第3話 無限スキル 或は、救いがなかった転生者

 

 どうして転生する方々に無限系のチートがつくのでしょうか。

 最強とか無限とか、そういうものを人に与えたらどうなるか想像ついているから己の世界にそういう人間作らなかったのと違うんですか。

 そして神殺しの異名つけられて「俺、やばいくらい強くね!?」ってわざわざ調子に乗るのがどうしてごく稀に現れるのでしょうか。

 いや殺したの邪神だからセーフってこと思わないでくださいよ、何のために邪神の存在が生まれているのか一度だって考えたことあるんですか?世界情勢調べましょうよ。

 そうして何よりどうしてと思うのが。


 神を殺せたからって、自分が神様になれるなんてぶっ飛んだ話になるんでしょうか。


「うん、色々と考えに考えて拗らせてしまっている様子だけど、こっちきてもらえたなんて、探す手間省けてラッキーと思っている私がいるんだが。」


「それは私も同意しますが、そうだ神様になろうって思考が理解できないんですよ。先輩どうですか?」


「うーん、無限チートの中に生産スキル入ってたら何だって生み出せちゃう訳だし……そりゃあなれるのでは?とか思うんじゃない?知らんけど。」


 それは問題の世界に飛ぼうとした時でした。突然突風と光の渦から男女4人組パーティーが出てきまして。


「ノンル神、俺をここに転生させたことには感謝しているが、アンタはこの世界を放置しすぎだ!!」


 とか何だか偉そうなことを言い出して当世界の創造神(最上級の神様ですね、そしてこの人から能力貰ってるの忘れてるんですかねこの人)に刃を向けたので、現在私がジュエルマジックで神様を保護、先輩が応戦中という図式が成り立っています。


「そこを退け、無闇矢鱈と人を傷つけたいわけじゃない。そこの神を名乗る奴にお灸を据えたいだけだ。」


「無理だよ君神様に成り代わる気満々じゃん。例えそこの神々がダメダメだろうが一介の人間が過ぎたことを考えちゃいけない。」


「俺はやりたくないんだがな、そこの神につけられたスキル……俺の力が世界を豊かにしたし、どうしようもなくて放置したものも俺がどうにかした。事実神よりも世界をより良くしているんだ。俺が神をやっても問題ないっていう話を聞いたから来たんだが。」


「問題大アリだよ。貴方はその力で全ての人間を幸せにできると思い込んでいるが、その力、元は今殺そうとしている神様からもらったものだろう?殺したら消えるとか考えないの?」


 先輩は一歩も引かず、そして私も神様を守る力を緩めず4人と対峙することになりました。そして正論をぶっ放してくれました。あれ、チート転生元殺したら自分消し炭になるのでは……?


「神は……人々に試練を与える存在です。それは分かっています。しかし終わらない試練は人を逆に堕落させました……。」


「そうだぜ、カイトがいなきゃ俺達は今頃こうして英雄として讃えられてもいねぇ、ただのコソ泥かその辺のモンスターに殺されて、残した母ちゃん達が生きられていたかわからなかったかもしれねぇんだ!!」


「アタイはカイトの人を幸せにしたいって信念に惚れ込んでいるんでね、神になることでそれが達成されるんなら喜んで手伝うつもりさァ。」


 お仲間さんは彼が神になることに何の疑問も持っていない様子、むしろ今の神をボロクソ言っていますが、それが何を生み出すかを知っているんですかね。

 いやあ、神様隔離対策でジュエルマジックをダイヤモンドの結界にしておいて正解でした、これ外の音とか聞こえないように出来るので、今の聞いたら1発アウトだったかもしれません、この神様話して見たら純粋無垢繊細飴細工系メンタルだったんで。


「あのーすみません、皆さんはまた新しい邪神を作りたいんですか?」


「邪神?邪神ならとっくの昔に俺が殺したが……。」


「そうじゃなくて、今の世界創造した神を邪神にしたいのかって言いたいんですよ私は。」


「何だと……?」


 私の言葉にチート能力者がピクッと反応。だけどそれはどっちかっていうと不愉快って感じの反応でしたがね、腹立ちますね、何げに黒髪黒目のキリッとした私好みのイケメン顔だからでしょうか。今度スケブ書くときにこの野郎をモデルにしてモザイクもの描いてやろうと決意しました。


「あのですね、貴方が殺したっていう邪神だって、元々は創世を担う神の一柱なんですよ。ですが皆さんの心無い話の広め方で邪神に仕立て上げられ、そう振る舞わざるを得なかったんですよ。だからノンル神……創造神は邪神を滅ぼせとは言わず、倒せと言ったんですよ。殺せとは一言も言ってないんです、わかってます?その辺り。」


「しかし悪は滅ぶべきだと教典にはありました!!」


 私の言葉を遮って丁寧な言葉遣いの聖女ポジションが声を張り上げました。


「そしてカイト様も、邪神を消滅させれば人々が住む場所ができると言って、そして本当に作ってくださいました!!創造神ノンル神、貴方はそこまで見通してカイト様を遣わしたのではないのですか!?」


「絶対悪は永遠に在るべきなんだよ。じゃなきゃ人間同士が無駄に争うのを抑えられないだろ。」


「え……?」


「確かに邪神の存在は脅威だねぇ。魔物も生み出すし、立地悪いところだと襲ってくるしでその日暮らしだって命懸け。だから人々が手を取り合い今日まで生きてきたんじゃないか?」


「それは……それは、確かに……。」


「聖女っぽいお嬢さんよ、絶対悪がなくなったら人はどうなる?豊かになったら更に豊かさを求めているんじゃないか?些細な喧嘩から、だんだん収拾つかない喧嘩が始まっているんじゃないか?戦争って形で。」


 青ざめて顔を背ける聖女さんに、冷めた声でラン先輩が言葉で詰めていきます、流石煽りの天才。


「邪神っていうのはそういう抑止も担っていた。なのにあんたら、今殺したって言ったよね?だから今、世界で人間同士の争いが目立ち始めて収集がつかなくなっているの、違う?」


 ……そう言えばラン先輩って、結構悪役キャラクターに感情移入しやすい人でした。


「だからこそだ、これを止めるために、今後そうならない為に俺が代わって調整するんだろう、人々が、世界で平和に暮らすために。」


 あらいやだ、チート能力者が動きました。無詠唱でブラックホール呼び出してきましたよ。この人話聞かない上に迷惑なことしてくれますねぇ。


「平和を願うと言いながら神々は何もしてこなかった、人間達が作り出すものには限界がある、それを補填する術すらも与えてくれなかった……それが理解してもらえんなら仕方ない、お前達にも消えてもらう。」


「……その補填する術として、貴方という人を送り込んだつもりだったのでしょうが、失敗でしたねぇ、人選。」


 無詠唱のブラックホールはどんどん広がって神の領域を侵食していきます、彼らはそれでも立っていられるから、チート能力者が望むものを的確に消していく感じの魔法ですね、成程。


「先輩、交渉決裂でしたね。」


「ここにきた時点で話通じないって思っていたからしゃーないでしょ、遠慮もいらんから私としてはラッキーだけど。」


 ですがこの人達は飛んで火に入る夏の虫、クールなお顔で物騒なチート魔法をチート魔力で発動している転生者さんは、我々の役割についてしっかりと理解していただいてから転生していただきましょう。


「『クォーツ・チェンジ』!!」


 まずは神の領域を確保しなければいけません。手に呼び出した一つの宝石が、茶色みのかかった煙を中から噴き出して剣みたいに伸びたタイミングで、迫るブラックホールへ狙いを定めました。


「黒を祓い領域を守れ『スモーキー・クォーツ』。」


 ちなみに私は武闘派ではないので、型とか全くなく、せーので両手で振りかぶり、真っ直ぐ叩き切る感じでクォーツを振ってみます。するとあら不思議、煙がぶわっと立ち込めれば、黒を押し返すというより『塗り替える』形で魔法を打ち消して、元の神の領域に戻してくれました。


「!!!!」


 これにはチート能力者もびっくりしたようで、目に見えて動揺してくれました。多分彼が使える中でも1か2を争う強い魔法を使ったのでしょう。


「カイト様の魔法が打ち消された!?」


「あ、ありえねぇ……いやでも、カイトは本気じゃねぇ!!」


 ですよね、知ってた。


「そういえば自己紹介してませんでしたね、とは言っても名乗るほどのものじゃないんですが。私はミサキと言います。転生を拒否してチート能力を回収するお仕事をしている人間だったものです。尤も戦闘向きの力じゃないので、皆さんのお相手は同業の先輩に任せますね、その代わりに質問されたらお答えしますので何かありましたら私に言ってください。」


「はいはい、肉体労働担当のランと言います。早速ですがチート転生者の方はカクテル言葉をご存知ですか?」


「カクテル言葉……?」


「カクテル・サーブ『ブラッドハウンド』。」


 先輩は鸚鵡返しを速攻無視して、己とチート能力者を円で囲んで宙に浮かしました。


「『グランドスラム』。」


 そして次の言葉を放った瞬間、ラン先輩と共に1人、消えました。


「カイト!!??ちょっとアンタ、カイトをどこにやったのよ!!」


 アタイが一人称の女性の方が私に詰め寄ってきました。それは私も知りたいですね。先輩の能力で一体どこに行ったのかは先輩しかわからないので。


「ちょっとその質問には答えられないのですが、今起きたことは説明できます。チート転生者、ええとカイトさんでしたっけ、その人を此処とは別の場所に転移したんです。」


「転移魔法……?ならば、カイト様は防げたはずだわ。」


「先輩の質問をもう一度繰り返しますが、そちらの世界ではカクテル言葉ってありますか?」


 取り残された方々は、首を横に振りました。というか顔を見合わせて「カクテル……?」なんて言い合っています。なるほど、カクテルないんだそっちの世界。一から説明が必要と相成りましたので、言葉を選びつつ解説していきましょう。


「私達の生まれた世界ではカクテルというお酒を組み合わせたりお酒とアルコールのない飲み物を組み合わせた創作飲み物があります、同時に、それぞれに名前をつけ、名前に紐付けたカクテル言葉というものも存在しています。ラン先輩は、カクテル言葉に乗っ取った力でチート能力者と渡り合い、能力を取り上げることが出来るんです。」


「さっきからチートとか訳のわからねぇことを言ってるけど、カイトは俺らより遥かに強い能力を持っているから防げなかったってことか?」


 男性バカっぽく見えましたが、結構物分かりいいですね。という思考を顔に出さないように私は頷きました。


「先ほど先輩が使った『ブラッドハウンド』と『グランドスラム』、前者は『探さないで』後者は『2人だけの秘密』という意味です。完全にチート能力を使用した転移拒否や転移帰還を潰してますね、いやー流石先輩。」


 パチパチと態とらしく拍手をすると、何かの魔法を使ってたらしい聖女の方が、顔を青くしてその魔法を解きました。


「……カイト様の気配も魔力も、全く分かりません。まるで、最初からいなかったように……どうして、どうしてあの方が神になるというだけで、罪人のように言われないといけないのですか……。」


「彼は元々別世界から転生した人間で、神様から反則級の力を授かりました。それをどう使うかは自由ですが、今回のような行動に出てしまうのはいけないことです。」


「それの何がいけないことなのか、納得がいかないってんだよォ!!」


「彼は人です。人の感情を持ち、人の思考を持っています。それも人の幸せを追求するとも言っていました。そんな彼が神様になったら彼が潰れますよ。」


 元の世界組は、何を言っているのかわからないという顔でこちらを見てますが、こっちみんなと言いたいです。


「皆さんだって人の欲については尽きないことをご存知ですよね。律儀にそれを応えようとするでしょう。応えても応えても欲望が尽きなかったら?彼だって疲弊するのではないですか?」


 私の仮説に意を唱えようと男性の方が口を開きかけて、何かに気づいたようにはっと閉ざします。

 恐らくそれは私が言いたいことと一緒でしょう。


「神様になったら、貴方達とは別世界、こういった神の領域に住むことになります。貴方達は人のままでしょうから彼は孤独に過ごすことになります。励まそうにも慰めようにも、今までのように出来ないんですよ。」


 世界干渉は余程のことがない限りしない。神々は世界を作るときにそう己に枷をつけたと言いました。理由は聞きませんでしたが、神は神なりの考えがあるのでしょうから。

 そのルールに則ったら、あのチート能力者が神になった場合、永遠に1人で、人々の幸せのために干渉を続けることでしょう。


「下手すれば、打ち倒さなければならない邪神になる可能性だってあるんです。」


 これが決め手なのか、彼らは各々力なく項垂れてしまいました。


「私達はそう言ったことを防ぐ意味もあって、いきすぎた能力を回収しているんです。尤も私は戦闘向きの能力は有してませんがね。」


「何だって……?あいつの最強魔法を一発で消し飛ばした癖に!?」


「私の役割はチート能力者の裁判。それだけじゃ心許ないので宝石言葉から派生した能力を使っています。大体の意味が守護とかなんで課せられた役割と乖離してないってわけで魔法みたいに使えるんです。」


 3人が顔を見合わせました。おや、これは嫌な予感。

 ……と構える前に、もう私の首と身体がおさらばしていました。そして死体蹴りの如く真っ白い光の矢が幾つも身体に刺さっていって。側から見たら痛い通り越してグロテスクまっしぐらに刻まれていますね、私の身体。


「せめてお前だけでも殺しておけば……!!」


「アンタが非力って自分から説明してくれて助かったよ。」


「貴女さえいなければ、彼が裁判にかけられることはなくなるということ……ふふ、ふふふ……!!!!」


「あの人のせいで狂ったのか、元々本当救いようない頭の持ち主なのか見当つきませんがごめんなさい、何されても死なないんですよ。」


 地に落ちる自分の頭に映る天は、すぐに純正の異世界人の顔を3人まとめて拝める位置に戻ります。


「私も先輩も転生を拒否したので人間の理から外れて死の概念ないんです。貴方達が致命傷だの即死攻撃を仕掛けようが無駄ってことです。」


 その代わり、と私は付け加える。


「元々その世界に生まれついた貴方方……区別して異世界人と呼ばせてもらってますが、異世界人に私達の能力は通用しません。簡単に言えばお互い空気砲打ってるようなもんですね。」


 再生過程でちょっと乱れてしまった衣服を整えて説明していたが、何も反応がなくてちょっと困りました。どうしたのかと3人を見れば、己の武器を落としてガタガタ震えていました。顔面も、汗と涙とかで色々残念な面持ちになっていました。ひょっとしなくても惨殺死体の再生過程ガン見してしまった可能性が高いですね。仕掛けて死体生み出したのは其方なので自業自得なので可哀想とは微塵も思いませんが。


「ああでも、私を見てそんなショックを受けるなら先輩の戦いっぷりを見なくて正解でしたね。」


 反応が返ってこないのは分かっていましたが、ラン先輩の力を思ったらついつい口に出てしまいました。

 先輩のことだから、絶対心をへし折りにかかっている。だから使うカクテル言葉がわかるのです。


「先輩の『ブラッディメアリー』は、死体再生よりも見た目エグめですからねぇ。」


 と、思いを馳せた瞬間、空から黒い物体がどさっと落ちてきました。黒いのは装備だけで頭真っ白なんですが、これもしかしてチート能力者ですかね。


 確認のために近づいて顔を見たら……うん、汗と涙を大量に流して恐怖だの何だので引き攣ったまま数十年くらい老け込んだ顔になっていますが、間違いなく先程までスカした顔をして神様になると豪語していた彼に間違いないです。


「はー疲れた疲れた、みっちゃーん、これチート能力ね。」


 そして全く別のところからジッパーみたいに空間を真っ二つに開けてひょっこり帰ってきた先輩は、赤黒い光を放つ塊の入った瓶を私に手渡してきました。疲れたと言っている割には、すごく爽快な笑顔を浮かべています。何したかとか聞かないことにしましょう。


 さてチートも回収しましたことですし……と、小瓶を翳せば背後から巨大な天秤が現れて、小瓶を皿の上にさらっていきます。


「それでは始めましょうか、彼はどれほどの罪を犯したのでしょうね。」


「神殺しをした時点で重罪は逃れられないけどねぇ。」


 先輩は足取り軽く異世界人3人と、未だ倒れ伏せている元チート能力者の顔を、丁寧に天秤へ向けさせました。


「貴方らに目を背ける資格はない。驕った結果とその結末を最後まで見届けな。」


「そん、な……裁かれることなんて、カイト様は何も……ただ、私達を助けるために、戦ってきたのに。」


「人助けのために神殺しに手を出したらもうそれは大罪なんよ。彼はもう別世界への転生が確定するだろうね。1人の人間を神になれると驕るまで担ぎ上げたことを忘れず先を生きな、これがこの世界でこれからも生きるあんたらへの罰かもしれんね。」


 転生を司るタンザナイトは、先輩の予見通り別世界の転生を突きつけるまで降り注ぎ続けていました。

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