ep2.サバイバルって恐ろしい
■後神暦 1323年 / 春の月 / 空の日 pm 02:05
森へ移動を始めて体感数時間。周りは変り映えのしない草原の景色。
遠い…遠いよ…全然森に辿りつかない…それにもう疲れたよ…
近づいてはいる、近づいてはいるけど思った以上にペースが遅い。
どうしてこんなに遅い?
答えは考え始めてすぐに解った、歩幅が小さいんだ。
前世の大人な自分と子供のメルミーツェでは歩くペースが段違いなことに
どうして気づけなかったのか自分の残念さに辟易とする。
このままだと日が暮れてしまう、でもこんなときこそalmAですよ。
ゲームのストーリーで幾度となく出てきた描写を僕は知っている。
「almA、乗せて」
メルミーツェは基本的に歩かない。いつもふわふわと浮くalmAに乗って怠そうにしてるんだ。
声に反応したalmAはその多面体の一部が跨れるように変形し、乗りやすく高度も少し下げてくれる。
「スチルで何度も見たけど実際に乗れるなんてちょっと感動だなぁ」
自分の好きなキャラと同じことができるなんて心躍る、どうしたってわくわくしてしまう。本来は現状に抱かなくていけない危機感も忘れてalmAに跨る、が…
「なんだか…おまるに抱き着いてるみたい…」
おかしい、ゲームと同じはずなのにスチルと比べて感じる圧倒的コレじゃない感。
いやいやいや、日があるうちに森に辿り着けないのは死活問題なんだ、体裁なんて気にしてられない…切り替えていこう。
”なんか思ってたのと違う”そんな言葉は飲み込みalmAに前進の命令を出す。
原付並みの速さで移動する空飛ぶ抱きおまるに恐々としたが、日が暮れる前に森に到着し、巨木の
乗り物にもなるし、ドリルで掘削機のように木を削るとか本当に万能だ、almAがいないと数日で今世も終わってたまである。
一先ずの安全を確保でき安心すると次に疑問が浮かんでくる。
「ゲームではこんな自然豊かな風景はなかったと思うんだけどなぁ」
ライトノベルとかで自分がゲームキャラになる場合は似た世界観に転生するってパターンが多いけど、今の状況とは少し違う気がする。
やっぱり死後の世界?メルミーツェが好きだったからこの見た目になった?
でも体は疲れるし喉も乾く、この感覚は現実としか思えない…
いつか調べないといけないけど、その為にも先ずは生存第一。
「明日は川か湖を探して、それから何か食べられるものを探さないと…それから…」
移動の疲れ、緊張の解放から次の目的を考える途中に眠りに落ちた。
~ ~ ~ ~ ~ ~
翌日、水源と食料探し。
「almA、上空からの撮影お願い」
高度を上げて木々より高く上がっていくalmAを見上げながらふと思う。
今何かに襲われたら一瞬で終わってしまう確信がある…
今更後悔してももう遅い、ビビり散らかし洞の中で小さくなって待つこと数分、戻ってきたalmAに最大限の感謝の念を抱きつつ、映像の確認すると現在地からそこまで離れていない場所に大きめの川がある。
「流石に喉乾いたよね、すぐに出発しよう」
幸いalmAにはマッピング機能や先に実行した偵察機能もあるので事なきを得ているが、もしも独りだったらどうなっていたことか…
almAは万能と言って差し支えない程に多機能なのだ。今まで使ってきた機能の他にも熱源感知や成分分析、戦闘においても銃火器の遠距戦から質量法則を無視したような近距離戦まで多種多様な戦い方ができる。
あまりにも便利すぎるから、動力源は?質量どうなってるの?とか仲間に質問されてる描写がよくあったな。
ゲームのメルミーツェは「不思議だねっ!」で流していたけど多分本人は知ってると思うんだよね、そこまでのストーリー更新前に死んじゃったのは少しだけ未練だ。僕がメルミーツェであるならいつか知れるのかな?
ほんの少し思い出に耽っている間に川に到着し、さっそくalmAで成分分析。
「細菌感染とかしたら治るまで生き残れる自信ないしね」
うん、分析結果は飲料として問題なし。あれ?なんで問題ないってわかるんだろう? まぁいいか、それより水!!
顔ごと水に突っ込みがぶがぶと水を飲む。
「ぷはっ!!」
水から顔を上げ、水面に映る姿に改めて思う。
「本当にメルミーツェだ…」
分かってはいたけど、実際にこの目でみると改めて自分が置かれてる状況が突拍子もないことであることを実感する。
生き抜く為には草原でも実感した体格の小ささにも慣れていかないといけない。きっと他にも課題は沢山あるだろう。
特に食べ物の確保、前世で恐らく餓死して今回も同じとかは本当に笑えない。
「ここで釣りができれば最高だけど…」
刃物はalmAがいるから問題ないとして、魚を捌けても獣を捌くとかできる気がしない。とりあえず木の実とかキノコ、もしくは苦手だけど釣り餌になる虫を探そう。
一つの欲求が満たされると次の欲求が出てくるもので、空腹を満たす為に森に戻ろうとする。しかしalmAが目の前でけたたましく警戒音を鳴らす。
直後、木と茂みの間から角の生えたウサギ?が飛び出しこちらに向かって突進してきた。
「でかっっ!!!!」
ウサギ?としたのは見た目はウサギなのに額に鋭利な角が生えている、更にはサイズがおかしい。
ウサギの最大級サイズであるフレミッシュジャイアントは中型犬くらいの大きさらしいけど、そんなものの比ではない。
バケモノといっても差し支えない生き物に狼狽えていると前方で甲高い金属音が響く、その音でalmAが突進を防いでくれたと理解した。
しかし吹き飛んだウサギもどきは体制を立て直して再度突進の姿勢をとる。
「嘘!? almAにぶつかって無事なの!!?」
無理無理無理、あんなのウサギじゃない!!
怖い怖い怖い、逃げないと死ぬ!!
悲鳴を上げる余裕もなく森へ走り無我夢中で木に登る。ウサギもどきが諦めてくれるのを祈るが、ウサギもどきは木の周りを跳ね回り諦める気配はない。
見逃してくれない、アレを倒さないと降りることも逃げることもできない…。
絶望的な状況だが、アレが木に登ってこない小さな安堵感、そして森に逃げる僕を護るように立ち回ってくれたalmAが近くに戻ってきたのを見て恐怖に支配されていた頭がほんの少し冷静になる。
――そうだ、僕はメルミーツェでalmAがいる…だったら…!!
「almA!!
この体になってまだ一日しか経ってないけど設定に忠実なalmAならできるはずだ…!
スキルを了解したように
何度も空気が破裂するような音が響きガトリングの回転が終わるころにはウサギもどきは倒れて痙攣していた。
almAは続けて更に形を変え、ガトリングはスピアへ変わり、木の上からウサギもどきの頭部めがけて落下、今度は重く湿った音と共にウサギもどきは動かなくなった。
始めて野生動物に襲われる恐怖。生き残った安堵。
現代に生きていれば専門の職業を除き経験することない動物を殺す経験。
「…怖かったぁ」
ぐちゃぐちゃの感情のまま、ずりずりと木から降りalmAに抱き着く。
僕は半泣きで浮かぶ多面体に頬ずりする。
【almA イメージ】
https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16817330668736573399
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