ep3.勝ちました

■後神暦 1323年 / 春の月 / 地の日 pm 01:40



「困った……」


 almAが倒してくれたウサギもどき、毒や細菌・寄生虫がなければ食料になる、なるけれども……


「自分で捌かないといけないよね……」


 猟師や調理師でもない僕には、野生動物を解体する技術がない。

 そもそも皮を剥ぐとか想像するだけで眩暈がする。

 でも……生きる為には食べないと……



「慣れないとね……頑張れ……僕!」


 そこからは本当に本当に大変だった。


 皮を引っ張ってズルズル剥ける様に吐いて、

 almAにウサギもどきのお腹割いてもらってはグロさに吐いて、

 角以外の恐らく食べられない部分を埋める最中に思い出して吐いて、

 きっと専門職の人が処理したソレよりずっと少ないだろうけど何とか肉を手に入れた。


 ……僕は本当にこの世界で生き残れるのでしょうか?



「うーん……火はどうしよう。

ゲームだとalmAが火炎放射使う描写はあったけど……almA、できる?」


――……


 ウンともスンともしない、できないのか……自力でやるしかないね。

 動画で見た程度のぼんやりとした知識だけど……確か必要なのは木の板に種火になるもの、あと手ごろな棒。

 刃物はalmAが使えるから道具は作れるとして問題は僕の体力か……いくぞ……!!



「んぐあああぁあぁぁあぁぁ!!!!」


 必死にきりもみ式の火起こしを試みるも火どことか煙すら上がらない。

 腕とれる! 手の平の皮どっかいっちゃう! 無理だ!

 火起こしってこんなに大変だったんだ……文明に依存した現代人は非力すぎる……



「almAぁ……」


 了解と言わんばかりに多面体の一部が棒状に変わり回転を始める。



「おぉう……さすが文明を超えたオーパーツ」


 あれだけ必死になってもできなかった火起こしを簡単にこなすalmA。

 僕は自身がメルミーツェであったことに深く感謝し、焚き火で肉を焼いて空腹を満たした。


 …

 ……

 ………

 …………


「よし、日が暮れる前に戻ろう」


 どれだけの日数保存できるか分からないが、残りの肉を持って帰路についた。



 ~ ~ ~ ~ ~ ~


 

 木のうろに戻り、今判っていること情報を整理する。



 ・この世界はゲームの世界とは違う。

 それでも全ての感覚は本物で異世界に来たと考えるのが妥当。


 ・脅威に対しては今のところalmAで対処できた。

 問題はウサギもどき以上に出会ってしまった場合。

 almAで対処できるか分からない。


 ・almAの機能には制限がある。

 ゲームだと火炎放射を使う描写があったけど何故か使えなかった。


 ガトリングも発砲音というよりも空気を撃ち出してるような音がしてた。

 もしかすると燃料や実弾の補充が必要なのかもしれない。



「僕自身が強くなれれば少しは不安要素がなくなるんだけどなぁ……」


 待てよ……もし今の状況が異世界転生だとしたらお約束のがあるんじゃなか?

 ちょっと、いや、だいぶ恥ずかしいけど……やるか!


 僕は手を目の前に突き出して叫ぶ……!



「ステータスオープンッッッ!!」


 ――オープン……ォープン……ープン…………プン………………


 僕の渾身の叫びはうろの中で虚しく木霊する。



「あああぁぁぁぁぁああああぁああああああぁぁぁぁぁ!!」


 恥ずかし! つらい!! almAなんとかして!!!!


 察してくれたかのように近づいてくれるalmAに縋って悶絶した。

 暫くして顔を上げると、多面体の上部を反転させて現れたディスプレイをこちらに向けている。



《 拠点に戻りますか? Yes/No 》



「拠点? ここじゃないの? とりえずYesで」



《 エラー 一定の空間を確保してください 》


 えぇぇぇ……


「もう少し広いところで実行しろってこと?」


 木から降りてもう一度”拠点に戻る”を実行すると、音もなく金属製の扉が目の前に現れた。



「何……? これ?」


 国民的猫型ロボットの道具を彷彿とさせるシュール光景。

 しかし、almAがやってくれたことだ……信じて恐る恐る扉を開けた。



 ――!!?


 扉の先は何度も何度も見た場所。

 ここから出撃やキャラクター・装備強化、拠点管理などをする場所。

 そう、ゲームのホーム画面で背景にあった基地指令室だ。


 都合の良い考えかもしれないけれど、此処がゲームの設定に沿った拠点だったら……?


「いいい今すぐ確認しないと!!」


 ただ問題は設定に忠実であるなら拠点内はバカ広いはず。


 アトーンメント・ノアゲームのストーリーは割と暗い。

 テーマは架空のエネルギー資源アストライトを巡る企業や国家間の戦争。

 当然、避難民や戦争孤児なんかもいっぱい登場する。


 プレイヤー拠点はそういった人を広く受け入れていた。

 その規模は小さな街と言ってもいい。


 どこから確認しようかと逡巡していると、どこからかポーンっと通知音のような音が響く。

 音の出どころを探してテーブルに目をやると見覚えのある電子機器。



「もしかして……UMT!?」


 ”Unit Management Terminal”、頭文字をとってUMT。

 主人公が使っているタブレット型の部隊管理端末だ。


 ロード画面はこれの表示だった。

 そして何よりチュートリアルはUMTで説明している描写がある!

 つまり……!!


「一日遅れのチュートリアルだぁぁあぁぁああ!!」


 さっそくUMTの画面の目を向けるとホーム画面の項目が一通り揃っている……!


 ――やった!!


 まずは拠点マップ。

 やっぱり広い、システム上の最大サイズの35階層。

 施設や設備はゲームプレイ時の配置のまま。


 スチルのみの施設はどうなっているのか、これは追々確認していこう。



「マップは一旦これくらいにして、次は部隊編成……部隊編成できるの!?」


 仲間的な? NPC的な?

 いずれにしてもalmAは頼りになるけど人数が増えるのは心強い!


 編成は8名1部隊、リーダーはメルミーツェで変更不可、これって僕がメルミーツェだから?

 他の枠にセットできるキャラクターは僕が持っていたもののみ、未獲得は使えない。


 もっとガチャ引いておけば良かったなぁ、そんなことを考えてしまった。



 取り合えず、よく使う汎用編成にしてみよう。


 セットしたキャラクターの下にカウンターが現れる。

 ゲームの様に数字がゼロになると次々と”Ready”と表示されていった。



「おおぉ! これで心細いサバイバル生活とさよなら!!」


 …

 ……

 ………

 …………


 何も起きないじゃん……”Ready”って何だよ!?

 何もレディできてないじゃん!!



「わあぁぁん!!」


 中身は大人だけど、見た目は可憐な女の子だ、泣いたって良いだろ?

 持ち帰っていたウサギもどきの角を腹いせに力いっぱい叩きつける。



 ――!!!!!!!!


 almAにぶつかっても無事だった角がぽっきりとへし折れた。



「へ? メルミーツェってこんな力持ちだっけ??」


 もしかして……部隊にフィジカルお化けの前衛を編成したから?

 セットしたキャラクターの特徴が反映されるの?

 そう言えば川でも水の分析結果が問題ないって判ったのはメルミーツェの知識?


 これって、すごくない……?



 僕の使えるキャラクターは低レアリティも含めれば200を超えてる。



 もしかしたら僕のサバイバル生活安泰かもしれないよalmA!

 僕は浮かぶ多面体に喜々として頬ずりする。

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