第33話 再・魔法使い

 理科室の前に立つ。入り口には大きな恐竜の模型が置かれているが、これは生物の先生の趣味だそうだ。とても迫力があって、今にも動き出しそう。大きな口を開けていて、噛まれたらひとたまりもない。


「よしっ」


 一言気合を入れてドアに手をかける。中ではどんなトラップがあるのだろう? ドアを開けると、少し薬品の匂いがした。中には、テーブルがたくさん並べられていて、その上にはビーカーや試験管が置かれている。警戒した割に、それらが動き出すことはなかった。


「あれ、何もないのかな」


 私はそのまま奥へと入っていく。教室の中央まで来た時のこと。突然、地響きとともに叫び声が聞こえてきたのだ。


「な……、何!?」


 ドスドスとゆっくり歩いてくる音が聞こえる。それに合わせて床も揺れた。


「来る……!」


 教室の壁を壊し、現れたもの。それは入り口にいた巨大な恐竜だった。体表はトカゲのようにゴツゴツしていて、背中には大きなトゲが生えている。口は大きく開かれていて、そこから鋭い歯がのぞいている。手には鋭い爪が生えていて、それを床に引きずり、大きな音を立ててこちらに近づいてくる。


「で……、でかい……!」


 私はその大きさに驚いた。今まで戦ったどの敵よりも大きく、そして強そうだ。


「グオオオ!」


 恐竜は咆哮を上げながら襲いかかってくる。


「いやー! 死にたくない! 恐竜は無理!」


 こんなやつとやりあえるわけがない。普段戦う怪人とはわけが違う。こんな敵と戦うなら魔法を使う相手の方がマシだ。恐竜は理科室の中を破壊しながら私を追いかけてくる。私は必死に逃げ回った。


「もー! 来ないでよ!」


 恐竜は教室を破壊しながら私を追いかけてくる。このままでは学校がめちゃくちゃだ。ここは勇気を出して突撃するしかない。


「【パワースラッシュ】!」


 大振りの一撃を放つ。恐竜はそれを避けようともしない。斬撃は強靭な体には全く効き目がなかった。


「ええっ!?」


 驚いている隙に、恐竜は尻尾を振り回す。棚やガラスの器具などをなぎ倒していった。私は尻尾をシュバルツで受け止める。


「強い……」


 力で押し負けそうだ。少しずつ後ろに押され、ついには吹き飛ばされて壁に激突してしまった。


「いたた……」


 まさかこんなにも強いなんて。恐竜はゆっくりとこちらに近づいてくる。逃げ回るのは難しくないが、倒すにはどうすればいいか分からない。正面から戦うのは無理がある。なんとか攻撃の手段を見つけないと。


「そうだ!」


 ここは理科室。いくらでも使えるものがある。例えば机の上のガスバーナー。栓を開けてガスを送る。すぐに火がつき、青い炎が燃え上がった。シュバルツの先端に火をまとわせ、恐竜に向かって突撃する。


「はああ!」


 火を纏ったシュバルツで、恐竜を斬りつける。炎と斬撃の合わせ技。どうだ!

 恐竜は大きな叫び声を上げて苦しむ。やっと攻撃が通った! 恐竜は暴走したように突進してくる。私は身を翻してそれを避けた。


「もう一回!」


 今度はお腹に攻撃を加える。恐竜は後ろに飛び、机をなぎ倒しながら倒れた。しかしすぐに起き上がり、大きな咆哮を上げる。


「しぶとい!」


 最後の抵抗とばかりに突撃を繰り出そうとしてきた。私もそれに合わせて恐竜の懐に入る。そして、全力の一撃を喰らわせる。


「【パワースラッシュ】!」


 炎で青色の軌跡を描き、先端が輝いていた。強烈な一撃が恐竜を切り裂く。恐竜は体を貫かれて倒れた。


「はあ……、強かった……」


 倒れた恐竜は銀色の光とともに消滅し、その後に鍵を残していた。


「これか……」


 金属の冷たい鍵を拾い上げ、私は理科室を出た。

 ゲルプの指示によると、次に行くべきは三階の図書室。図書室はぼっちな私にとって憩いの場。ラノベなどを読んで時間をやり過ごすのにちょうどいい場所だ。


「鍵が掛かってる……」


 普段は開け放している図書室だが、今日に限っては鍵がかかっていた。それも二つも。先ほど音楽室と理科室で拾った鍵を穴に差し込む。

 二つの鍵が合うと、カチャリという音がした。そしてゆっくりと扉が開く。中は静かで暗い。本を読むのに適している環境だ。だが、今日はそんなことをしに来たのではない。ここでは屋上の鍵を探すのだ。


「なんか怖いな……」


 私は図書室の奥へと進んでいく。敵が出てくる気配はない。一番奥にある受付のテーブルの上に紙が置いてあった。


『青い本を探しなさい』


 改めて本棚を見る。すると、いつもと違って赤い本だけで埋め尽くされていた。青い本など一つも見当たらない。どこかの棚に青い本があるということだろう。


「あっちかな……」


 他の本棚へと向かう。そこにもやはり赤い本が敷き詰められているが、一つだけ青い本があった。開いて中を見てみる。


『黒い本を探しなさい』


 本にはメモが貼ってあり、今度は黒い本を指定している。また別の棚に移動して探す。

 黒色の本を棚から取り出し、開いてみる。


『桃色の本を探しなさい』


 またまたメモが貼られていて、次の本を探すように指示している。


「また?」


 この調子でいくと、いつまでも本を探し続けなければならなそうだ。仕方なく、私は桃色の本を探しに歩き出した。


 ☆


「もう……、これで何回目……?」


 かれこれ30冊は見たはず。どれも同じように本の色を指定しているが、中には『これで青の本は何冊目か』というのもあった。そんなの覚えてない! と叫びたかったが、なんとか答えて次のヒントを得、ここまできたのだ。私が手に持っているのは黄色の本。これで最後であってほしい。


『入り口に戻りなさい』


 黄色の本の最後の指示は、図書室の入り口に戻れだった。来た道を戻って入り口に着く。図書室の入り口には、先ほどまでなかった鍵がかけられている。


「やっと終わった……」


 心身ともに疲れ果ててしまった。だが、これで屋上への鍵が手に入った。図書室の近くの階段を登れば屋上。私は気を引き締めて階段を登った。

 鍵を開け、屋上の重い扉を開けると、フェンスの上に金髪の少女が立っていた。空は禍々しい色で覆われていて、おおよそこの世のものとは思えない。


「お待ちしていました」


 ゲルプだ。彼女はこちらを向くことなく話し始める。


「楽しんでいただけましたか?」

「楽しいわけないでしょ……」

「そうでしたか。でしたら、私との戦いでフィナーレといきましょう。これが最も楽しいでしょう?」


 ゲルプは飛び降り、黄色のオーブを込めた杖を私に向ける。私も応じるようにシュバルツを構えた。

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