第5話 世界の男でたったひとり、スキルを手に入れる「あなたは選ばれたS級男子です」

「アルバート様の奴隷になれないなら……生きる意味がありません……」


 リンフィアが自分の首に、ナイフを突きつける。


 血が少し流れて——


「リンフィアやめて! それ以上やると——」

「あたしを奴隷にしてくれますか?」

「いや、それは……」

「わかりました。死にます」


 さらに深く首に、突き刺そうと、


「わかったっ! リンフィアを奴隷にするからっ!」


 言ってしまった……


「本当ですか?」

「本当だよ!」

「ありがとうございます♡ 最高に嬉しいですっ!」


 リンフィアはナイフを捨てて、


 俺に抱きつく。


「すっごく嬉しくて……夢が叶いましたっ!」


 リンフィアが泣いている。


「……アルバート様、他の奴隷も選んでください」


 アルウィンさんが耳打ちする。


「他はいいよ。リンフィアだけでいい」

「しかし……」

「本当に、ひとりでいいから……」

「……わかりました。では、他の奴隷候補は帰しますね」

「あたしだけを奴隷にしてくれるなんて……一生懸命、アルバート様にご奉仕しますっ!」


 アルウィンさんは奴隷候補たちに向かって、


「これにて、奴隷の選定は終わりました。みなさんお帰りください」


『いやよ! 絶対にアルバート様の奴隷になりたい!』

『あたしの胸を見て! こんなに大きいです!』

『奴隷になれるなら、何でもしますわっ!』


 奴隷候補たちは叫ぶが——


「すでに決定事項です。速やかにお帰りください。さもないと——」


 アルウィンさんの右手に、光輝く剣が——


「【剣聖】の私が、お相手いたします」


 剣聖——あらゆる剣技を使いこなす、剣士系の最上級スキルだ。


 最低でもA級冒険者ぐらい強くなければ、とても敵う相手じゃない。

 

 不満を言いながらも、しぶしぶ他の奴隷候補たちは屋敷を出て行く。


「では、奴隷契約の儀式に移りましょう」


 ふっと剣を消して、淡々と儀式を進めるアルウィンさん。


「お二人とも、右手を出してください」


 俺とリンフィアは右手を出す。


「……汝、リンフィア・フォン・クラスフォードは、一生涯、アルバート・フォン・マクタロードの奴隷になることを誓いますか?」

「はい……っ! 誓いますっ!」

「主人の言うことにはどんなことでも、絶対に従うと誓いますか?」

「はい! 喜んでっ!」

「ではここに、誓約の証を刻みます」


 二人の青白い光が手の甲に走る。


 六芒星のような、誓約の証が刻まれた——


「これでアルウィン王女殿下は、アルバート様の奴隷となりました」

「これでやっと、アルバート様の奴隷に……」

「おめでとうございます。これからはアルバート様に【絶対服従】してください」

「はいっ! アルバート様、どんなことでも命令してくださいね♡」


 本当に幼馴染で王女のアルウィンが、俺の奴隷に。


 やっぱりしばらくは、かなり抵抗感がありそうだ……


 ★


「むにゃむにゃ……アルバートしゃまぁ……えっちな命令してくださいしゃい……」

「ね、眠れない……」


 深夜。


 俺はリンフィアと一緒に寝ている。


 奴隷契約の後、奴隷らしい格好をしたいとリンフィアが言い出して、


 服を脱ごうとするし、


 首輪に鎖をつけようとするし、


 床で寝ようとするし、


 割と大変だった……


 床で寝るは良くないから、仕方なく一緒に寝ることにした。


「……アルバートよ。聞こえるか?」

「……!」


 心地の良いきれいな声が、耳に入る。


「誰……?」

「私だ。ここにいる」


 声のする窓に、近寄ると、


「私は女神アイリーンだ。今日はお前に、スキルを授けにやってきた……」


 緑色の光に包まれた、女の人。


 背中に天使みたいな羽根があって、優しげな微笑み俺に向けている。


 光で隠しているが、おっぱいが女神級に大きいようた……


「め、女神様……?」

「今日はお前が10歳の日。お前はスキルを授からないといけない」

「でも、スキルを授かるのは女だけじゃ……?」

「お前は転生者だ。転生者は特別に、男でもスキルを授かることができる」


 俺が転生者だと知っている……!


 これは、本物の女神かもしれない。


「お前を転生させたのは私だ」

「あなたが俺を……! どうしてだ?」

「この世界に【魔王マグナス】が復活するからだ。お前も【四聖女の予言】を知っておろう」


 四聖女の予言——


 古代。


 四聖女は自らの命を犠牲にして、魔王マグナスを封印した。


 だが、その封印は完璧ではなく、1000年後に封印が解けてしまう。


「封印が解けた魔王マグナスを討伐できるのは……転生者の希少種のみ。それがアルバート、お前だ」

「つまり、スキルを授かって、魔王を倒せってことですか?」

「その通りだ。それが【S級男子】の使命」

「……」


 正直言って、魔王討伐なんて嫌だ。


 前世でブラック労働してきた俺は、この世界ではまったり平和に暮らしたかったのだが。


「安心しろ。とりあえず後7年間は魔王は眠ったままだ。その間に強くなればいい」

「でもな……」

「前世でお前が苦労してきたのは知っている。それに、この世界の運命をお前に託すのだ。それなりのスキルを授けるから」

「……」


 それでも、嫌なものは嫌だなあ……


「で、その【それなりのスキル】とは?」

「これだ……受けとれ」


 俺は金色の光に包まれる!


「なんだ……これ?」

「お前に授けたスキルは【全スキル開放】だ。まあ【それなりに強い】スキルだから、使ってみるといい」

「それなりって……あっ! 待って——」


 女神は空に上がっていく——


「この世界を頼んだぞっ! わははっ!」

 

 すぐに見えなくなった……


「……なんて無責任な女神なんだ」


 しかし、7年後に魔王と戦うことは避けられない運命のようだし……


 とりあえず、明日からスキルを使ってみるか。



 ——俺はこの時、気づいていなかった。 


 実はとんでもない【チートスキル】を、手に入れてしまったことに……

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