第9話 幹部

 目が覚めると、一面に白い天井。確か、司令部の医務室に運ばれたんだったっけ。変身は解除されていて、怪我をした肩には包帯が巻かれていた。


「琴音、起きたみたいだね」

「ヴァイス……」


 ヴァイスがふわふわと私の顔の近くまでやってきた。心配してくれているのだろうか。


「しばらく入院することになったよ。少し斬られただけだから、一週間もすれば完全に治るって」

「そう……。ヴァイス、その、応援してくれてありがとね」

「仲間の応援をするのは当たり前だよ」


 仲間。その言葉を聞いて少し嬉しかった。こんな私でもヴァイスが大切に思ってくれるなら、頑張ろうと思った。


「それに、必殺技を習得できたのは琴音自身の力だって信じてるから」

「ありがとう」


 ヴァイスは私の頭を優しく撫でてくれた。慣れない感覚にくすぐったさを感じたが、少し心地よかった。


「琴音! 起きたんだな!」

「心配したよ」

「赤澤先輩……、青山先輩……」


 外から声をかけられる。そこには息を切らして顔を赤くしている赤澤先輩、さらに後ろから青山先輩も駆けつけてくれた。


「琴音が死ぬかと思って……」

「おおげさですよ」

「無事でよかったよ」


 二人もヴァイスも、心から私の頃を心配してくれて、仲間として認識してくれていると実感した。優しくしてもらってからそんなことを言うのは虫が良すぎるかもしれないけど、それが今の素直な気持ちだった。

 熱血な赤澤先輩、ちょっと変な青山先輩、優しいヴァイス。みんな大切な仲間だ。


 ☆


 なんとか傷は治り、退院することができた。それにしても、この司令部には腕のいいお医者さんがたくさんいるんだなあ。どうやって雇ったんだろう。考えても答えが出そうにはないが、少し不思議に思った。

 久しぶりの外。シャバって言うとヤバそうな感じがするなあ。なんてどうでもいいことを考えるくらいには回復していた。今日は帰って久しぶりにアニメでも見ようかなー、と思って背伸びをするが、そうもいかないのが現実。


「琴音、今から会議だって」


 青山先輩に呼ばれ、会議室へとついていく。いや、会議室ってどこの?

 終着点は、タブレットのある方の会議室だった。ということは司令官さんから何かあるのだろうか。

 青山先輩がドアノブをひねり、挨拶をしながら部屋に入る。


「やあやあ」

「瑠夏、やっと来たかー。琴音も一緒なんだな」


 赤澤先輩が先に来ていて、資料を折って遊んでいた。それ多分司令官さんに怒られますよ?


「全員揃ったし、始めよう」


 赤澤先輩がタブレットを操作し、画面にロリっ子……、もとい司令官さんが表示される。だが顔立ちは相変わらず凛々しい。


『久しぶりだな。特に青山は』

「お久しぶりです」

『琴音も回復したようだな』

「あっ、はい」


 司令官さんが私に微笑みかける。クールな人だけど、優しいところもあるんだなあ。


『報告は大体ヴァイスから聞いている。今回呼び出したのは、エンデ・シルバーの幹部についてだ』


 会議室の空気が変わる。赤澤先輩は椅子に座り直し、青山先輩も腕を組み直した。私もつられて気を引き締める。


『最近、東京で非常に強力な構成員が現れている。それは今まで見たこともない、いわゆる幹部だ』

「エンデ・シルバーの幹部……、何者なんでしょうか?」

『今分かっているのは一人。白衣を着て、フラスコを持っている女性だ。歳は君たちと同じくらいだ』


 私たちと同じくらいの、つまり高校生が悪の組織の幹部!? そんなことある? と思ったがそもそも魔法少女自体ありえないよね。


『白衣を着ていることから、医者や研究者といった雰囲気だろう。攻撃も科学力を駆使したものだった。まだ名前などは分からないが、詳しいことが分かり次第報告する』


 タブレットには様々な攻撃が書かれている。鉄のアームでパンチするとか、毒を出すとか。


『以上だ。今日もパトロールと訓練を怠らないように』


 ☆


 会議が終わり、会議室の雰囲気が緩む。まず私に話しかけてきたのは赤澤先輩だった。


「たとえ敵がどんなに強くても、自分の実力を最大限発揮しないといけない! 今から筋トレ行くぞー!」

「はあ……、分かりました」


 赤澤先輩の熱血さがとても眩しい。私なんかが一緒にいると熱で溶けてしまいそう。そして青山先輩はと言うと……。


「私は帰ってアイスクリーム食べたい」

「瑠夏も筋トレ来ーい!」

「嫌だ。私は帰宅……」

「強制連行だー!」


 赤澤先輩は青山先輩を引きずって筋トレへ向かった。私はそれに人生最大の恐怖を抱き、足は勝手にトレーニングルームへと向かっていった……。

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