第29話 飛翔

 色とりどりの魔法少女たちに混ざって私も武器を構える。

 タコ男は八本の触手を動かし、私たちに襲いかかる。


「オラオラ! どうだ、我輩の攻撃は!」


 一度に大勢の魔法少女を相手にして、タコ男は高らかに叫ぶ。私がタコ男本体に攻撃を仕掛けないと……。

 シュバルツを振り上げて目も前に迫る触手を切り落とす。そのままの勢いでタコ男のいる中央部に走っていく。


「【パワースラッシュ】!」


 飛び上がってシュバルツを振り下ろす。だが相手も一筋縄ではいかない。強靭な腕の筋肉で受け止められた。


「ふん、我輩のタコの筋肉は貫けまい」

「くっ……!」


 私は一旦距離を取る。タコ男の筋肉は硬い……。

 ふと総理大臣さんの方も気にかける。桃井さんがシールドを展開してくれているが、いつまでも任せるわけにはいかない。彼女の魔力にも限界があるからだ。


「次はこれだ! 【タコスミ】!」


 タコ男から粘着質な液体が発射される。桃井さんは総理大臣さんを守ってくれるが、私たちはそうはいかない。連射されるタコスミに次々被弾する。


「きゃー!」

「うわ!」


 周りの魔法少女たちは悲鳴を上げながら倒れていく。粘着質な液体だからくっつくし、動きを妨げて厄介だ。


「とどめだ!」


 タコ男は一人の魔法少女に狙いを定め、腕を振り下ろした。このままじゃ危ない! 私は急いで魔法少女のもとに駆けつけ、シュバルツで腕を切り落とす。


「大丈夫?」


 私が聞くと、彼女は震えながら頷いた。


「あ、ありがとう……」


 なんとか守れたみたい。彼女の手を取って再び立ち上がるように促す。


「私に協力してくれない? 一人ではあの攻撃の隙を突くのは難しそうだから」


「わ、分かったわ……」


 彼女は水色の剣を持っている。水をまとった剣は太陽の光に照らされて輝いていた。


「ふはははは! 弱い貴様らが協力したところでところで、我輩には勝てぬわ!」


 再び腕を伸ばしてきた。シュバルツで防御するが、さらにもう一本、私の横から迫る。


「危ない!」


 水の剣の子が私の前に躍り出て、すかさず触手を切り落とした。


「助かった……。ありがとう」

「さっきのお返しよ」


 彼女は笑って剣を腰の鞘に収めた。


「私が右側から登るわ。あなたは左側からお願い」

「分かった」


 私たちはタコ男の攻撃のタイミングを計り、触手の上に乗る。その上を駆け抜け、本体を狙う作戦だ。


「ふはははは! その程度の浅知恵で我輩の触手を突破できると思ったか!」


 タコ男は私たちが乗った二本の腕を動かして振り落とそうとする。


「わー!」


 落ちないように必死にしがみつく。この高さから落ちたら絶対に助からない。


「無様に落ちろ!」


 タコ男も調子に乗っている。こんなところで負けられない。どこかのタイミングで反撃に出ないと。水の剣の彼女も苦しそうだ。片手でなんとか体を支えている。


「もうダメかも……」


 そう言ったその時、手がタコ男の足から離れ、落下し始めた。


「そんな!」


 驚きの声が漏れた。仲間を失うことの不安がよぎったのだ。

 落下しながらも彼女は剣を構え、タコ男の方を睨む。


「【ウォータージェット】!」


 彼女は足元から水を吹き出し、猛スピードで切り掛かった。タコ男も不意を突かれ、まともに攻撃を受けた。


「ぐっ……!」


 今ならいける。そう確信した。ここから飛び降りる勇気なんて、普段なら絶対にない。だけど、勇敢な仲間の姿に背中を押されたのだ。私も彼女に続いた。

 落ちているのか進んでいるのかよく分からないが、とにかく敵に向かった。先ほどの攻撃でタコ男は怯んでいる。手を後ろに引き、全力で突き出す。


「いけ!」

「バカな……。我輩が負けるなどありえない!」


 タコ男は体を貫かれ、銀色の光を放ちながら消滅した。それと同時に周りを取り囲んでいた触手も力を失ったように横たわり、消えていった。

 って、落ちてる! 死ぬ! 助けて!


「【ブルームフロア】!」


 足元に花の模様の床ができ、ふわふわの布団の上のように優しく着地できた。これは……。


「琴音ちゃんってば、無理しちゃダメだよ?」

「桃井さん……」


 助かった……。桃井さんがいなければ本当に危ないところだった……。


「あの……、さっきの子は……」

「ああ、もちろん助けてるよ」

「よかった……」


 私は思わずその場にへたり込んだ。命の危機を潜り抜けて完全に力が抜けてしまった。

 水の剣の子が私のもとに歩み寄ってきた。


「あなたは本当に強いのね。私一人だと諦めてたかも。あなたのおかげよ」


 彼女は私の手を強く握ってくれた。

 司令官さんからの通信がきた。


『ご苦労だった。怪人を撃破し、総理も無事だったようだな。最後まで油断せず、建物の中に入るまで頼んだぞ』

「「「はい!」」」


 最後まで役割を果たそうと、私たちはまた、歩き出した。


 ☆


 空港の建物の中では、先ほどの戦いが嘘のように賑わっていた。みんな、楽しそうにお土産を吟味したり、飛行機を待って会話をしていたりする。

 総理大臣さんは私たちの前に出て話し始めた。


「魔法少女のみなさん、本日はありがとうございました」


 総理大臣さんは丁寧に頭を下げた。私たちはそれぞれでその様子を見る。


「今日のように怪人が人々を苦しめています。あなたたちが守るべきは私だけではありません。今後もよろしくお願いします。それではここで」

 私たちは総理大臣さんに手を振って、その場から去っていく。


「お腹すいちゃったね〜」

「私もよ……。本当に疲れたわ……」


 私も疲れてお腹すいて……。と思ったらぐぅーっと私のお腹が鳴る。


「あっ、琴音ちゃんも腹ペコ?」

「あぅ……」

「どこかで食べていかない? それとも司令部の食堂がいい?」


 司令部の食堂……。以前先輩たちと来た時に食べたハンバーグを思い出すとよだれが垂れそうだ。


「食堂……」


 私はそっと呟き、おいしい食事の待つ司令部へと向かうのだった。

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