第24話 像

 お母さん、魔法少女オタクの素質があるかも。私はそう思いながら自室に戻った。恥ずかしかった……。


「琴音のオタクは遺伝なのかな?」

「はあ……」


 嫌なものは遺伝するんだな……。お母さんのオタクとしての才能は知りたくなかった。


「一仕事終えたところだし、今日は何するの?」

「ニチアサは見終わったし、特にやることはないかな」

「じゃあ散歩でも行く?」

「今日は家でゴロゴロしてたい気分〜」

「そっか」


 ヴァイスは丸くなって寝てしまった。私は椅子に腰掛けてスマホをいじり始める。SNSのタイムラインを流し読みしていく。私の趣味はアニメだけではないのだ。


「なんか更新されてるかな〜」


 私のタイムライン上には友達の投稿は0。だって、友達いないから! 一般のJKとは大きく異なる。

 ひたすら指を上に動かす運動を続け、アニメやゲームの公式アカウントを見ていく。その中に一つだけ見慣れないものがあった。


「『魔法少女募集中』?」


 紛れもなく、私の所属する魔法少女司令部のアカウント。新人を獲得するのに必死なのだろうか。


「ねえヴァイス……」

「ん、どうしたの?」


 ヴァイスは体を起こしてスマホの方に飛んでくる。画面に表示されたアカウントを見て察したようだ。


「ああ、魔法少女は今人が足りてないんだよ」

「私みたいに抽選じゃないの?」

「抽選も続けてるけど、やっぱり志の高い人が志願してくれる方がいいさ」

「志が高い……。エンデ・シルバーを恨んでる人とか?」

「そう。怪人の被害に遭ったことがある人も多いだろうし」


 確かに……。怪人の恐ろしさは何度もこの目で見ているし、私だってやられかけたことも多い。


「最近は魔法少女の厳しさが知れ渡ってるから、新たになりたい人は少ないんだよ。戦いでやられちゃった人もいるから」


 初めて東京に行った時、司令官さんが言った言葉。魔法少女は常に死と隣り合わせなのだ。


「……そうなんだ」


 私は抽選で魔法少女になって、仲間にも恵まれてなんとか生きてるけど……。他の魔法少女たちはもっと厳しい環境の中で戦っていて、命を懸けているのかな。


「世界を救ったら、何か変わるのかな」


 私は不安になりながら、そんな言葉を漏らした。魔法少女の条件は厳しいけど、うまくいけば世の中を救える。やりがいがあると言えばそうなのかな。


「じゃあ、これからも頑張ってね」


 ヴァイスは尻尾をふりふりしてそう言った。


「私が頑張れば、他の子が苦しまなくて済むんでしょ? だったら頑張るよ」

「初めの頃と随分変わったね」

「そう……、かな」


 人のために、なんて昔の私には考えられない。自分のことで精一杯なんだから。


「まあ、僕は君のそういうとこが好きなんだけどね」

「……ありがと」


 再びスマホに視線を落とす。画面に映るものをちゃんと見ずにスクロールしていく。集中できない。風の音、鳥のさえずりのみが響き渡る。


「もー! ヴァイスのバカ!」

「わー! 琴音がキレた!」


 私はヴァイスの尻尾を掴もうと追いかけまわす。部屋の中をぐるぐるドタバタしていると、通信装置からピロピロと音が鳴る。


「この辺に怪人が出たみたいだ。行こう……」

「うん……。ワープよろしくね……」


 2人とも息切れしかけていた。私はすぐに魔法少女に変身し、まだ見ぬ敵に身構えるのだった。


 ☆


 自宅の近くに怪人が出るなんて。今まで一度もなかったのに……。さて今回はどんな敵だろうか。少し見渡すと、ギラギラと光る怪人が目に入った。


「僕はミラーマン。君たちを倒させてもらうよ」


 ミラーマンを名乗る怪人。名前の通り体は鏡でできているらしい。太陽の光が反射して眩しく、視界が遮られる。


「眩しい……!」

「君には僕のとっておきの力を見せてあげよう!」


 突然ミラーマンの全身が光った。私は咄嗟に目を閉じる。その光が収まり前を見ると、私そっくりな人間が立っていた。


「何あれー!?」


 思わず大声を上げてしまうほどの完成度。いや、それを褒めている場合ではない。姿は私と似ているが、表情がなく不気味だ。


「琴音! 来るよ!」

「分かってるよ!」


 相手も武器を構えてこちらに向かってくる。武器も私の持つものと同じ、シュバルツのようだ。長いリーチは頼もしいけど、敵も同じであるというのは脅威だ。

 敵は猛スピードで突きを繰り出す。間一髪で回避し、私も反撃を試みる。だが、相手は私と同じような動きを見せるためなかなか攻撃を当てられない。いや、私と同じではない。相手は私と違って疲れないし、動きに無駄がない。


「ふっはっは! どうだ! 自分の分身に攻撃されるのは!」


 ミラーマンが余裕の表情で煽ってくる。確かに、今までにない攻撃方法だ。この分身は非常に強力でなす術がない。


「うぐっ……」


 脇腹に攻撃が当たる。次々に襲う斬撃が私を追い詰める。なんとかこちらも防ごうとシュバルツを構えるが、相手の方が早い。無表情で攻撃を繰り出してくる姿に恐怖を覚えてしまう。


「どうしたら……」


 シュバルツで分身の攻撃を受け止めながら必死に対策を練る。しかし、有効な手段は思いつかない。その間にも体力は奪われていく。このままでは負けてしまう……。

 相手の武器はこちらと同じ。となると、こちらに物理的にできないことは相手にもできない。リーチを意識するんだ。どれだけ離れていれば当たらないかよく見る。


「分かったかも!」


 私は後ろへ飛び退き、再び距離を取る。そして体を大きく反らし、跳躍した。


「よし、捉えた!」


 すかさずシュバルツでなぎ払う。分身の体にヒビが入った。効いている! 流れを掴んでいる今のうちに、一気に攻める!


「はあっ!」


 私は分身の体を何度も斬りつけた。このままならいける! だが、相手もすぐにはやられない。


「……」


 分身が無言で手を振りかざすと、なんと3人に分裂したのだった。


「そんな!」


 3人同時に攻撃を仕掛けてくる。1体でさえギリギリだったのに、3体なんて! 恐ろしさに体が震える。


「琴音……。勝てるかい?」


 ヴァイスの問いかけに返答は一つ。


「勝つしかないよ」


 傷に手を当てながらそう答えた。こんなところで一般の怪人なんかに負けていられない。もっと強くならなければ。武器を構え、相手に向け直した。

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