知識のおかげで鮮やかにイノシシもどきを解体し、鮮やかに吐いた。
イノシシもどきの不要な部分を含めて採集したものの元素値で、エナメル質製の小皿や数グラムの塩を作ることができた。これは苦労に見合う成果と言って良いんじゃないだろうか?
「やったよalmA~、少ないけどこれで味付きの食事ができるよ~」
小皿を片手に僕は浮かぶ多面体に頬ずりする。
◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇
[chap.1 目覚め~無人島探索]をお読み頂きありがとうございます!
この後は閑話を挟み、次章に移ります。
次章は生活が安定してきたメルミーツェは新天地に向けて出発します。
引き続きお付合い頂ければ幸いです。
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