第4話 ネギ坊主

 筋肉痛は翌日には治った。お父さんはなかなか筋肉痛が治らないと言うけど、やっぱり私はまだ若いのかな。うん、若いのは素晴らしい。

 筋肉痛がなくなってもなお重い腰を上げ、学校に行く準備をする。


「琴音、早く行くよ」

「うー……」


 なぜヴァイスに催促されないといけないのかは分からないが、のろのろと玄関を出る。

 学校は、家から徒歩15分ほど。しかし坂道が非常に険しいため、時間以上に疲れる。この坂は体感で50度の傾斜がある。それはないか。


「琴音、体力ないんだねー」


 ヴァイスはふわふわと飛んでいて楽そうだ。私も飛べたらいいのに……。

 やっと到着したときには、私は息切れしていた。「県立英華高校」と書かれた看板が見える。校庭の桜の木はまだ美しく咲き誇っている。


「毎日こんな感じなの?」

「うるさい」


 下駄箱で上履きに履き替え、教室へ向かう。ガヤガヤとした廊下では、陽キャ達の話し声が聞こえる。

 教室では、私は特に何もすることはなく机の上に頭を置いて寝たふりをした。


「ねえ、琴音ってぼっち?」

「うるさい」


 うるさい。ぼっちが悪いなんて誰が決めたんだ。私は一人でも大丈夫なタイプだから、友達なんて必要ない。……ごめんなさいそれは強がりでした。本当はぼっちは嫌です。


 ☆


 昼休み。クラスのみんなは食堂に行ったり、友達と集まってお弁当を食べたりしている。私は一人でお弁当を食べる。


「ぼっち飯かー」

「うるさい」


 今日はうるさいしか言ってない気がする。

 お弁当を食べていると、突然ピロピロと音が鳴る。スマホの音ではない。魔法少女になったときにもらった通信装置の音だった。


「琴音、この通信装置が鳴るってことは近くに魔物がいるってことだよ」

「魔物?」


 つまり私が変身して戦えということだろうか。魔法少女としての初仕事頑張ろう。乗り気じゃないけど。


「昼休みだけど、ワープして行くよ」

「え? ワープ?」

「【ワープ】!」


 ヴァイスがそう叫んで手を挙げると、白い光を放って私たちは光に包まれた。


「うわー!!!」


 ☆


「琴音、着いたよ」

「うう……」


 気がつくと、学校から近く商店街の辺りに来ていた。


「案外近いんだね」

「あまり遠くにはワープできないんだよねー。さあ、魔物を探しに行こう。ここからそう遠くないさ」


 ヴァイスに促され、私は一歩一歩商店街の中を歩く。

 少し歩いたところで違和感を覚える。いつもなら人で溢れかえっているはずの商店街に誰もいない。きっと怪人から逃げてきたのだろう。全員無事ならいいけど……。


「ねえ、琴音。あそこにいるのって……」

「え?」


 その指さした方向には白と緑の長い奴と、メカメカしい戦闘員、ゴーレムのようなゴツゴツした戦闘員がいた。戦闘員は合わせて10人ほどか。


「さあ、変身しよう」

「うん」


 私はステッキを掲げ、ブレスレットをかざす。


「光の戦士! 変身! セイント☆ブラック!」


 装備から黒い光が放たれる。

 やっぱり恥ずかしい……。それより、早く戦いに行かないと。

 敵に向かって走ると、白と緑の怪人が私に気づいた。


「お前は魔法少女か! 俺様はネギ男。エンデ・シルバーの怪人だ!」


 ああ、なんか見たことあると思ったらネギか。見た目と名前はダサいが、こういうやつほど強いのだろう。(少なくとも私よりは)


「ゆけ! 戦闘員ども!」


 ネギ男の合図で戦闘員が私に襲いかかってきた。


「琴音! そのステッキを振って戦うんだ!」

「でもヴァイス……、私殴り合いなんてしたことない……」

「いいから戦う!」


 戦闘員の一人が私の前にやってきた。ケンカの経験なんてないけど、やるしかない!


「おりゃー!」


 ステッキを振るうと、見事戦闘員の頭に命中。

 戦闘員は倒れ、消滅した。


「琴音! 次が来るよ!」


 今度は二人同時に襲いかかってきた。私はステッキを振り回し、なんとか攻撃を防ぐ。


「痛っ!」


 一発殴られてしまった。少し痛いが、我慢してなんとか次の攻撃を繰り出す。


「えい!」


 次々襲いかかってくる戦闘員を地道に攻撃していく。

 ついに、10人いた戦闘員を全て倒すことができた。少し殴られたが、怪我はない。私、意外と強い?


「ふん、戦闘員を倒すとはなかなかやるではないか。次は俺様が相手だ」


 ネギ男はネギのような長い剣を取り出した。素手で戦う戦闘員より遥かに強いだろう。


「さあ、いくぞ!」


 ネギ男が剣を振ると鋭い刃がこちらに迫る。


「うわ!」


 なんとか避けることができたが、この調子では逃げるばかりで反撃ができない。


「どんどんいくぞ!」


 ネギ男が剣を振るい続ける。私は攻撃を避けて逃げ回るばかり。攻撃をしても、ネギ男は怯まず反撃してくるため、こちらが不利だ。


「どうした? そんなものか!」


 もう体力の限界だ。足がもつれて転んでしまった。


「痛い……、もうダメ……。私死ぬ……」


 本気で死を覚悟した。ネギ男が迫り、とどめを刺そうとしている。


「これで終わりだ!」


 ネギ男が大きく剣を振りかぶったその時。


「【フレイムソード】」


 ネギ男の剣が真っ二つになり、破片が燃えて炭になった。


「な、なんだこれは!」

「琴音、助けに来たよ」


 声のした方を振り向くと、そこには赤の服に身を包んだ魔法少女が。


「赤澤先輩……」


 司令部で会ったときの服装とは違って魔法少女の服を着ていたため、印象は大きく違っていた。ただテンションの高い人というより、頼れるお姉さんの雰囲気があった。


「ここは私に任せて」

「は、はい」


 赤澤先輩は剣を構える。


「さあ、かかってこい!」


 その剣は赤く光り輝き、熱を発しているように見える。まるで太陽のよう。


「ふん! そんな剣など俺様のネギで叩き斬ってくれるわ!」


 ネギ男は再び剣を振る。


「くらえ!」


 赤澤先輩の剣が触れると同時に、ネギ男の剣は焼け落ちた。私はただ彼女の活躍を見届けることしかできない。


「とどめだ! 【フレイムソード】!」


 赤澤先輩の渾身の一撃がネギ男に炸裂。


「バカなああ!」


 ネギ男は倒れ、銀色の光に包まれて消えた。その光は私と赤澤先輩のステッキに吸い込まれる。


「す、すごい……」


 思わず口から言葉が出た。戦いの最中に感じた彼女の強さ。その片鱗を私は目の当たりにしたのであった。


「赤澤先輩、助けていただきありがとうございます!」

「いやいや、魔法少女として当然のことをしたまでだって!」


 赤澤先輩、やっぱりカッコいいな……。それに比べて……。


「ねえ、ヴァイスも援護してくれればよかったのに。なんか魔力弾出すとか」

「そんなことできないよ。僕ができるのはナビゲートと【ワープ】だけ」

「はあ……」


 思わずため息が出る。ヴァイスって戦えないんだ……。


「そうだ琴音。さっき魔力が溜まったよね? それの使い方教えてあげるから、今日の放課後にでも司令部に来てよ」

「あっ、はい」


 魔力の使い道……。全く想像がつかないが、何かすごいことなのだろうということを期待しながら私は商店街を後にした。

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