第13話 玉砕
ガーロンは艦隊の間を抜け、最後方にいる大型艦に一直線に向かって行く。
その間にも周りの空戦部隊がガーロンの
バイタラニーもその後方で、ガーロンの魔導騎馬に向かってくる空戦部隊を【
怒涛の勢いで最後方の大型艦に近付くガーロンに大型艦の弾幕が降り注ぐが、ルセネールが
その艦の周りにいた空戦部隊も、十数騎がその甲板に緊急着艦する。
兵士たちがその
デッキからも続々と兵士が飛び出してくる。
それを見てガーロンがルセネールに言う。
「王妃。拙者、少し離れるござる。道を作って参ります」
「分かりました。ガーロンさん。私は【完全障壁】で身を守れますので、遠慮なさらずにお願いします」
「御意。ではしばしお待ちを!」
ガーロンは脱兎の如く駆け出すと、両手に黒い刀【
ルセネールはその様子を見ながら、【完全障壁】を前方に展開して悠々と歩いていく。
その背後にはルセネールを守りながら、敵を殲滅していくバイタラニーがいる。
ガーロンが周辺に注意を払いながら、指令デッキに続く階段を上がっていく。
ルセネールもその後ろに続き階段を登りきると、指令デッキ内部でガーロンと対峙する、1人の兵士が見えた。
その身なり、雰囲気からこの艦の艦長であることはすぐに見てとれた。
その男は階段を上がってきたルセネールを苦々しく睨み付ける。
「リタース……。やはりお前か…」
「私はもうその名ではないとお伝えしたはずですが…」
ルセネールも黒い仮面の下で、目を細めてその男…ディーベンを睨み返した。
ディーベンの後ろにはこの艦の操舵をしている兵士や技師たちの姿が見える。
ルセネールがゆっくり歩きながら、ディーベンに話しかける。
「貴方がこの艦の艦長で、この艦隊の指揮官だったのですね?」
「ああ、それがどうした?」
「空挺師団の総大将殿はどうしたのです? てっきりこの艦にいると思ったのですが…。どこかで高見の見物ですか?」
「お前には関係のないことだ」
そう言うと、ディーベンはルセネールを見据えながら、後ろにいる兵士たちに、手で逃げろと合図をして、それを見た兵士たちが椅子から立ち上がり、指令デッキの別の出口に駆け出した。
それを見て、ガーロンが追いかけようとするが、ルセネールがそれを止める。
「どうせ、空の上で外には
「御意」
ディーベンが腰の剣を抜いた。
「ふんっ! すっかり姫様気取りだな」
「ええ。お陰さまで…」
兵士が出ていっているその出口から突然、1人の女性兵士が現れ、ルセネールに向かって叫ぶ。
「この
巨大な火の球がルセネールに飛んでくるが、ガーロンがその前に立ち、クロスさせた【
その女性兵士を見て、ルセネールが声をかける。
「ああ、貴女もこの
そこには歯を食いしばり、ルセネールを睨み付けるエウーリがいた。
ディーベンはエウーリに振り返り、叫ぶ!
「何をやっている!? 早く退艦しろっ! 逃げるんだ!」
「だって! お兄様っ!」
「早く逃げるんだ! 馬鹿者! ブレナン! エウーリを頼むっ!」
ブレナンと呼ばれた兵士がエウーリの体を掴み、連れ出そうとするが、エウーリは手すりを掴んでその場から離れない。
ルセネールはそのやり取りを冷たい目で眺め、【冥王妃の杖】を黒い剣に変化させてディーベンに話しかける。
「ディーベン。私と一戦交えませんか?」
「なっ…。いいだろう。受けて立とうじゃないか」
「ガーロンさん。バイタラニーさん。手出しは無用です。私はこの男と一対一で戦います」
いつの間にか背後にいたバイタラニーとガーロンが目を合わせ、諦めたように返事をする。
「御意」
「仰せのままに」
ガーロンが横に避けるとルセネールは前に出て、ディーベンと対峙する。
エウーリとブレナンも動きを止めて、その2人を見つめる。
剣を構えたディーベンが叫ぶ!
「さあ、来いっ!」
「はい。では……」
バシュッ!
勝負は一瞬だった。
踏み込んだルセネールの剣がディーベンの剣もろとも、ディーベンの体を叩き斬ると、ディーベンの胸から鮮血が吹き出し、ディーベンは片膝をついた。
「お兄様ーっ!」
エウーリが駆け寄ろうとするが、ディーベンはそちらを向いて手で制止する。
ブレナンもエウーリの体を掴んで、それを食い止めた。
ディーベンが声を振り絞り、エウーリとブレナンに叫ぶ。
「お、お前たち……、ガフッ…、に、逃げろ…」
ルセネールは剣についた血を払うと、エウーリの方に振り返る。
エウーリは涙を浮かべてルセネールを睨み付ける。
「殺すっ! 絶対にお前は私が殺す!!」
バイタラニーの【牙乱鞭】がエウーリに襲い掛かる。
それをブレナンが体で受け止め、その胸に突き刺さった。
「あ、ああーー! ブレナン!」
エウーリの悲鳴にも似た声がデッキに響く。
デッキの通信機から入電の音声が聞こえてきた。
『こちらエンケラドス。本艦は間もなく戦闘空域に入る。聞こえるか? エンケラドスは間もなく戦闘空域に入る!』
ルセネールはその音声に気付くと、何度も頷きながら呟いた。
「ああ、そちらにいたのですね。総大将殿は」
胸を貫かれたブレナンを抱き抱え、エウーリが座りこんでいると、バイタラニーがそちらに歩きながらエウーリに向かって口を開く。
「我らの王妃を殺す? 下劣な人間風情が…。その言葉…万死に値すると知れ」
倒れかけたディーベンが手榴弾を数個、床に落とした。
そしてブレナンはエウーリの腕の中で、口から血を出しながら、魔法を詠唱している。
エウーリはブレナンが詠唱しているのは【障壁膜】だと気付き、その対象が自分という事にも気付いた。
そしてディーベンとブレナンを見ながら叫んだ!
「い、いや! そんなっ! イヤだ!」
ブレナンがエウーリの手を握り、最後の力を振り絞る。
「き、君は、生きの…こるん…だ」
ディーベンもエウーリに最後の力で叫んだ。
「い、生きろ! エウーリ! 父を…頼…んだ」
「イヤーーーー!」
エウーリの絶叫と同時に手榴弾が爆発し、艦の指令デッキが跡形もなく吹き飛んだ。
ルセネールはガーロンに掴まり、バイタラニーと共に爆発より一瞬早く、死体が山のように転がる甲板へと降りて爆発を回避した。
根元まで吹き飛び、指令デッキが完全に消し飛んだ艦の司令塔を見て、ルセネールは静かに目を閉じた。
ーそこまでして私を殺したかったのですね…、2人とも。
傾いていく甲板から、こちらに向かって来る巨大な
「あれがエンケラドスですか…」
ーあの中にムンディルがいる。
一番私を……殺したいと願っている男が。
「ガーロンさん。バイタラニーさん。行きましょう。増援がお見えです」
「「はっ」」
ルセネールは再びガーロンの魔導騎馬に乗り込み、空へと上がっていった。
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