第30話 真実
私たちは司令部の食堂に入る。相変わらずそこは魔法少女たちで賑わう憩いの場となっていた。私たちのように疲れ切った魔法少女たちが食事で癒されている。
「注文は何にする?」
桃井さんが私に聞いてくる。何を食べようかな……。私はメニューを眺めながら悩む。ふと目に入ったのはたこ焼き……。さっきまで戦っていたタコ男を思い出すと、とても食べる気にはなれない。
「琴音ちゃんどうしたの? もしかして迷ってる?」
桃井さんが顔をのぞき込んできた。たこ焼きの話を抜きにしても、ここの食堂は種類が豊富でどれもおいしそう。迷って迷って、頭の上でヒヨコがぴよぴよしそう。
「桃井さんと……、えっと、その、君はよく来るの?」
「私は
「あっ、水川さん」
「私は結構来るわよ。おすすめはカレーよ」
水川さんはそう言って笑った。
「えっと、私もカレーにする」
「さくらは?」
「私もカレー!」
「決まりね」
私たち三人は同じカレーを注文した。注文を待っている間に桃井さんと水川さんは雑談に興じ始めた。
「さっきのタコ、強かったわね」
「ほんと、琴音ちゃんがいなかったらどうなってたことやら……」
私は二人の会話に耳を傾ける。私もタコ男にはかなり苦戦したから、首が折れるほど頷く。向こうの幹部も強い怪人を生み出すのに力を尽くしているに違いない。
「琴音ちゃんのおかげだよね!」
そう言って桃井さんは私の肩をバシバシと叩く。
「いや、私はそんな……」
「謙虚だねー!」
そう言って桃井さんは私の頭を撫でる。なんか子ども扱いされてる気がする……。そういうフレンドリーなところは悪くないけど……。あまりに距離が近すぎるとこちらも反応に困る。
わしゃわしゃと戯れていると、ウェイトレスのお姉さんがカレーをトレイに乗せ、三つ運んできた。
「お待たせしました。カレーです」
お盆に乗って運ばれてきたカレーは、スパイシーな香りを漂わせている。ルーの中には、大きなにんじんや牛肉がこれでもかというほど入っている。
「いい匂いね」
「おいしそう〜」
「いただきます」
私は早速一口食べる。カレーの辛さが口いっぱいに広がる。でもその辛さがまたおいしい。
「琴音ちゃん、おいしい?」
「おいしいよ」
私は小さな声で言った。
「うんうん、これは本気で喜んでる時の顔」
顔に出てた!? いつもと同じようなテンションで言ったつもりなのに。
「琴音ちゃんって本当においしそうに食べるのね」
水川さんはそう言って笑った。私は顔を下に向け、カレーに集中して食べた。私の顔はきっと緩んでいて、人に見せられるものではない。……カレーがおいしいのは本当だ。
水川さんが新しい話題を切り出す。
「今日は魔法少女になれて良かったと心から思う日だったわ」
「え?」
「私、今まであまり活躍できてなかったの。一人で成果を出そうとしてたのだけど、うまくいかなかった。今回は琴音ちゃんが助けてくれたから敵を倒せたのよ」
水川さんは少し恥ずかしそうに言った。水川さんは十分強いのに、向上心、そして謙虚な心を持っていて私とは大違いだと思った。
「水川さんこそ強いと思ったよ」
「そう?」
「勇敢な姿も、頑張ってるところもすごいと思った。私も頑張らなきゃと思えたよ」
私は思ってることを素直に話した。水川さんの表情は明るくなり、私の方を向いて微笑んだ。
「そう言ってもらえると嬉しいわ……。琴音ちゃん、これからも一緒に頑張りましょうね」
「うん!」
私と水川さんは互いに手を取り合った。その様子を桃井さんがジトっと見つめる。
「琴音ちゃん、私も褒めて!」
「え、ええ……」
桃井さんは目をキラキラ輝かせている。こんな笑顔で見られたら褒めないわけにはいかない……。私は勇気を振り絞って口を開く。
「えーと、いつも明るくて元気なところとか、気配りができることとかはすごいと思う……」
そう言って口ごもる私に桃井さんが微笑みかけた。
「うーん……。絵麻ちゃんの時となんか違う……」
そんなこと言われても……。褒めるのは苦手だし。いや、しゃべるの全般が苦手なんだった。私はカレーに集中し、食事を早く終わらせることにした。
☆
「「「ごちそうさまでした〜」」」
私たち声を揃えて言った。カレーは本当においしくて大満足だ。もう満腹……。これ以上は何も食べられない。
「本当に美味しかったわ」
水川さんも満足そうにお腹をさすっている。
「また来ようね!」
桃井さんが元気よく声を張り上げ、私たちは笑った。過酷な戦いの合間に訪れる安らぎの時。これがもう少し長く続けばいいのにと思った。
☆
今日は晩ご飯も食べて夜も遅くなったから、司令部で過ごそう。ヴァイスを肩に乗せ、司令官さんの部屋へと移動する。
「琴音にまた一人、仲間が増えて嬉しいよ」
「本当に?」
「魔法少女になれてよかったって、少しは思えたんじゃないかな?」
「まあ……。少しだけね」
ヴァイスは私の顔を覗き込んでくる。私は恥ずかしくて目をそらす。
長い長い廊下を渡り、司令官室の前に立つ。三回ノックして、「失礼します」と言ってから中に入る。今日の司令官さんは書類の山に囲まれていた。
「黒井か、今日はご苦労だったな」
「いえ……」
私は少し緊張しながら答えた。司令官さんは一つ一つ書類を丁寧に確認し、印を押している。全ての書類に目を通すのにどのくらいかかるのだろう。
「あの、今日はここに泊まろうかなって思って」
「ああ、それなら部屋を用意しておく」
「ありがとうございます」
司令官さんが椅子をくるっと回転させて、こちらに体を向けた。
「黒井……。君の最近の活躍はなかなか目を見張る物だ」
突然のことに驚いたが、せっかく褒めてくれたのだから素直を感謝を述べることにした。
「ありがとうございます……」
「君なら一流の魔法少女になれると信じていたよ。これからも期待している」
そう言って司令官さんは私に微笑みかけた。
「そんな君に一つ聞いて欲しいことがあるのだが」
空気が変わった。私は息を呑む。司令官さんは立ち上がり、落ち着いた声で言った。
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