第5話 暗黒槍
放課後、赤澤先輩の約束通り司令部、つまりマジカルモールに向かう。その足取りはいつにも増して軽快だ。
エレベーターを降りると、いきなり赤澤先輩が出迎えてくれた。
「やほー琴音! 来たねー」
「赤澤先輩、こんにちは」
今回の赤澤先輩は変身しておらず、いつものラフな格好だ。
「じゃ、さっそくゴー! 私に付いてきて!」
赤澤先輩はこの前のように無理やり手を引くことはせず、私はただ後ろを付いていった。だが、歩くそのスピードはなかなか速い。いや私が遅いのか。
到着した先は一見すると普通の部屋である。しかしここのドアを開けると、金色に光る大きな機械が置かれていた。
「何ですか? これ」
「ふっふっふ……。琴音、ステッキをかざしてみて」
赤澤先輩は機械の赤い玉のような部分を指さす。私は変身ステッキを取り出し、そこにかざしてみる。
『認証……、コード【シュバルツ】』
機械音声とともに私のステッキが光る。
「な、何これ!?」
ステッキはみるみるうちに変形していき、ついには大きな槍になった。刃は
「これが魔力の使い方だよ。魔物を倒して、魔力を貯めれば武器が作れる。これで戦えるぞ!」
「す……すごい……。本当にこれが私の武器……?」
「もちろん。琴音の【シュバルツ】カッコいいぞ!」
「あ、ありがとうございます……」
「そうだ、私の武器も見る? この前は余裕なかったからさ」
ネギ男との戦いで助けてもらったとき、赤澤先輩は炎をまとった剣を使っていた。あれも魔力で作ったものなのだろうか。
「私の武器は【コーレンストッフ】! 炎を操るぞ!」
「すごいです!」
「私ももっと強くなってエンデ・シルバーを倒さないといけない! 一緒に頑張ろう!」
赤澤先輩と協力すればきっと倒せる。武器も手に入れたし、魔法少女としての第一歩を踏み出せた気がした。
「そのために筋トレだ!」
「え?」
間抜けな声が出てしまった。筋トレ? またやるの? 武器の訓練は?
「ほら、行くよ!」
「え、ちょ、ちょっと……」
ああ……、今日も筋肉痛確定だ……。
☆
さすがに慣れたのだろうか。この前のように激痛に襲われることはなかった。痛いけど、歩くことはできる。
「少しは筋肉ついてきたんじゃない?」
「うーん、自覚はないけど」
私は腕を曲げてみせる。だが、筋肉がぷっくり盛り上がったりはしない。まだ二日目だし……。
「継続は力なり、だね」
「まだ続けろってこと? はあ……」
「それより、今日は祝日で休みだけど、何するの?」
「今日はね……」
よくぞ聞いてくれた、ヴァイス。今日は魔法少女のアニメのグッズを買いに行くと決めている。
「アニメのグッズを買いに行くんだ」
「ふーん、琴音ってオタクだもんね」
「魔法少女のためなら何でもする! それが私!」
「自分だって魔法少女じゃないか」
それとは違う。私のようなへっぽこ魔法少女は全く萌えない。強くて、カッコよくて、可愛いのが魔法少女。私は別に強くも可愛くもないし。
「とにかく行ってきます! お留守番頼んだよ!」
「こんなに嬉しそうな琴音、初めて見た」
るんるんうふふな感じで歩き出し、バスに乗ってアニメショップへと向かった。ここからバスで三駅ほどにあるアニメショップは建物の地下にあり、それはもうオタクの聖域。店内に入ると、そこはまさに夢の世界。
「いらっしゃいませー」
店員さんの声を聞きながら中を見て回る。流行りのアニメから深夜アニメまで取り揃えていて、どれだけ見ても飽きない。
「魔法少女ちゃん、魔法少女ちゃん♪」
あった。ここの棚には魔法少女のグッズがたくさん。今回欲しいのはこのフィギュア。
「おお……、尊い……」
つい変な声が出てしまう。よだれが垂れないように気をつけないと。このフィギュアは表情パーツが複数付いており、様々な顔の魔法少女を愛でることができる。全体的によくできてるなあ……。家に帰ったら、スカートの中もチェック……。いやいや、私完全にヤバいやつじゃん!
会計を済ませて店から出る。スマホの時計を見ると11時。昼ごはんはこの辺で食べようかな。ハンバーガー屋さんが近くにあるからそこに行こうと思ったそのとき。
「怪人だー! 逃げろー!」
道の向こうを見ると、大きな怪人が暴れていた。逃げ惑う人々。その怪人は金属でできていて、妙な形をしている。これはハサミ?
「我はハサミマン。愚かな市民どもよ! 我に平伏せ!」
ハサミマンを名乗る怪人は腕の刃を振り回した。それが電柱に当たると真っ二つに切れる。なんて恐ろしい怪人だ。
(うう……、私が戦うべき……、なのかな……)
ヴァイスは家にいる。今回も赤澤先輩が助けてくれるとは限らない。戦うことにためらいがあったが、手元のフィギュアが決心させてくれる。
(そうだ。私はカッコいい魔法少女になりたいんだ!)
ステッキを取り出す。今はもう、以前の私とは違う。【シュバルツ】もある。
「光の戦士! 変身! セイント☆ブラック!」
変身すると、ステッキを変形させて【シュバルツ】を出した。街の平和は私が守る! なんてカッコつけたけど、本当はめちゃくちゃ怖くてちょっと足が震えてる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます