第13話 吹奏楽
私たちが到着したのはビルがたくさん並んでいたであろう場所。東京の街並みは荒れ果てて、再建の見通しはまるで立っていない。ビルは崩れ、看板も地面へと落ちている。
「そんな……」
崩壊したビル群に言葉を失うしかない。おそらくここはテレビで出ていた場所だ。怪人の恐ろしさを実感する。
「ひどいなこれは……」
青山先輩は顔をしかめる。赤澤先輩も、この光景を目の当たりにし言葉が出ない。
「ここからは変身して行こう」
全員変身し、怪人の襲撃に備える。
ピロピロと音が鳴るので何かと思っていたら、通信装置に通知が来ていた。この周辺の地図と本部の場所が司令官さんから送られていたのだ。
「怪人は見つけ次第処分しろって……。めんどくさ」
青山先輩はやれやれとため息をつく。その地図を見るとここから一キロメートルほどの場所に赤い点が表示されていた。
「じゃあ、行くか。怪人、出ないといいなー」
赤澤先輩はそう言うが、私の予想では出ると思う。嫌な予想は当たるから、とかそう言う精神論的なものではない。つい昨日まで怪人が暴れ回っていたのだから、まだ残っている可能性は高い。そう考えたのだ。
私たちは一歩一歩目的の場所へと歩く。瓦礫を避け、建物が崩れている道を慎重に進む。少し歩いただけなのに汗が流れてきた。
「あの……、あとどのくらいですか……?」
「んー、ここからならあと100メートルぐらいだねぇ」
ヴァイスが答える。私の足はもうガクガクのガタガタ。赤澤先輩の筋トレで瞬間的な力はある程度ついたが、持久力はまだまだだった。
「この近くに広場があるから、そこで一旦休む?」
青山先輩……。優しい! ただの腹ペコキャラじゃなかったんだね!
私の足はひたすらそこを目掛けて動き出す。死にかけていた足も、休憩所に近づいた途端復活するのは誰もが経験したことのあるものだろう。
しかし、オタクな私のセンサーが危険を知らせる。ゲームだと、こういう広いエリアにはボスが出ることが多い。セーブしておくべきだ。私はみんなに警告をする。
「あの……、なんか嫌な予感が……」
「はっはっは! 琴音は心配性だなー! 早く行くぞー!」
赤澤先輩ー!? 勢いよくベンチの方へと駆けていく。
「いや、そういうことじゃなくて……」
赤澤先輩に続いてみんなベンチへ。そこにはベンチの上にはキラキラ金色の光を放つトランペットが。
「わあ! 金ピカのトランペットだ! 吹いてみよー!」
赤澤先輩は相変わらず自由奔放な人だ。それが心配で仕方ない。ていうか吹けるの?
「待って奈々美! そのトランペットから魔力を感じる!」
ヴァイスが突然声を上げる。
その直後、トランペットは大きくなり、手足が生え、怪人へと変貌した。
「う……、うわああ!!! なんだこいつ!」
いきなりのことで驚きを隠せない赤澤先輩。いや、自分のせいだからね? しかし現れてしまったものは仕方ない。全員で武器を構えて怪人に向かう。
「わらわはトランペット女伯。あなたたち魔法少女など消し去ってあげるわ!」
トランペット女伯と名乗る怪人は、トランペットの管から光弾を打ち出す。その光弾は後ろの建物に当たり、壁はバラバラに崩れてしまった。
「なんて威力なの……」
「琴音、私が遠くから攻撃するから奈々美と一緒に攻め込んで」
青山先輩の指示に従い、赤澤先輩のいる所まで走る。
「琴音! 一緒にいくぞー!」
赤澤先輩は剣を構える。その炎は激しく燃え上がっていた。私もシュバルツを相手に向ける。
「これでも喰らいなさい!」
また光弾を飛ばしてくる。今度は何十個もだ。一つ一つの動きはそれほど速くはないが、これほど多いと見切るのが難しい。避けながら少しずつ近づいていく。
「【ウォータービーム】」
後ろからは青山先輩が水弾を放って光弾を打ち消してくれている。そのおかげで私達は光弾の嵐に突っ込んでいけるようになった。
「ここだ!」
ついにトランペット女伯の目の前までやってきた。素早く突きを繰り出す。しかし相手も簡単にはやられない。トランペット女伯はそれをかわし、私に打撃を繰り出す。金属の腕は私の背中に強烈な衝撃を与えた。
「うぐっ……」
その攻撃はあまりにも重すぎる。私の体は地面から浮き、そのまま吹き飛ばされてしまった。そして瓦礫の山に激突する。
「琴音! 大丈夫かー!」
遠距離攻撃だけでなく近接でも強いなんて……。広場の中を走り回っては光弾を飛ばし、近づいたら強力な打撃。このままではキリがない。何か作戦を立てないと……。
「琴音、こいつの正面は私に任せて。琴音は後ろに回り込んで」
「はいっ!」
青山先輩の方にも視線を送ると、心得たとばかりに頷く。引き続き【ウォータービーム】で援護してくれた。
私は赤澤先輩の指示通り後ろに回り込む。瓦礫の山がたくさんあり、足元が悪い。落ちた道路標識やカーブミラーは下手をすると足を怪我しそうだ。
「おい怪人! 私が相手だ!」
赤澤先輩は大きな剣を掲げトランペット女伯の注意を引きつける。
「不愉快な小娘ね。消えなさい!」
大きな光弾を赤澤先輩に飛ばす。だが私の方までには意識が回っていないようだ。
瓦礫の山を乗り越え、ようやくトランペット女伯の死角、左後ろに入った。
「【パワースラッシュ】!」
背後からシュバルツで切り裂く。相手は急な攻撃になす術もなく、その足は崩れた。
「なっ……、いつの間に……」
「【アイスフィールド】」
青山先輩がその隙をついてトランペット女伯の足元を凍らせ、動きを封じた。
「【フレイムソード】!!!」
そこに赤澤先輩の剣が振り下ろされる。炎に包まれたその剣は、トランペット女伯の体を大きく切り裂いた。
「わらわの金ピカの体がー!!!」
トランペット女伯は爆発し、光を放って空へと消えていった。
「何とか勝った……」
私は肩の力が抜けるような思いだった。ただでさえ疲れてるのに、強力な怪人と戦ってもうクタクタだ。
「みんなお疲れ様」
ヴァイスは何もしてないよね? 早く戦えるようになってほしい。無理かー。
「琴音! やったな!」
赤澤先輩が私の背中を叩いてくる。痛いって。赤澤先輩も疲れたはずなのに、全くそのようには見えない。元気だなー。一方青山先輩は……。
「お腹すいた……」
「早く本部行くぞー!」
私たちは荒廃した街の中を再び歩み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます