第23話 説得
「こ、この話は後にしよう! お腹空いたから!」
必死の言い訳でこの場を切り抜けるしかない。このやり方では時間稼ぎしかできないが、今はとにかくそうしよう。私はいつもよりも早く朝ごはんを平らげ、すぐに部屋に戻った。
部屋の中では、ヴァイスが机の上でゴロゴロしていた。
「大変なことになったね」
他人事のようにそういうヴァイス。私が魔法少女じゃなくなったら、困るのはヴァイス、そして魔法少女司令部だ。なんとかして!
「助けてヴァイス!」
「まあ、そうだね。このまま君が活動できなくなったら困るし……。そうだ、あの時の技を使えばいいじゃん。お母さんへの言い訳も見えるんじゃない?」
「あれはダメだよ!」
そんなことに魔力を使うなんてバカバカしい。むやみに使うなって司令官さんにも言われたし。ヴァイスはまたゴロゴロ転がった。
「そもそも発動条件も分からないし……」
「そうだねえ。今までなら新技を習得した時は勝手に名前が付いたのにね」
【パワースラッシュ】や【地割れ】は自然と名前が口から出てきたが、この前のは全く分からなかった。この技はきっと特殊なのだ。負担が大きい代わりに効果は絶大。なんとしても自由に使えるようになりたい。
「名前付けてみたら?」
「じゃ……、じゃあ……、【暗黒視】……」
「うわー、中二病だ」
「もー! だから嫌なのに!」
ヴァイスはケラケラと笑い出す。完全に私をバカにしている。ひとしきり笑い終えたところで再び喋り出す。
「まあ、いいんじゃない? 特徴は掴めてるし……、ふふっ……」
「また笑った!」
「ごめんごめん」
と、ヴァイス。絶対反省してないよね……。だって尻尾をふりふりして舐め腐ってるもん。
「いや、技の名前を付けるのが目的じゃなくて、どうやってお母さんを説得するの?」
「あっ……」
そうだった。少し話題がそれてしまった。お母さんを説得、もしくはごまかすのが先だ。お母さんは反対したとしても魔法少女の活動を妨害する人じゃない。それは分かっているのだが……、こういうことをするのは初めてで不安だ。
「お母さんの目には完全に非行少女に映ってるよね」
「うぐっ」
「今まであまり外に出なかった琴音がいきなり活動的になったら怪しいっていうのは納得だよ」
「あうっ……」
どうすればいいの!? 分からないよ!
ふと時計を見る。
「あっ! ニチアサ見逃しちゃう!」
「え?」
そんなことより魔法少女! 今日は日曜日で、魔法少女のアニメがあるのを忘れてた。私は急いでテレビのリモコンを操作し、ニチアサのチャンネルに切り替える。
「ねえ、『そんなこと』じゃないんだけど……。はあ……」
諦めたのか、ヴァイスは私の膝の上に乗って丸くなった。
「私にとっては何よりも大事!」
画面が切り替わり、魔法少女のアニメが始まる。オープニングが流れだし、可愛い魔法少女たちが現れる。
「はー……。尊い……」
お母さんと話していた時の不安な気持ちなんてすぐに消えてしまった。私はニチアサに魅入られる立派なオタクだ! オタクは推しさえ摂取すれば後は何もいらない。魔法少女最高!
☆
今日も最高に尊いニチアサだった……。私は魔法少女たちの活躍に感動し、涙を流した。いつものことだけど。
「で、何か思いついた?」
「……何も」
現実に引き戻された途端、重力が何十倍にも大きくなった気がした。私は再び頭を抱える。
「やるべきことを後回しにしても、辛さが増すだけさ」
「分かってるよ……」
分かっている。だけど、どうしてこんなにもアニメは面白いのだろう! ん、そう言えばアニメの魔法少女たちはどうやって親を説得してるんだろう。早速録画している一話に戻って確認してみよう。
『実は……、魔法少女やってるんだ……。えへへ……』
「いやダメでしょ! こんな簡単に打ち明けるとか!」
思わずテレビの画面に向かってツッコんでしまった。一周目の時は違和感がなかったのに。私にはできないよ!
「まあ、フィクションだからね。現実とは違うさ」
確かに……。でも少しは参考になると思ったのに……。
「どうしよう……」
机に伏して絶望する。もう高校生なのだし、親に心配をかけるのはよくない。それは分かっているのだが……。いや、外出が増えたくらいで心配するのもあれだけど……。
「決めた! アニメの魔法少女みたいに素直にお母さんに言う!」
「おー」
ヴァイスは興味なさげに手を叩く。ネコなのに器用だなー。いや魔物か。
「善は急げだ! 今行こう!」
私はすぐさま立ち上がり、お母さんが残るリビングに駆け込んだ。
「琴音? 走ると危ないわよ」
「お母さん! 私魔法少女やってるの!」
「え?」
しまった! 話の入り方を完全に間違えた。まずは最近帰りが遅い理由から説明しないといけないのに!
「もー、琴音ったらアニメの見過ぎよ」
あ、そういう反応なのね……。詰んだかも。
「あの、その、さっきの話なんだけど……」
「魔法少女と関係あるの?」
「うん、最近テレビとかでも魔法少女と怪人が戦ってるのが出るじゃん?」
「ええ、確かに」
「私、あの魔法少女なの!」
私は包み隠さず全てを打ち明けた。もうどうにでもなれ。そんな気分だった。お母さんは真面目な顔をして私の話を聞いてくれた。
「そう……、だったの……」
「うん……」
「それで最近帰りが遅かったのね」
「うん」
「でもどうして魔法少女になったの? そんな危ないことする必要ないじゃない」
それはごもっともな質問である。私もそう思うよ! なんでだろうねー!? 部屋にいるヴァイスを心の中で睨みつける。
「選ばれちゃったの……。もう拒否はできないんだって」
「琴音……」
お母さんは心配そうな目で私を見つめる。しばらく静かになり、時計の秒針の音だけが部屋に響いている。
「……無理はしないでね? 琴音が無事でなのが一番なんだから」
「お母さん……」
少し安堵したのも束の間、お母さんはニヤリと笑ってこう続けた。
「今から変身して! 写真撮りたいの! 琴音の可愛い姿!」
「ええっ!?」
受け入れるの早くない!? お母さんは満面の笑みを浮かべている。もうやだー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます