第7話 水と氷
放課後、またまた私は司令部に来る。ここの景色にも見慣れたものだ。よく見ると職員のような人もいるし、部屋もたくさんある。エレベーターを降りるとすぐに赤澤先輩が出迎えてくれた。
「琴音! いらっしゃい!」
「あっ、どうも」
相変わらずテンションが高い。暑苦しいと言ってもいい。
案内されたのは会議室。ここの司令部には会議室が異常に多く、似たような廊下ばかりなのでどこの会議室か分からなくなる。司令官さんと通信した部屋とは違うということだけはなんとか分かった。
「ここの部屋で私のバディが待ってるんだ」
「バディ?」
「ああ、実はいろいろあって謹慎になってて……。ようやく明けたんだよ」
謹慎!? 魔法少女にそんなのあるの!? 何をやっちゃったんだろう……。ヤバい人なのかな……。
「おーい、入るぞー」
赤澤先輩がドアを開けた。そこに座っているのは……。
「……誰? 君」
ポテトチップスをバリバリと食べながら、青髪の女の子が私を睨みつけている。横にはサイダーのボトルも置かれている。
「えっと、私は……」
怖い……。謹慎になるくらいの人だから、きっとヤンキーなんだ。普段は釘バット持ってそう。
「この子は黒井琴音ちゃん! 最近入った魔法少女だよ!」
赤澤先輩ナイス! この空気から救ってくれて。私は喋るのは大の苦手だから、一人だったらきっと気まずさ最大瞬間風速達成だ。
「君が琴音? そこそこ活躍してるっていう」
「私って、そんなに評判いいんですか?」
「ああ、新入りの魔法少女が単独で怪人を倒すなんて滅多にないからね」
「は、はあ」
「そんな君にプレゼントがある」
赤澤先輩の時みたいに強い武器とかくれるのかな? 期待に胸を膨らませるも、それはぬか喜びだった。
「このポテチ、食べていいよ」
「あ、ありがとうございます」
いや、悪くはないけど……。怪人を倒したにしては報酬が軽い。と思いつつもポテチを一枚取る。おいしい。
青髪の人はポテチの横に置いてあるサイダーを一口飲んでから言った。
「私は
「はい、赤澤先輩から聞きました。その、聞きづらいんですけど、なんで謹慎になったんですか?」
「まあそれはいいじゃん」
触れたくないんだろうな……。だけど、お菓子をくれる優しそうな青山先輩が何をやらかしてしまったのか想像もつかない。
「それでさ、私もしばらく戦ってなくて感覚が鈍ってるかもしれない。一緒に戦いに来て欲しいんだけど……」
「私じゃダメなのか?」
そうそう。元々バディなんだから赤澤先輩の方がいいと私も思う。
「いや、少しでも若い子の方が……」
と言うと同時に赤澤先輩のげんこつが炸裂。青山先輩は頭をさする。
「いてっ」
「私、瑠夏と同い年だよな? 17歳」
「後輩ちゃんと一緒がいい」
殴られてもなお折れない青山先輩。それに呆れたか、赤澤先輩はため息をつく。
「はあ……、まあ瑠夏が一緒なら琴音を任せてもいいかな」
「やったー」
小さく手を挙げ、棒読みな感じで喜ぶ青山先輩。赤澤先輩、意外に苦労人なのかもしれないな。
「あの、だけど次に出動するのがいつになるか……」
「確かに。ちょっと気が早かったかも」
などと会話していたその時。私たちの通信装置が鳴り響く。
「おや、こんな都合よく。琴音、行こう」
出動が少ない方が平和でいいんだけどな……。やる気になった青山先輩の顔を見たらそんなことは言えなかった。
「奈々美はここに残ってて」
「琴音、瑠夏。頑張れよー」
赤澤先輩に見送られ、私と青山先輩は街へと駆け出していった。
☆
やってきたのは街のとある広場。普段は人が多く集まる賑やかな場所だが、今日はやはり怪人から逃げ惑う人の姿しかない。
「さて、今日はどんな怪人かなー」
「青山先輩……、不謹慎ですよ……」
青山先輩は呑気な様子でステッキを振り回している。それほどまでに強いのかな、青山先輩って。
「おっ、来た来た」
青山先輩の指差す先にいたのは、青くて細長い怪人。そしてゴーレムの戦闘員たち。
「俺はホース男。この広場に集まる者を水浸しにする男!」
正直、今までの怪人と比べると凶悪さが弱いような……。と思ったのも束の間、ホース男が水を吹き出して広場の銅像に水をかける。
「くらえー!」
銅像はバラバラに砕けてしまった。これを人間が食らうと考えると……。
「琴音、変身するよ」
「あっ、はい」
「セイント☆ブラック(ブルー)!」
青山先輩はセイントブルーに変身した。そして彼女のステッキは変形していき、瑠璃色に輝く腕輪になって右腕に装着された。
「これは【ネーベルリング】。効果は……、見ててね」
戦闘員たちが一斉に攻撃を仕掛けてくる。青山先輩はやつらに立ちはだかり、魔法を唱えた。
「【ウォータービーム】」
次の瞬間、青色の魔法陣が空中に展開されそこから水が放出され、戦闘員を一掃した。水の威力は強力で、戦闘員たちは跡形もなく消滅した。
「す、すごい……」
私は槍で近距離戦しかできないが、飛び道具が使える青山先輩は心強い。赤澤先輩と組んでいたのも納得できる。
「琴音はそっちの戦闘員を頼んだよ」
「は、はい!」
ホース男の相手を青山先輩に任せ、私は戦闘員たちと対峙する。攻撃は弱いが、なかなか鬱陶しい。戦いづらさを感じる。私もシュバルツを取り出し臨戦体制に入った。
シュバルツを振り回して敵をなぎ倒す。戦闘員は一人、また一人と数を減らしていく。
「これで……、終わり!」
最後の戦闘員を斬り捨てた。倒せてよかった……。ふと青山先輩の方を見る。
「【アイスウォール】」
氷の壁を作り出して敵の放水攻撃を防いだ。そして、その氷の壁を倒すことで反撃にも転じることができる。青山先輩の戦闘センスを感じる。
「琴音、敵を倒したね。あとはホース男だけだよ」
「はいっ」
青山先輩と合流し、二人でホース男に視線を向ける。水攻撃を防がれて悔しいのか、苛立った顔をしている。
「俺の水を防げるだと……。おのれー!」
さらに水を噴き出してくる。だが、その水は途中で動かなくなった。
「効かないよ」
青山先輩がホース男が放つ水の先を凍らせている。ホース男がどれだけ強く水を出しても壊れない。
「私の能力は水と氷。水は凍らせることもできるし、氷は攻撃にも使える。君の水じゃ私の氷は壊せないよ」
「くっ……」
ホース男の攻撃をものともせず、どんどん追い詰めていく。
「【アイスフィールド】」
ホース男のいる周りが凍りつき、動きを封じた。
「琴音、頼むよ」
「は、はい!」
すっかり見惚れてた。敵の動きを止めている間にトドメを刺さないと。
シュバルツを大きく振りかぶって力を込める。
「おりゃー!」
ホース男めがけてシュバルツを振り下ろす。氷が砕け散り、敵もろとも破壊する。やはりシュバルツの威力は絶大だ。
「ぐわあああっ!」
断末魔をあげて消滅するホース男。青山先輩との連携攻撃で倒すことができた。青山先輩が来てくれてよかった……。
「お疲れ様です、青山先輩」
「琴音もお疲れー」
これで敵も倒して一安心、ではなかった。突然青山先輩がしゃがみ込み、小さな声で言った。
「魔力の使いすぎでお腹すいた……」
「え?」
まさか、青山先輩って腹ペコキャラなの?
「この近くに焼き鳥の匂いが……。買ってきて……」
すごい嗅覚だ。犬よりすごいかも。このままでは青山先輩が死んでしまうので、すぐに買いに行く。
って、青山先輩と一緒に戦うたびにこんな感じなのー!?
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