第2話 無限スキル

 無限スキルとは。

 その名の通りあらゆる事象に限界がないというスキル。魔力無限とか、アイテム無限とかがとってもわかりやすい例ですかね。

 私達が派遣された世界は、無限スキルの持ち主が転生した場所でした。無限スキルでも対象が一個に絞られていたら良かったんですが、その神様は馬鹿……阿呆……失礼、慈悲深い精神の持ち主だった様子。

 転生がまだ先だというのに間違えて殺してしまったお詫びに、体力魔力腕力を無限にしてしまったのです、なんてことをしてくれたのでしょう。

 そんな無限人間が放り込まれたらどうなるかと言われましたら、不可能の事象が少なくなりますね、ぼかしますがその人のやったことが神の領分にすら届いてしまったわけですよ。

 そうして元の神よりも彼がすごいとなってしまい、現人神として崇められるようになって元々の神の信仰心が薄くなり、世界の存続が危うくなっているということです。

 はっきり言いましょう、自業自得ですね。ですがそんな自業自得も回収するのが我々のお仕事です。


「神様の尻拭いにしては規模がでかいわけだが……。」


「しかもことの次第では先輩がかなり頑張る案件になりそうですけど……?」


「というかどう考えても私しかできんだろ。無限スキルの人間ほど回収を拒絶する。」


 あらましを伝えられた私達は早速その異世界の大地に降り立っています。大地はイキイキしているし清々しい空気が包んでいまして世界の滅亡とか一切感じないんですが、恐らく神様が恐れているのは信仰対象の交代によって世界が自分の管理外に行ってしまうことなのでしょうか?知りませんが。


「あっちは加減なくくるだろうから、みっちゃんは安全地帯でちゃんと身を守ってるんだよ。」


「オッケーです。」


 平和の象徴小鳥の囀りと青い空の下で、先輩は好戦的な楽の笑みを作っていました。


「何でだ、何でだよ!!」


 その約数時間後。

 広い広い草っ原で、1人の男性が発狂したように叫びながら、どんどん魔法みたいな光の弾丸を撃ち続けています。その矛先はさっきまで私に笑っていたラン先輩、彼女はまだ笑っています。むしろさっきより楽しそうに笑っていますね。こういう時の先輩って狂気じみてて怖いです。


「何で死なないんだよ!?」


「死なない?ああそうだ言い忘れてたわ。」


 ゆらりと動いた片手には、刃が綺麗な日本刀(ただしその辺の土を捏ねたハリボテである)。

 

「私は転生を拒否したから、死の概念がないんだよ。」


 さて、今どういう状況かと言いますと。

 降り立ってすぐの街に入ったら無限チート持ちをすぐ発見できました。意訳ですが「チートし過ぎだからお前の能力な。」と言いましたら当然ながらチート能力を手放すという選択肢に頷いてくれず、能力者を守る仲間達と本人は私達を敵認定、街中というにも関わらず一斉に総攻撃を仕掛けてきました。

 それをラン先輩が率先して律儀に受け止めながら、かつ異世界に影響が出ない場所、シンプルに何もない原っぱまで彼らを誘導してきたというわけです。

 そんなラン先輩が今相手取っている発狂男こそが、無限チート者本人ということですね。


「取り巻きがいないと何もできないのかね。なら彼らから先に永遠に黙らせようか?」


 普通なら取り巻きからかかってきそうなものを、ラン先輩はチート能力者を嘲笑って挑発、ブチ切れたらしい彼が矢面に立ってくれたというわけです。

 そして今の今まで先輩は形だけの武器を持ってずっと彼の攻撃を受け続けているのですが、致命傷レベルの技やら魔法やらを受けても血まみれで笑っているのがとうとうチート能力者の中に『恐れ』を呼び起こしてしまったと言うわけです。


「神様達と利害が一致してね、転生をしない代わりにこうやって貴方らのチート能力を回収する係を仰せつかっているんだ。」


「転生を拒否!?それだけでどうして死なないんだよ!?おかしいだろ!!」


「転生は死の概念が出来るでしょ。拒否すればそんなものつくわけないじゃん。」


「……いや、じゃあ待て。お前、アンデットってことだろ、なら何で聖魔法も効かないんだ!?」


「だーから、拒否理由と神々の利害一致でチート回収者として動いているから死者でもない、中途半端な存在なんだよ。」


 つまり、と両手を広げた先輩は、血の汚れも傷もすっかり消えていた。


「私は貴方の力どころか、この世界の理が通じない。正真正銘の化け物だ。」


 ……正確には、『どの世界の理も通じない化け物2人』ですけどねーと心で付け足しておきます。言ったらこの人の心、完全に壊れると思いますから。


「今、君は恐怖したね。」


 何故ならもうすでにラン先輩を見て、対峙して、どんなに血塗れになろうが平然と立っている彼女に、彼はへたりこんでしまっています。

 彼の仲間達を万一を思って観察していますが、同じようにラン先輩に畏怖を覚えていて動けないみたいですね。

 転生しても、無限のスキルを覚えていても、感情と言うものは永続的に存在しうるもの。そして恐怖というものは、あらゆる行動や思考を麻痺させてしまいます。

 己がチートを使えることを忘れさせてくれるほどに。そして長く己の力が及ばない存在に触れることを忘れていたら、感じ入る恐怖は倍以上になるでしょう。


「今まで倒してきたモンスター、魔王、もしかすると邪神とかもいたかな?貴方の持っていた無限スキルが通じてきたモノと全く違う化け物に遭遇して、久しぶりに恐怖したようだねぇ。」


 その人間としての感情を揺さぶったり煽ったりに特化した思考と力を持つ先輩はしっかりとその効果も役目も果たしています。

 ボロボロと土塊が落ちた空の両手を、ラン先輩は改めて構えました。左右の持ち手をクロスさせ、刀身を水平にする、先輩の得意とする霞の構えです。


「この時をずっと待っていたよ。」


 ゆっくりと光が、煙のように手の中に漂っていたかと思うと、黄色の鍔と翠の柄、乳白色の光が揺らめく太刀へと変貌しました。


 そして、呆然として固まる男の隙を逃さないとばかりに、先輩は詰め寄り。

 

「『カクテル・サーブ』神風。」


 名を告げられた乳白色の刃は光を強め、閃かせる。

 切れ口の鮮やかな袈裟斬りで割開かれた身体から白い光の塊が一つ、浮かんで先輩の前に吸い寄せられた。

 太刀は小瓶の形に変わり、その光を閉じ込めて勝手に栓をすると、踵を返して私の元に戻ってきた。


「ほい、お仕事完了。」


「お見事です、先輩。」


「どうする?裁判かけとく?」


 彼は切り裂かれたにも関わらず、血どころか刀傷なく、座り込んだまま呆然とこちらを見ています。裁判とか意味わかんないって顔してますが説明面倒臭いからスルーしましょう。


「うーん……とりあえずかけますか……。」


 何となく察せる結果が見える気がしますが一応『契約』なのでチート能力と一応、タンザナイトを天秤にかけてみます。

 ざらざらと降り注ぐ宝石は、僅かな数であっさりとチート能力より重くなって傾きました。転生には到底足りない量です。つまり。


「うんやっぱり、大した罪はないですねこの人。そりゃあそうですよ、彼この世界における『邪悪』としかチート能力使ってないですから。」


 そう、彼はチート能力の悪用はしていなかった。無限の魔力、腕力は全て仲間達を守るため、そして異世界の神が定めた『邪悪』へのみ振るわれていました。


「私らが派遣された理由って、彼がこの力を使い人を救い続けた結果、神様のように崇められてしまったことでこの異世界の神々への信仰を忘れたのが原因ですからねー……。」


「で、貴方はこんな目に遭ってもなおこのチートを持ち続けたいの?」


 思案する私の代わりに、ラン先輩が座り込んでいる彼へ質問してくれました。


「確かにこれがあれば今まで通りの活躍はできるけれど、死ぬまで私達に追いかけ続けられるって特典がついちゃうよ。」


「え?いや、待ってくれよ、俺……死んでない?」


「そりゃあね、私の力はあくまで転生者のチート能力を回収するためにあるのであって人は殺せないように出来ているんだよ。まあ斬られる痛みはつけさせてもらったけどね。」


「あ、ああ確かに死ぬほど痛かったし……それで俺が転生した時に貰った力をずっと持っていると、アンタがずっと追いかけるってどういうことなんだ……?」


「貴方がそのチート能力を使って、『この世界を滅ぼしかねないこと』をしないかずーっと監視するわけ。そして少しでもその行為をしたら即死んでもらうって話。その時はしっかり私の力もチート能力者絶対殺すモードに変わるから要注意ね。」


 男性はラン先輩の狂気っぷりを思い出したのか、首をひたすら横に振った。


「じゃあこの能力、要らないね。」


「ああ、ああ、要らない、要らないから俺の前から消えてくれ!!」


「よっし、みっちゃん、回収交渉したよ。」


 振り返ったラン先輩はいい笑顔でサムズアップしていますが、先輩相手取った彼、何だか哀れに思えてきました……だってこれ後半脅し……いえ、目的は当社比穏便に果たされましたし、何も言わないことにしましょう。


「そうしたら……チートの代わりとしてこの世界を生き抜く為の能力に交換しますか。『チェンジ・ジンカイト』」


「能力……交換?」


 私は天秤の宝石に指をむけて、パチンと鳴らし、ジュエルを『チェンジ』する。転生の言葉を持つ宝石は色を変え、蜂蜜をもっと煮詰めたような赤茶色の巨大な宝石に変化する。


「えぇ、貴方はこの世界において悪行よりも善行を多く積んでいました。更に能力の回収に応じてくれましたので、チート能力の代わりに貴方が重ねてきた戦いで得た強さを換算した魔力と腕力を与えます。ただし、使う魔力量とか体力とか大きければちゃんと疲れるし、禁術なんか使えない有限ものです。」


「……それって、俺がこの世界において最強を倒した辺りのステータスが与えられるってことか?」


「そういうことですね、もう一度言いますが、今までと違い力を使えば使うほど疲れますので、使い方にはご注意ください。」


 宝石が変わる。深い海、深い青を思わせるデカい宝石が浮かび、それが今度は丸い光となって元チート能力者へと引き込まれた。


「これは……力が溢れる?」


「私の力、ジュエル・マジックが一つです。宝石の持つ言葉の意味を引き出す力で、貴方に世界に順応する為の力を与えました。これで今まで通り……とはいきませんが、それなりに生きていけますよ。」


「そう、か、うっ……。」


 立ち上がろうとした彼でしたが、ガクンと傾きました。


「なんだ?力が溢れるってのに、体、が動かない……?」


「貴方さっきまでバンバン魔法使って攻撃しまくってたでしょう?今からその疲れやら反動やらがバンバンきますよって話です。」


「いやもう適用されるのかよ……はっ、久しぶりに疲れを感じたよ、そうか、俺、普通になっちまった……な……。」


 男性は、大の字になって笑い出した。


「……無限の力があったからここまで来れたのに。」


 片手で顔を隠す彼から、涙が一筋流れた。


「最初はチート貰ったら面倒ごとに巻き込まれるって思って、でも本当はそれを期待して、頼られるのが嬉しくなった……でももう、俺にそれはない、普通の人間になっちまったから、誰にも……。」


 私もラン先輩も予想していた彼の言葉の先は、綴られませんでした。


「っ、僕は見捨てないですからね!!!!」


 倒れた彼へ真っ先に駆け寄った青年が声を張り上げました。更には、肩を貸して担ぎ上げようとしていました。


「確かに僕は貴方の力が凄くて一緒に冒険をしようと思いました。でも、そのちーと?とやらがなくなったって、貴方が僕を、僕達を強くしてくれたじゃないですか!!」


「そーねー、だって、魔王だの邪神だの倒したのはアタシらだけじゃないけど、アンタだけじゃないって、アンタ自身が言ったでしょ。」


 もう1人、とてもナイスバディなお姉さんが反対側に立って彼の肩を担ぎます。


「2人……とも……俺、前より弱くなったんだぞ?前線に立ち続けて、敵を倒せなくなったんだぞ。」


「それは、貴方1人が先へ行くことはなくて、僕らと一緒に並んで戦えるってことじゃないですか。」


「そうよ、結局アンタが強いってことは代わり無いみたいだし、ただ背中預けてくれる頻度が上がるだけじゃん。」


 私達に背を向けて、歩き出す三つの影の表情は此方からは見えません。

 しかしかける声から、かの男性を蔑むような色はありませんでした。


 そして、男性から返ってきた声も。


「……ありがとう、お前ら。」


 涙で掠れていたとはいえど、まだこの世界で必要とされている、その希望を見出したような……安堵した声でした。


「……こういう終わりばかりがいいんだけどねぇ。どうして無限チート能力者の大多数は往生際悪いんだろう。」


「チートがあれば単純に賞賛が得られるから、じゃないですか?」


「賞賛を得られなかった世界で生きてたのか……そういえば、転生者ってどういう人生歩んできたんだろうね。」


 私は首を横に振って、わからない、とジェスチャーしました。

 彼らの境遇を深掘りしたところで、私達がすることに変わりはないのです。


 チート能力を悪用した人間には相応の罰を。

 チート能力で出過ぎた杭は程よく打ちつける。


「先輩、同情心湧きました?」


「いや?シンプルに気になっただけ。」


 私と目が合ったラン先輩の目は、何の感情もありませんでした。きっと私も同じ目をしているでしょう。

 

 他人の人生なんてどうでもいい、人でなしの目の色を。

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