【第10回空色杯参加作品】放送

緑茶

放送

「私はいま、事件の現場に来ています」


 四角い画面、マイクを構えて、緊張したおももち。


「ちゃんと聞こえてるかな…………っとと、今のひとりごと、カットしなきゃな」


 彼は言っている。


「静かなものです。凄惨な事件があったとは思えないほどです。しかし、昨夜未明、確かにこの場所で、近隣在住の女子大生Sさんが殺害されたのです。事件の犯人はいまだに捕まっていませんが、警察はこの数か月間で頻発する通り魔殺人と類似するケースであるとみて、捜査をすすめています」


 彼の視線の先には、薄暗い路地の行き止まりがあって、そこにはおびただしい血痕が付着している。そこにははっきりと、事件があったという証拠。しかし、


「おかしい。事件ならキープアウトが書いてあって、入れないはずで――とあなたは思っていた。つい数分前まで。あなたは混乱していますね。無理もない……」


 画面の端にある表示が切り替わって――レンズが、真逆をとらえた。

 そこには私。

 女子大生S。

 彼は、なにも嘘は言っていない。

 私を見て、にっこりとほほ笑んでつづけた。


「ああ、間違って君の顔をうつしてしまった……でも、安心していいよ。ちゃんとカットして、編集するから」

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