第14話 エンケラドス

 ガーロンとルセネール、バイタラニーの所にギョヌとヒイアカがやって来る。

 その2人にバイタラニーが尋ねる。

「残りのふねはどうなって?」


「はい。残り2隻で、ヨールとケルブヌスが向かっております。間もなく墜とせると思います」

「分かりました。王妃、どうされますか?」


 ルセネールはまだかなり前方にいる巨大飛空艦エンケラドスを見ながら、口を開く。

「私達はあのエンケラドスとやらを墜としに行きましょう。ヨールとケルブヌスは残りの大型艦を撃墜後に合流するよう伝えてください」


(これでよろしいですか? アヘロンタス)


(畏まりました、王妃。では、私の方からヨールとケルブヌスには伝えておきます。それでは皆、油断せずルセネール王妃をお守りし、帝国のふねを残らず叩き落とせ!)


((はっ! 仰せのままに))


 ルセネール達はエンケラドスに向かって進みだした。


 帝国軍巨大飛空艦エンケラドス。

 先ほど冥鋭護代めいえいごだいたちが墜としたフェーベ級艦の2.5倍の全長に主砲6門、速射砲20門、対空機銃120台と、実にフェーベ級艦の倍以上の火力を誇る、帝国軍の最新鋭の新造巨大飛空艦である。


 収容できる魔導挺まどうていなどの単騎の数は200を越える。

 つまりこの1隻で先ほどの艦隊郡の半分ほどの戦力を有していることになる。


 そのエンケラドスの指令デッキからこの艦の艦長であり、帝国軍空挺師団総大将ムンディルが次々と墜とされている艦隊部隊を見て、我が目を疑った。


「ど、ど…どういうことだっ! 何故、すでに壊滅状態になっているっ!? まだ会敵して小一時間ほどだろうがっ!」


 怒鳴られた周りの兵士たちが返事に困る。

 その兵士たちも遥か先で黒煙を上げながら墜ちていく友軍の大型艦を見て、動揺が広がっていった。


 少し前から、艦隊部隊のいくつかの艦と通信不能にはなっていたが、それがまさかことごとく撃墜されていたとは、ムンディルもエンケラドスの乗組員も夢にも思っていなかった。


 乗組員の一人が声を上げた。

「敵影確認! 敵影確認!」


「ん? なんだと? どこにいる?」


「敵影は…4騎! 単騎でこちらに接近中です!」


「た、単騎だと!? 4騎? 〈冥府の住人むこう〉のふねはいないのか?」


「はい! 敵艦は確認出来ません! 魔導騎馬まどうきばが4騎、こちらに接近してくるだけです!」


 ー信じられん……。たったあれだけの単騎で我らの艦隊郡を壊滅まで追い込んだのか…?


 ムンディルは艦内放送のマイクを取ると、声を上げた!

「全魔導挺まどうていは直ちに発進! 敵は単騎だけだ! 数ではこちらが圧倒している! 畳み掛けろっ!」


 エンケラドスの両舷から100騎以上の魔導挺が飛び出していった。


 一斉に飛び出した魔導挺を見て、ルセネールが思わず声が出る。

「おお…。すごい数ですね…」


「所詮、烏合の衆ですわ、王妃。我々にお任せください」


 すると、冥鋭護代たちにアヘロンタスからの念話が聞こえてくる。

(あの大型艦に取り付いてしまえば、どれだけ数が出ても無意味です。まずあの艦に取り付いてください。ヨール。ケルブヌス。まだかかりますか?)


(アタイはもう終わるぜ!)

(ボクももう終わるよー☆)


(分かりました。では王妃達には先に艦に降りてもらいますので、ヨールとケルブヌスは周りの魔導挺を減らしつつ、外からあの艦を攻撃してください)


(おうっ! 分かったぜ)

(りょーかい☆)


 エンケラドスから出撃した魔導挺の一団がルセネール達に迫って来る。

 バイタラニーがルセネールの前に出る。

「では、ギョヌ、ヒイアカ、ガーロン。私が取りこぼした奴はお願いしますわ」


 バイタラニーが魔導挺の一団に近付いていき、【精神干渉・恐慌】を発動させると次々と魔導挺が海へと墜ちていく。

 何とか墜落せずに飛んできた魔導挺も、ギョヌの狙撃とヒイアカの攻撃で次々と墜とされていった。


 その間をあっという間に抜けて、ルセネールとガーロンがエンケラドスの甲板に降り立つ。


 エンケラドスの甲板にある何台もの機銃が、一斉にルセネール達を狙う。

 すると、上空からギョヌの狙撃とバイタラニーの鞭で、その機銃が一瞬で破壊されていく。


 ルセネールは目の前にあるエンケラドスの司令塔を見上げる。

「ガーロンさん。今度は外から一気にあそこまで飛びましょうか?」


「御意」


 ガーロンはルセネールを乗せたまま、魔導騎馬を司令塔に向けて飛ばした。

 そして一気に駆け上がると、魔導騎馬から飛び出して司令塔の最上部にある指令デッキの窓を斬り裂いた。

 大きく穴があいた指令デッキに、ルセネールの乗る魔導騎馬がゆっくりと入ってくる。


 十数人の乗組員は一瞬の出来事に呆気にとられ、動く事すら出来ず、窓に穴を空けて入ってきたルセネールとガーロンの2人を呆然と見つめる。


 ルセネールは指令デッキの一段高い所にいる男に声をかける。

「やはり、こちらにいらっしゃいましたか…。総大将殿」


 ムンディルが苦々しくルセネールを睨み付ける。

「お前か……。リタース」


「はぁ、貴方もその名で呼びますか…」


 ムンディルの後方に武装した兵士たちがなだれ込んでくる。

 それと同時に大きな衝撃音がして、エンケラドスが大きく揺れた。


(王妃。ヨールとケルブヌスが到着して、外からの攻撃を開始しました。かなり艦内は揺れると思いますが、一旦止めますか?)


(構いません。そのまま攻撃を続行してください。私は総大将を討ったらすぐに離脱しますので)


(畏まりました。お気をつけて)


 アヘロンタスとの念話を終えて、ルセネールがムンディルの方に向くと、ムンディルが兵士たちに号令をかける!

「その女が〈冥府の住人〉の親玉だっ! そいつらを撃ち殺せっ!」


 ーやはり貴方は私を殺したいのですね…


 ルセネールは【冥王妃の杖】を握りしめた。

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