「面」
一時間ほどかけて車で移動して、駐車場からさらに参道を上って。神社の境内に入った途端に肩から下げている猫用キャリーバッグから声がし始めた。
「仕方がないとはいえ、ここに入れられて揺られ続けるというのは未だに慣れないね。身体以外の大切な何かを失っていくかのようだよ。せめて景色が見れたら良いのに。あぁ、もし周りに人が居るなら、適当に口をパクパクしていてくれたまえよ。」
そんな勝手なことを喋るのは、私の雇い主である生首、貝塚探偵だ。
たどり着いた社の手前には、狛犬ならぬ狛狐が待ち受けていた。
「筥崎くん、狐のお面は持ってきているかい?よろしい、ではそれを被りたまえ。恥ずかしい?それが君の仕事だし、私は恥ずかしくない。恥ずかしがる暇があるなら、自撮りでもしてくれるかい?是非とも後でゆっくり鑑賞したいからね。」
そんな言葉は無視して、着物の懐からお面を取り出す。なんでも同類の使いと受け入れられるために必要らしい。こんなものでと思うが、見た目が大事らしい。
「かけまくも
猫用キャリーバッグを持ちながら祝詞を唱える狐面の着物。まさか生首を持っている上にその声に合わせて口を動かしているとは誰も考えないだろう。どちらにせよ通報待ったなし、だ。
「……と
心を無にしているうちに終わったようで、いつの間にか景色も変わっている。周りには先ほど社で見たものとそっくりな狐、お稲荷さんたちが待ち受けていた。
「無事にこっち側にやって来れたみたいだね。それでは、依頼人のお子さんを探しに行こうか。ひょっとして、君のお仲間が迎えに来てくれているのかな?大丈夫、彼らのような存在との交渉ごとには慣れているさ。君もよく知っているだろう?私に任せておきたまえ。」
……あぁ、とても良く知っているとも。こちらの意見も聞かずに、勝手に話を進めるところとか昔からちっとも変わっていない。文句の一つでも言ってやりたいところだが、声を出せぬ身となってしまってはそれも叶わない。
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