「選択」

 連絡を受けた私たちは再び首塚屋敷を訪れました。二度目となっても、やはり生首には驚かされました。

「やあやあ、良く来てくれたね。私が貝塚、探偵さ。君たちのお子さんはちゃんと見つけたよ。落ち着きたまえ、ある事情でここにはまだ居ないよ。ところで、神隠しって聞いたことあるかい?」

そう語り始めた貝塚探偵の後ろには狐みたいに口を尖らせた着物姿の助手が立っていました。何かあったのでしょうか?

「夏祭りがあった神社に居る狛狐は知っているかな?神の使いでね、こっち側に遊びに来ることがたまにあるけど、そんなに悪さはしない。ただし、イタズラされた場合にはその限りではないよ。旦那さん、顔色がよくないね、やはり心当たりでもあるのかい?」

俺が子供だった頃だしちょっと遊んだだけだしすぐに離したし、と消えそうな呟きが隣から聞こえます。

「彼らの時間感覚は私たちと違うから、よく似ているお子さんは旦那さんを間違えただけってさ。さて、旦那さんには選択肢がある。このままにしておく、もしくは代わりにあちらに行く、かだ。どちらにする?」

ニンマリと狐じみた笑みを浮かべた貝塚探偵に対してキッパリと答えた夫。


「筥崎くん、打ち合わせ通りに。」と声をかけられた助手が手を打ち鳴らした次の瞬間には主人の代わりに子供が戻ってきました。

「めでたしめでたし、と言って良いのかな?これで依頼は達成だね!バッグの中で揺られながらもお参りした甲斐があったよ、貝だけに。ちゃんと交渉しておいたから、神社でのお参りをきちんと続けていたら旦那さんに会えるはずだよ。私の口先には例え神様だってひれ伏すのさ、本当だよ?ちなみに、彼が話せないのも私の姿も、君たちに起こったのと似た理由、規模がちょっと大きいだけさ。」

子供と私の泣き声の隙間を埋めるかのように、そう嘯く貝塚探偵。当時の私にはそんな余裕はなかったはずなのに、くだらない言葉まで覚えているのは記憶に刻み込まれたからでしょうか。


 今でも信じがたい、でも確かに私たち一家に起こった昔話はここまで。今日は息子一家がやって来ます。あの日以来、夫と息子、そしてなぜか孫のお気に入りにもなっているお稲荷さんを包み始めることにしましょう。

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貝塚探偵と狐 @wacpre

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