第2話 司令官

 日曜日はダラダラとしていたい。だけど、今日は訳あって早起きしなければならなかった。布団の上でイモムシのようにぐねぐねと動き、眠気と格闘する。


「琴音! 起きて!」

「もう……、使い魔のくせにうるさい……」

「こうなったら、おりゃー!」


 ヴァイスに無理やり布団を取られ、ようやく布団から出られた。

 休日なのに早起きした理由。それは……。


「今日は司令部から呼び出しがかかってるからね。新人のお披露目ってことで」


 魔法少女司令部……。どんなところなんだろう。ファンシーな感じかな?


「行きたくない。私、ニチアサはアニメ見るんだもん」


 テレビをつけると、ちょうど魔法少女のアニメが始まったところだった。


『魔法少女は、みんなを笑顔にするんだよ!』


 主人公の女の子が可愛い。正義感が強くて、眩しい感じがする。私もあんな風になれたらな……。


「こんな風に活躍したいんじゃなかったの?」

「……」

「行動なくして成果なし。そう思わない?」

「……」


 私は無視を決め込む。画面が切り替わり、魔法少女が敵を倒した。


『みんなの笑顔は、私が守る!』

「ああ……!」

「ほら、琴音もこんな風に活躍したいでしょ?」

「……うるさい」

「……司令官さんはね、怖い人なんだよ。世界の平和を守るために、魔法少女たちに厳しい訓練を課してるんだ。遅刻なんてしたらそれは……」

「分かった! 早く行くよ!」


 小学生の時、遅刻して先生に叱られたのを思い出してしまった。あの時は本当にやばかった……。先生が鬼に見えたもん。

 そうは言ったものの、司令部の場所を知らない。結局はヴァイスについていくことになる。


「司令部って、どこにあるの?」

「ああ、ついてきて。電車乗って行くよ」

「電車?」


 私は駅に入り、電車に乗った。一時間くらい乗って、目的の駅に到着した。駅からしばらく歩くと、見たことのある建物が。


「ここって……、ショッピングモールだよね……」


 大手ショッピングモール、マジカルモールだ。よく家族と行くけど……。ここが本当に本部?


「じゃあ、エレベーターまで行こうか」

「エレベーター?」

「うん。ブレスレットをかざしてみて」


 私はブレスレットを、ボタンの近くにかざした。すると……。


「ええ!? 地下50階!?」

「ほら、行くよ」


 エレベーターが高速で地下へと降りていく。一体どこまで降りる気だろうか……。そして、到着を知らせる音が鳴った。


「ここが司令部?」


 私は恐る恐るエレベーターから出た。


『魔法少女司令部にようこそ!』


 そんなアナウンスを聞きながら奥に進む。司令部の中は意外にファンシーではなく、普通の内装だった。会議室などと書かれた札が部屋の前についている。しばらく進んだところで、大きな扉が現れた。


「これが応接室の入り口だよ」

「うう……、緊張する……」


 足がガクガク震える。昔から、人と話すのは苦手だし、相手はきっと組織の偉い人。ヒゲの生えたおじさんを想像すると緊張は増すばかり。


「ほら、開けるよ」


 ヴァイスが扉を開けた。赤いカーペットが敷かれていて、奥には黒い豪華な椅子と机があるのが見える。その机の上にはタブレットのような、画面の大きめな機器があった。


「入れ」


 女性の声だ。指示に従い、私は部屋に入っていく。


「し、失礼します……」


 重苦しい空気を感じながら歩く。ようやく奥にたどり着くと画面がよく見えるようになり、声の主をはっきりと確認できたのだが……。


「え?」


 小さい女の子? 金髪で、小さくて、なんだか人形みたいだ。小学生くらいに見えるけど、多分私より遥かに年上だと思う。


「なんだ? 君の考えていることくらい分かるぞ」

「ひっ! ごめんなさい!」

「まあ……、よくあることだから気にするな。さあ、そこに座ってくれ。黒井琴音」


 その見た目に似合わない口調で喋る。見た目は小さいけど、口調は完全に大人だ。なんだかギャップを感じる。私は指示通りソファに座った。


「私は魔法少女司令官。名前は明かせないが……、年齢は40歳だ」


 この見た目で!? これってロリババアってやつ? だけど40歳でババアは失礼? 混乱していると、司令官さんは話を続けた。


「まずは君の入隊を祝福する。おめでとう」

「あ、ありがとうございます!」


 だいたい、私なんかが魔法少女になれるなんておかしい。それなのに祝ってくれるなんて優しい人だな。


「まあ、抽選だけどね」

「ヴァイスは黙ってて」


 ヴァイスに釘を刺すと、やる気を失ったのか徐々に低空飛行になっていく。


「では琴音。君にはこれから魔法少女として世界の平和に尽くしてもらう。そのために教育係をつけることにした」

「教育係?」

「入ってくれ」


 司令官さんがそう言うと扉が開き、茶髪の少女が入ってきた。


「やっほー、私は赤澤奈々美あかざわななみ! 後輩ができるって聞いてワクワクしてるぞ!」


 ああ……。私の苦手なタイプの無駄に騒がしいタイプの人だ……。


「では奈々美、あとは頼んだぞ」


 司令官さんは通信を切ってしまった。取り残されたのは私とヴァイス、赤澤先輩という、微妙な面々。赤澤先輩とは初対面で、しかも苦手なタイプ。ヴァイスもそれほど仲良くないから、こういうのが一番困る。これから私はどうなってしまうのだろうか。コミュ力のなさを恨むばかりである。

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