第22話 桃色
「魔力の使いすぎだな」
目が覚めると、いつものように医務室にいた。司令官さんが椅子に座っていて、机にはヴァイスがちょこんと寝っ転がっていた。
司令官さんは私に事の顛末を教えてくれた。私が敵を倒した後、私はその場で倒れてしまったらしい。そして赤澤先輩や青山先輩が慌てて私のもとに駆け寄り、司令官さんに連絡したようだ。
「魔力を使いすぎたからって……、そんな漫画みたいな……」
「……私がなぜこんなに背が低いか分かるか?」
司令官さんは唐突にそう言った。……身長のこと、ずっと気になってたんだ。ロリっぽいのに40歳。おかしいと思っていた。
「いえ……」
「魔力の使いすぎが原因で縮んでしまったのだ。信じがたいだろうけどな」
「ええっ!?」
本当に信じがたい話だ。魔力の使いすぎで身長が縮むなんて……。信じられないけど、司令官さんの真剣な眼差し。嘘や冗談を言っているようではなかった。
「実はな、どんな人間も魔力を持っているんだ。だがその量は魔法少女になってみないと分からないのだ」
「魔力が……?」
私の中にも魔力があるなんて……。魔法を使うのもタダではないということか。
「よほどでない限り魔力の使いすぎにはならない。黒井のように負担の大きい技を使ったり、他には私のように……」
司令官さんは少し言いかけた後黙ってしまった。何か他にもあるのだろうか。
「……まあ、使いすぎると体に悪いから気をつけるんだぞ」
「はい……」
「隣の部屋で君を待っている人たちがいる。早く行った方がいいぞ」
突然話題を変えられ、私は少し戸惑ってしまう。私を待ってる人って? それよりも司令官さんが何を言おうとしていたのかが気になる。
「あ……、はい……」
私はゆっくりと立ち上がり、司令官さんに会釈をして隣の部屋へと歩いていく。
医務室の隣は、魔法少女たちの休憩室になっている。私はノックをしてそこに入っていった。
「琴音! 良かった……」
「心配したよ」
青山先輩と赤澤先輩が私を迎えてくれる。赤澤先輩は椅子に座ってのんびりしていて、青山先輩は相変わらずお菓子を貪っていた。
また、そこにいたのは彼女らだけではない。助け出した10人の魔法少女たちだ。
「あっ、琴音ちゃん! 元気になった?」
なんで私の名前知ってるの!? まだ名乗った覚えはない。目が合ったことすらないかも。きっと先輩たちが言ったんだろうなー。
「昨日はありがとね! 命の恩人だよ!」
えっ、私一晩寝てたの!? よく寝たというより、それほどまでに魔力の消耗が激しかったのだという感覚だ。
私に話しかけてくれたのはピンク色の髪の毛の魔法少女。そうそう、魔法少女といえばこうだよね。私は黒、魔法少女というよりは、悪の組織の方に近い色だ。はあ……、色は事前に決められなかったんだよなー……。
「琴音ちゃん、ほんとにカッコよかったよ! ビルの間をシュババッ! って!」
効果音ばかりでよく分からない。カッコいいって思ってくれたのは嬉しいけど。彼女はクッキーに手を伸ばしながら、何度も何度も昨日のことを楽しそうに話してくれた。私は弱々しい単調な返事を繰り返すことしかできない。
「なんか、変身してる時と違くない?」
「うん……」
変身してるときは、確かに少し強気になれるような気がする。でも、普段の私はこんな感じだ。喋るのが苦手で、弱気で、引っ込み思案で……。はっきり言ってダメな人間。
「琴音はやればできるんだよ」
そう言ったのは青山先輩。私のこと、そう思っててくれてたんだ。嬉しくも面映くもあるが、私はまだ言われるほど強くはない。これは謙遜なんかじゃない。
「そんなことはないですよ……」
「いやいや、琴音は本当はすごいって信じてるから!」
赤澤先輩までそんなことを言い出す。
うーん、そう言われてみればそうかも? 私ってすごい? えへえへえへ……。
はあ……、なんて単純なんだ、私は。
「そういえば瑠夏と奈々美も久しぶりだよねー」
ピンクの魔法少女がそう言うと、他の人たちも口々に昔のことを話し出す。赤澤先輩と青山先輩は元々東京で活動していたの?
「あの時はヤバかったよねー。瑠夏が司令官さんのおやつをつまみ食いして謹慎に……」
「そ……、それは……」
謹慎になっていた理由がここに来て判明。長く引っ張った割に大したことがなくてガッカリした。まあ、これはいわゆる青山先輩の黒歴史というやつだ。大したことのない出来事だからこそ隠したくなるのは分かる。
「あのクッキー、おいしかったよ。今までの何よりもね」
青山先輩は自信満々にそう言い放つ。盗みのスリルがあったのだろう。こうなると完全にヤバいやつである。
私が知らないみんなの過去が、きっとたくさんあるのだろう。興味深いけど、私が入るには及ばない。私はそう思いつつ、部屋の隅で話を聞いていた。
「そろそろ神奈川に帰ろうか」
赤澤先輩も立ち上がって帰り支度を始めた。できるだけ食べてやろうと青山先輩はクッキーを口の中に詰め込み、リスみたいになっていた。賑やかな魔法少女たちは名残惜しいが、私も帰ることにした。
「また会おうね!」
ピンクの魔法少女がそう言って手を振ってくれたので、私は小さく手を振り返した。
医務室に残してきたヴァイスも連れ、私たちはワープして神奈川へと転送されていった。
☆
某日。魔法少女の敵はエンデ・シルバーだけではないと思い知る。そう、神奈川に帰ってきた次の日のこと。朝ご飯を食べにリビングへと降りると、お母さんが待っていた。机の上にはパンやら目玉焼きやらが並べられていい匂いを漂わせている。
「おはよ~」
私は寝ぼけ眼をこすりながらお母さんに挨拶をする。お母さんは私を見ると微笑み、挨拶を返してくれた。
「おはよう。琴音」
ここまでは何気ない日常の風景。ドキッとしたのはここから。
「そういえば琴音、最近家にいないことが多くなったわね」
「えっと……」
「晩ご飯いらないとか、ケガして帰ってくることとかが増えて心配なのよ……」
「そ……それは……」
これはヤバい。怒られるのか、それとも呆れられるか……。どっちにしろこちらが圧倒的に不利。お母さんの顔には不信感がにじみ出ている。
「今までかろうじて学校にだけは行く引きこもり一歩手前みたいな琴音が……。不良になったのかと……」
「そこまで言う!?」
親にひどいこと言われた!?
でも、心配してくれてるんだな。嬉しいけどちょっと過保護だな……。
「辛いことでもあるの? なんでも話してみて」
言えるわけないじゃん! 魔法少女やってますなんて! そんなこと言ったら頭がおかしいと思われて捨てられちゃう!
「えっと……」
どうする……。人生最大の危機。魔法少女としての活動が、他でもない、母親によって終わろうとしている。優しいお母さんの笑顔が、普段戦う怪人よりも恐ろしく感じた。
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