第21話 覚醒
「さあ、おとなしく命を捧げなさい! 【マリオネット】!」
ゲルプは杖を思い切り振って、得意技を放とうとする。光線は街灯や消火栓に当たり、私たちに電気や水が襲う。
「ふん!」
赤澤先輩が街灯を切り落とす。落ちた跡にはガラスの破片がばら撒かれ、完全に動かなくなった。
「消火栓は私が行く」
青山先輩は氷の魔法で水を凍らせ、機能を停止させる。
私たちは順調にゲルプとの距離を詰めていく。だが、ゲルプも一筋縄ではいかない。
「【ウィンドスラッシュ】!」
ゲルプは風の刃を私たちに向けて放つ。私たちも負けじと避けていく。だが、やはり数が多い。これだけの魔法を連発して魔力が切れないのはさすが幹部といったところか。
「危ない!」
赤澤先輩の大声で叫ぶ。私の目の前には刃が迫る。
「うわあっ!」
咄嗟にシュバルツで受け止めるが、その威力を完全に受け止めることはできなかった。後ろに大きく吹き飛ばされる。
「琴音! 大丈夫!?」
青山先輩が心配そうに駆け寄る。少し当たった程度だから、大怪我はしていない。しかしまた距離を開けられてしまった。このまま5分間粘られるということもありえる。また、長い戦いに疲れてきたか、少し目がかすんできた。
「まだ……、戦えます!」
私はなんとか立ち上がって剣を構える。でもこの作戦では埒が明かない。何か、新しい突破口を見つけないと……。
ゲルプは杖を振り回しながら狂ったように魔法を放ち続ける。様々な種類の魔法は傾向が読めない。
「さあさあ! 私を倒せますか!」
体力はもう限界だ。それは赤澤先輩も青山先輩も同じ。
今までの私なら、意志の弱い私なら諦めていただろう。今回は違う。他の魔法少女たちの命が懸かっている。絶対に負けられないんだ。
「うあああっ!」
渾身の力を振り絞って走り出す。そして反撃に出る。
「【地割れ】!」
地面がひび割れ、ゲルプに向かって割れていく。土が隆起し、鋭い岩が次々と出現して攻撃する。だがこれもバリアで阻まれてしまう。
「何度やっても同じです!」
私に続いて先輩たちも猛攻をかける。
「【ウォータービーム】!」
「【フレイムスラッシュ】!」
水と炎の攻撃が次々にゲルプを飲み込んでいく。それもやはりバリアを突破することはできない。
「無駄な足掻きを! このバリアを破れるはずが……」
ゲルプがしきりにまばたきし、息を呑むように見えた。その理由はすぐに分かった。バリアにヒビが入っている。魔力を使いすぎてバリアが維持できなくなっているようだった。
「そんな……、あり得ない……!」
ゲルプの顔が苦痛に歪む。
ガラスが割れるような大きな音を立ててバリアは粉々に砕け散った。
これなら勝てると希望が見えた気がした。ただ、バリアが破れたからといってすぐに勝ちが決まるわけではない。私たちは再び体勢を整える。残り時間は3分だった。
「バリアが破られた……。くそっ……」
声を荒らげてゲルプは杖を地面に叩きつけた。その衝撃で砂埃が巻き上がる。
「あなたたちは生きては帰さない。人質もろとも消えてもらいます! 【マリオネット】!」
魔法をかけられた対象は……、後ろの巨大な高層ビル。大きな音を立ててこちらに向かって倒れかかってくる。
「こんなの……、どうしたら……」
思わず絶望の言葉が漏れた。私だけではなく、赤澤先輩も青山先輩も呆然とビルを見つめている。その圧倒的な存在感に目が離せなかった。
ビルの下敷きになれば確実に助からない。あの大きさでは避けることも難しい。
「あんなのどうしようもないよ……!」
私はつい弱音を吐いてしまう。が、何もせずに全員破滅するよりも、少しは抵抗したい。
窓の部分などを飛び乗れば何とかなりそうだ。でも、私にそれができるのか?
絶望し、恐れおののく私たちに対して、ゲルプは勝ち誇った表情を見せる。
「私の勝ち……! あなたたちはもう終わりです!」
このまま死ぬの……? 何もできずに、ただビルに潰されて死ぬの? 私は……、まだ……!
不思議な感覚だ。頭がふわふわするような感じがしてきた。視界が一瞬暗くなる。目を開けると……。
「何これ……?」
視界に映ったのは信じられない光景だった。動きべき場所が光って見える。まるで、ゲームの画面のように。
それが見えてからは足が勝手に動く。不規則に落ちてくる岩石や割れたガラスなども全て避けられた。まるで私ではないようだった。
窓からビルの中に侵入し、また反対側から出る。そのまま一階ずつ上に登っていく。
「なんで私、こんなことできるんだろう……?」
不思議でたまらない。今までこんな経験はなかったはずだ。でも今はそれができてしまっている。理由は分からないが、とにかくこのペースなら間に合うかもしれない。
ついに最上階に登り詰め、ゲルプと対面する。
「まだ生きているのですか? 私がこの手で……」
勝負は一瞬でついた。ゲルプが行動するよりも先に、持っていたタイマーをシュバルツで貫いたのだ。タイマーの表示は00:02。
「なっ……」
タイマーが壊れて結界は力を失ったようだ。ここからはよく見えないが、人質の魔法少女たちは解放されただろう。
「私の……、勝ちだ!」
シュバルツを突き出してゲルプにそう宣言する。
ゲルプは悔しそうに歯ぎしりをしていた。
「ぐっ……。……まあ、今回はこの辺で見逃してあげましょう。しかし次に会った時はあなたの命はない。覚悟しておいてください」
そう言って瞬間移動し、消えてしまった。残された私はしばらく呆然としていたが、しばらくして思い出した。
「そうだ……! 赤澤先輩! 青山先輩は!?」
2人ともこのビルの下敷きに……。そんな考えが頭をよぎったが、それはすぐに否定された。
「生きてるよ~」
赤澤先輩と青山先輩の声が聞こえてくる。どこどこ?
声は下から聞こえる。よく見ると、ビルの下から這い上がってくる手が。
「無事で良かった……」
二人に手を差し伸べる。二人上がってきた後、人質になっていた他の魔法少女たちもやってきた。彼女らも無事でよかった。
「助けていただいてありがとうございました!」
魔法少女たちが私に感謝の気持ちを述べる。なんだか照れくさい。私なんかが大勢の人を助けちゃった……。えへへ。
「いえ……、皆さん無事で良かったです」
本当にみんな無事でよかった……。だけど、1人だけ無事じゃない人がいるようだ。
「あれ……、頭が痛い……」
急にめまいがしてきて、私はその場に倒れてしまった。意識が遠くなっていく……。
「……音! 大……か!?」
赤澤先輩の声がかすかに聞こえた気がしたが、返事はできなかった。そのまま暗闇の中に意識が落ちていく……。
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