ep1.此処はどこさ?

*** … 31.8%

***** … 25.4%

**** … 19.2%

****** … 23.6%


『ふふ、差が開いてきましたね』


『まだ結びには遠いと思うがの。あまり余裕を見せると危ないぞ?』


『………』


『あら? ****、諦めましたの?』


『諦めてないから! 次のは切り札だから!』


『……?』


『何も起こりませんけど?』



 ~ ~ ~ ~ ~ ~


■後神暦 1323年 / 春の月 / 空の日 am 10:20


子供のころに見たような澄み切った空、涼しい風に合わせてさらさらと鳴る草の音、寝そべった地面の感触が心地良い。


――おかしい


こんな場所にいるはずないんだ。

だって最後の記憶は自宅のソファーで横になったまま動けず霞んでいく視界…

パワハラに耐えられなくて退職、人との関わりが怖くなって仕事もできないまま引きこもった。

そして貯金もなくなり食べるもの無くそのまま……


思い返しても寒気がする、あれが夢だとは思えない。


状況的に死んだ、と思うけど…そうだとしたら死後の世界なのだろうか?

それにしても…


「空、青いなぁ…」


……!?


何気なく呟いたことで更に混乱する。声が高い、これじゃあまるで変声期前の子供だ。

急いで体を起こすと腰まである白い髪、視点も低い…

反射的に頭を触るとあるはずのない場所に耳の感触、手も小さい。

声、髪、耳、手、全てが自分の知っている自分じゃない、なんなら胸もある。

意味が分からない…


?」


いやいやいやいや、待って待とうよ、落ち着いて整理しよう。

まず僕は男だったはずだし最後は引きこもりだったけど仕事もしていた大人だ。

そもそも人間に”けもみみ”なんてロマンは生えてない、それ以前にあるはずの場所に耳がない。


流行りの異世界転生か?

でも異世界送迎車こと暴走トラックにも轢かれてないし、ツアーガイドの神様にも会ってない。


「死後の世界って自分で見た目を決めれるみたいなオカルトは聞いたことあるけどそういうこと? それ以前に此処どこさ…?」


纏まらない思考に眩暈を覚えつつ視線を横に向けると、随伴するように浮遊する無機質な多面体、僕はこれをよく知っている。


「……almAアルマ?」


生前大好きだったSFTDタワーディフェンスゲーム、『アトーンメント・ノア』のキャラの一人”メルミーツェ”。

サポート役のクセにあり得ない火力を叩き出し、

職種詐欺と言われる彼女の切り札である多面体から変形する自立式の兵器”almAアルマ”。


白髪、けもみみ改めねこみみ、almA。

転生なのか死後の妄想なのかわからないけど、この条件に合うのはメルミーツェしかいない。

ありえない状況にまだ混乱しているけど、眩しいくらいの日の光、頬を撫でる風、草が擦れる音に土の匂い、五感で感じるもの全てが現実的リアルだ、とても空想の何かとは思えない。


それに一つだけはっきりと思うことがある。


「もう一度死ぬ感覚を味わうのは嫌だなぁ…」


空腹はとても辛い。

段々と動く気力がなくなっていき、意識が朦朧とする中で強く感じる”死”はとても怖い。僕は自分でも小心者だと自覚している、怖いのも辛いのももう嫌だ。



――生きよう、できるだけ生きてみよう。



何がなんだかさっぱり分からないけれど、何の説明もなくこの状況なんだ。

それなら自分で目的を決めるしかないじゃないか。

だから後悔のないように生きよう。


逃げて逃げて後悔にまみれて終わる最後じゃなくて、すっきりできる過程を歩もう。


目的は決まった、まずは状況把握から…

立ち上がり周りを見渡すと、左からぐるーっと草、草、遠目に森と更に奥に山、草、ここは草原のど真ん中。

海は見える範囲にはなし。人里らしいものも…見当たらない。


できるだけ生きようと決意したけどこの状況はきつくない?

いきないり挫けそう…


とは言え、此処でうだうだしても死を待つだけだ。

生きたいならば先ずは水、次に食べ物を探す必要がある。

草原ここには水源らしいものも食べられそうなものも見当たらない。

そうなると必然森に向かうしかない。


目的地が決まったら早く移動しよう、野生動物の気配はないけど隠れる場所もないまま夜を迎えるなんて想像したくない。


立ち上がった僕は覚えている範囲で情報を整理する。

『メルミーツェ』、ゲームでは猫人フィラルと呼ばれる種族で、戦闘補助職のサポーター。

ストーリーでは研究者として登場して、どの時系列でも見た目が変わらず、明らかに死亡したと思わせる描写のあとにもケロリと復帰するかなり謎めいたキャラクター。


プレイヤーからは色々考察が飛び交っていただけれど、僕はそんなことよりもぼんやりした性格やalmAを使ったトリッキーな運用が好きで使ってたんだよね。


そしてふと思った。

もしもalmAがゲームの設定どおりなのだとしたら、戦闘面で頼りになるのはもちろん、かなり多機能な性能をしているはず。

almAがいれば、この意味の分からない状況でも生き残れる可能性がグッと高くなるかもしれない…


何よりこんな草原で独りぼっちは嫌だ。

一緒にいてくれる人(?)がいるのはとても心強い。


もう死にたくないんだ、頼りにしてるよalmA!

僕は浮かぶ多面体に抱き着いて懇願をした。


【メルミーツェ イメージ】

https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16817330668507522388


◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇

見つけて頂き、またお読み頂きありがとうございます。

精一杯書いていきますのでまた目に留まった時に読んで頂けると幸いです。

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