第8話 黒鉛
司令部に帰還し、焼き鳥を食べながら反省会をしていた。
「琴音、瑠夏、お疲れー」
「ありがとうございます」
「ただいまーもぐもぐ」
赤澤先輩に迎えられ、焼き鳥を食べながら席に着く。まずは赤澤先輩の激励の言葉から。
「今回もよくやった! 二人とも! で、その焼き鳥私の分は?」
「ないよ」
「なんでー! いいじゃーん!」
駄々をこねる赤澤先輩。いや、ないものはないんだから仕方ないじゃん。諦めたのか、少し静かになったところで本題に入る。
「えっと、私より青山先輩が主に頑張ってくれて……、なんか申し訳ないです」
「まあ、琴音も頑張ってたからよし」
「あっ、ありがとうございます」
「だけど、必殺技が一つも使えないのは心配だね」
「はい……」
赤澤先輩や青山先輩は名前のついてる技をよく使っていた。私は「おりゃー!」とか「えい!」とかしかないけど。
「これから先、もっと強い怪人が現れるだろうし、何より組織のボスがどんなやつか分からない。そいつを倒すまで私たちの戦いは終わらないから……」
窓の外のどこか遠くを見るようにして青山先輩は話す。
敵組織のボス……。どんなやつなんだろう。それに、どうして怪人を使って人々を困らせるのだろう。世界征服なんて何のために……。悪い人の考えることは分からない。
「今日はここまでにしようよ。解散!」
赤澤先輩の元気な声が会議室に響き渡り、私たちは帰り支度をして部屋の外へと出た。
☆
「ただいまー」
「琴音、おかえり」
ヴァイスがふわふわと飛んで出迎えてくれた。青山先輩と一緒に戦ったこと、会議のことを話した。
「うーん、琴音はまだ駆け出しだからねえ。必殺技は魔力だけじゃなくて経験も必要なんだよ」
「経験かあ……」
「まあ、焦らずゆっくりやっていこうよ。僕は応援してるからね」
ヴァイスの優しさに心が癒やされる……、なんてことはなく。むしろ不安が募る。私ってこのままで大丈夫なのかな? と。
「疲れただろうから、今日は休んだ方がいいんじゃない? 体調管理も魔法少女には大事だよ」
「うん、アニメ見る」
「ほんと好きだよねー」
私はアニメに出るようなカッコいい魔法少女になれるのか。それははっきりとしないが、きっと私の努力にかかっているのだろう。
翌日、嫌々ながら登校し、席に着く。頼むから学校にいる時に怪人が出るのはやめてください。
「……」
私が魔法少女だということをクラスの人は誰も知らない。シュバルツのようなチートアイテムを手に入れて人のために頑張ったとしても、全く賞賛されないことで虚しさを感じる。
「はあ……」
窓の外から校庭を眺める。今朝は運動部の人たちが部活に励んでいるのが見える。よくあんなに頑張れるよ……。私、筋トレ恐怖症だもん。赤澤先輩のせいで……。
「琴音ちゃん、おはよう」
「……あ、おはよう」
クラスメイトの女の子が話しかけてきたので一応挨拶を返す。陰キャあるある、まさか自分が話しかけられるとは思わないので、挨拶されるとビビる。
次第に教室は人でいっぱいになり、騒がしくなる。担任の先生が入ってきた。
「席ついてくださいー。今日の予定はー……」
うわ……、体育あるんだった……。私が恥をかくためだけに存在している科目。今日も憂鬱だー……。
「琴音がまた絶望顔になってるー」
「ヴァイスはもう学校来ないで」
☆
今日も何事もなく一日が終わった。怪人が出なくてよかった……。カバンを持って坂を下っていく。上るのはもちろん大変だけど、下るのもちょっと怖いんだよなー。
「今日は怪人が出なくてよかったね」
「うん。たまには平和な日があってもいいよね」
「なんて言ったら出てきたりして」
「えっ」
私が口を開けてぼけっとしてると、背後からつんざくような轟音が鳴り響いた。この音は……。振り向くと、先が黒く、とんがった怪人が立っていた。
「フラグだったー!?」
「吾輩は鉛筆ナイト。貴様ら愚民をこの鉛筆で八つ裂きにしてやろう」
鉛筆ナイトは右手に鉛筆のような剣、左手には分度器のような盾を持っていた。
「ヴァイス、どうするの? こいつ……」
「とにかく、そこの影に隠れて変身しよう」
私はヴァイスの指示通りに建物の影に隠れる。そして、ステッキを手にして叫んだ。
「光の戦士! 変身! セイント☆ブラック!」
変身を終え、鉛筆ナイトの前に立ちはだかる。
「わ、私が相手だ!」
「魔法少女か……。面白い我が剣技を受けてみよ!」
目にも止まらぬ速さで繰り出される斬撃。私はそれを避けたりシュバルツで防いだりするのもギリギリというレベル。
「くっ……」
速い……。次は右から来る。これは避けて、次はシュバルツで受け止める……。このままではキリがない。
「ええい!」
なんとか隙を見つけ、そのまま斬りかかった。だが、それは簡単に防がれてしまう。分度器の盾は私のシュバルツをもってしても砕けなかった。
「その程度か魔法少女よ! 今度はこちらから行くぞ!」
鉛筆ナイトの猛攻が再び始まった。私も体力の限界が近く、段々追いつけなくなってきた。
「そこだ!」
私の左側に剣が迫る。
避けきれなかった。左肩に剣が掠め、激痛が走る。
「うっ……、くっ……」
「琴音!」
肩を押さえ、跪く。かなりダメージを負ってしまった。
「どうした? 終わりか?」
「ま……まだ……、私が死んだら……、この街のみんなが……」
「くだらん。次は命を絶つ」
鉛筆ナイトが剣を振り上げてトドメを刺そうとしている。私は痛みに耐えながら立ち上がる。
再び激しく剣がぶつかり合う。だが、劣勢なのは私。それは変わらない。
「これで終わりだ!」
鋭い一撃が繰り出される。
ダメだ……、勝てない……。もっと私が強ければ、街のみんなを守れたのかな……? 死なずに済んだのかな……? 諦めかけたその時。
「琴音! 頑張れ!」
ヴァイスの応援。そうだ、私が諦めたらみんなを守れないんだ。
魔法少女は諦めない。みんなの平和のために!
「負けてたまるかー!」
私は飛び上がり、シュバルツを構えた。その先端は夕焼けに照らされて美しく輝いた。
体の内側から力が溢れてくる感覚がある。力がみなぎり、感覚が研ぎ澄まされるのを感じる。こんな状態で戦うのは初めてだ。仲間がいるから強くなれるの……? とにかく今は目の前の敵を睨みつける。
私は鉛筆ナイトに斬りかかった。今までとは比べものにならないほど速く動けることに自分でも驚いた。
「ぐぬっ……」
鉛筆ナイトに一矢報いることができた。だが相手は強力な盾を持つ。これを攻略しなければ不利なままだろう。盾を破るほど強い技……。必殺技だ!
「【パワースラッシュ】!」
大ぶりで動きはそれほど速くなく、敵が盾を構えるのは余裕だろう。だが……。
盾にヒビが入る。
「バカな……」
ガラスが割れるような音が響き、盾が砕けた。盾のない相手はもう怖くない。
「くらえー!」
シュバルツを振り下ろす。鉛筆ナイトは剣を使って攻撃を防ごうとするが、その剣もろとろ破壊していく。
「吾輩が……、負けるだと……」
鉛筆ナイトはいつものように砕け散り、光を放って消滅した。
「勝った……」
私はその場に倒れ込む。さすがに疲れた……。肩も痛いし……。もう動けない……。すると、ヴァイスが私に近づいてきた。
「琴音……。すぐ司令部の医務室に連れて行くよ! 【ワープ】!」
ヴァイスはそれほど遠くまでワープできないと言っていたのに……。私を助けるために大量の魔力を使ったのだろう。今日はなんだかヴァイスがカッコよく見えた。
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