第12話 出征
怪人も倒せたし、一安心。変身を解除してみんなのいる所に戻る。真っ先に黄田さんが目に入った。血相を変えて私のもとに駆け寄る。
「琴音ちゃん! 大丈夫だった!?」
「うん、なんとか逃げ切れて……」
自分が倒したなんて言えない……。
「無事でよかった……。本当に……」
「えっと、ありがとう」
黄田さん……。本当に優しくていい人!
「これで一件落着、かな」
ホッと胸をなでおろす。怪人も退治できたし、なんやかんや楽しい一日だったからよしとしよう。
「今日は早めに切り上げて部屋に戻るって先生がおっしゃってましたよ。さあ、戻りましょう」
私は黄田さんの手に引かれて部屋に戻っていく。海の波は穏やかになり、夕日は優しく私たちを照らす。
☆
消灯時間になると、みんなは疲れていたのかすぐに寝てしまった。私はなんだか眠れなくて、ただボーッとしている。きっと怪人にビビったせいだ……。
「琴音ちゃん」
黄田さんもまだ起きていたのか。私は布団か
ら起き上がり、メガネをかけて黄田さんの方に向く。
「あの……、黄田さん」
「うん、琴音ちゃんも眠れないんですね」
「あ……、うん……」
黄田さんは布団から出て、私のベッドに腰をかけた。
「今日は本当に楽しかったですねー」
「そうだね……」
今思い返してみると、本当に騒がしくて、印象に残る日だった。海の良さも知れたし、班員のみんなは優しかった。怪人が出たのは大変だったけど……。
「私、琴音ちゃんの意外な一面も知れて良かったって思ってます」
「えっと、何のこと?」
「秘密でーす」
いたずらっぽく笑う黄田さん。
「……釣りのこと?」
「まあ、そうですねえ。そろそろ寝ましょう。明日もあることですし」
そう言って布団の中に深く潜り込んだ。それに合わせて私も寝るしかない。照明は完全に消され、一面に真っ黒な天井が広がる。黄田さんは何を思い、布団の中にいるのだろうか。
☆
「ただいまー」
「おかえり、琴音。楽しかったかい?」
翌日は特にこれといったこともなく時間がすぎ、あっという間に帰宅の時間になった。久しぶりに見るヴァイスの顔に安心させられる。
「うん……、まあ、それなりに……」
「琴音って分かりやすいねー。本当はめちゃくちゃ楽しかったんだね」
「もー! バカー!」
ヴァイスムカつく! いつも私を見透かしたようなことばっかり! はっ、もしかしてそう言う能力が!?
「琴音はすぐ顔に出るから分かるだけさ」
「また変なこと言ったー!」
「落ち着いてって。それよりテレビ付けて」
急だな……。私は言われるままにテレビの電源を付け、なんとなくニュース番組に切り替える。
『昨晩の怪人の襲撃により、東京は大きな被害を受けました。死者、行方不明者は合わせて数百人に登ります。現在も警察は調査を進めており……』
ニュースキャスターは深刻な表情で伝えている。私がいない間に大変なことになったな……。画面には崩壊した建物の様子が映し出された。
「そんな訳で、早速司令部から呼び出しがあったよ。さあ、行こうか」
「待って、まだ帰ってきたらばかりなのに……」
「【ワープ】!」
「うわああああ!!!」
白い光に包まれ、すぐに司令部へと移動される。体全身には未だ疲れが残っているのに今から司令部? 過労死間違いなし。
司令部に入るといきなり赤澤先輩、青山先輩な出くわす。出待ちされることがもはや当たり前になりつつある。
「琴音、早く会議室に行こう」
「司令官さんが待ってるぞ!」
「え……、いや先に休ませて……」
私がクタクタなのをお構いなしに会議室へと連行された。
「さあ早く会議始まるぞ!」
赤澤先輩がタブレットの電源を入れ、目にも止まらぬスピードで操作する。速すぎて目が回りそう。赤澤先輩って、意外にコンピューターに強いのかも。
会議が始まり、司令官さんが画面に表示された。
『君たち、突然だが東京に来てもらおう』
「なんでいきなり!」
赤澤先輩が声を荒らげる。確かに急すぎるよ……。私もまだ体もクタクタなのに、無理難題を押し通されても困る……。
『君たちも東京の状況を知らないはずがないだろう? 戦力が全く足りていないのだ。だから東京に行って怪人たちを倒してほしい』
急にそんなこと言われても、あんなに荒れていた東京を見てやる気を出す方が難しい。それだけ強力な怪人がいるということだから。
ほら、青山先輩なんて露骨に嫌そうな顔してる。見れば、顔を歪めているのは青山先輩だけではない。赤澤先輩までも目を瞑って悩ましそうな顔を作っていた。
「東京かー……。久しぶりだなー」
「え?」
思いがけない言葉につい反応してしまう。青山先輩が代わりに説明する。
「私たち、元々は東京で活動してたんだけど、訳あって神奈川に異動したんだよ」
「ああ、そういうことだったんですか……」
異動になった理由は青山先輩の謹慎と関係あるのだろうか。司令官さんがさらに話を進める。
『来てくれたら……、報酬が出ないこともない。期待していてくれ』
報酬……? それを聞いた青山先輩がよっこらしょと立ち上がる。
「仕方ないですねぇ……。私は報酬なんかに興味ありませんが、世のため人のため、一仕事するとしましょう」
「青山先輩……?」
「東京は私が守る! 行こう!」
突然立ち上がって拳を強く握りしめる。そして何やら演説をする政治家のように手を振る。
ああ、これは完全に報酬に脳がやられたのだ。
『決まりだな。では今からここに転送……、と言いたいところだが、あいにく魔力不足なのだ。本部の近くに転送するから、そこからは歩いてきてくれたまえ』
「えっ、ちょっと待って……」
「瑠夏ー! 適当なこと言うなー!」
「やれやれ、瑠夏はいつもそんな人だからねえ」
それぞれが文句を垂れながら、三人(と一匹?)は東京へと飛ばされるのだった……。
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