第11話 ギョヌとヒイアカ

 軍服のような灰色の服を着て魔導騎馬まどうきばを駆るギョヌの周りに数十挺の魔導挺まどうていが展開し、その機銃がギョヌを狙い撃つがその弾丸はギョヌの体にも魔導騎馬にも当たらない。


 パンッ…パンッ…

 それに対して、ギョヌは魔導騎馬を操りながら、正確にその魔導挺の操縦士の眉間、もしくは魔導挺の魔力炉を撃ち抜いていく。

「ふんっ。帝国軍兵士の狙撃能力もたかが知れてますね」


 ギョヌは両手に持つ回転式拳銃リボルバーに弾を装填しながら、大型艦に近づいていった。

 するとその大型艦から更に20騎ほどの魔導騎馬が出撃してくるのが見えた。


「頭数を揃えれば、自分達を制圧出来ると思ったか…。あのような愚かな皇帝を持つと兵士も苦労するな…」


 ギョヌは更に射撃のテンポを上げて、その増援の空戦部隊を墜としていく。

「さて、そろそろ艦を墜とすか…」


 ギョヌは魔導騎馬から飛び降りると、大型艦の甲板に降り立った。

 すると、その艦の速射砲の砲身がギョヌの方に向けられる。

「はっ! 外せばこの甲板に穴が空くのが分かってないのか?」


 ガガガガガガガッ…

 轟音とともに速射砲が火を吹いた。

 ギョヌはそれをかわすと、甲板に蜂の巣のような穴が空いていく。


「バカな兵士たちだ…。自らのふねに穴を空けるなど…。ではそろそろお望み通り、墜とすしましょうか」


 ギョヌはクルクルと拳銃を回し、両手の拳銃を自分に狙いを定めている速射砲に向けた。

「【砲身拡大バリアント】!」


 ギョヌの持つ拳銃の砲身が伸び、二回りほど大きくなった。


 バァンッ!バァンッ!…

 その巨大化した拳銃で速射砲を撃ち抜くと、砲台から外れるほどの衝撃とともに速射砲が甲板の上にバラバラに飛び散った。


 するとギョヌの前方にある指令デッキと、後方の船首の方からも剣や小銃を装備した兵士が甲板になだれ込んできた。

 それを見たギョヌに思わず笑みが漏れる。

「ふっ、次から次へと策もなく出てくるとは愚かな…」


 ギョヌが両腕を広げ、ふんっと気合いを入れるような声を上げると、ギョヌの両脇から更に2本の腕が勢いよく生えてきた。

 新しく生えた腕にもすでに拳銃が握られており、ギョヌはゆっくりと回転しながら、自分の前後に展開している兵士たちを合計4丁の拳銃で次々と撃ち抜いていく。


 あっという間に兵士たちの死骸が積み上がっていった。

 ギョヌは指令デッキを振り返ると、その中の兵士たちが既に逃亡を始めているのが見えた。


「ふんっ。賢明な判断ではあるが、兵士の敵前逃亡は……」


 ギョヌが4本の腕を体の前に突き出す。

「【爆凄化バズカ】!」


 4丁の拳銃が融合し、巨大な砲身を持つ拳銃となった。


「敵前逃亡は死刑です」


 ボゴォーン!

 爆音とともに指令デッキを撃ち、デッキが粉々に飛び散る。

 更に狙いを艦体に定め一発、二発と撃ちこみ、艦体が大きく傾く。

「こんなものか…」


 ギョヌはそう言い残し、自らの魔導騎馬に乗り込むと、黒煙を吐き大きく傾いた大型艦から離れて行った。



 あり得ないほどのスピードで、ヒイアカの乗る魔導騎馬は空戦部隊の間をすり抜け、彼が通り過ぎた後の魔導挺がことごとく真っ二つに両断されていく。


「やっぱり全然硬くないし、遅いね」


 ヒイアカはそう言って、手に持った剣を投げ捨てると体からまた別の剣を出して、また敵の魔導挺を両断していく。


 彼は見た目こそ少年であるが、スライムである。

 彼の体の中にはとてつもない量の剣や短剣などが収納されている。

 そのスピードを生かした剣撃に剣が耐えきれず、刃こぼれしたら持ち換える……を繰り返して、この短時間で何十騎もの単騎を墜としてきた。


「ヨールもケルブヌスも、もう大型艦を墜としてるもんなぁ。僕もそろそろ墜とさないとなぁ」


 ヒイアカは大型艦の方に向きを変え、スピードを更に上げた。

「ん~。でも人間が作ったふねに乗りたくないし、王妃が見ているからインパクトのある墜とし方したいな~…。そうだっ! せっかくだし、アレ、試そっ」


 ヒイアカは空戦部隊を墜としながら、大型艦に向かう速度を落とした。


「よーしっ! 距離はこれぐらいでいっか。【水切輪みずぎわ】」


 ヒイアカのかざした両手の前に輪っか状の不思議な形をした刃物が現れる。

 ヒイアカが念を送ると、その輪っか状の刃物はどんどん大きくなっていく。


 その直径は30メートルほどまで大きくなった。

 ヒイアカが大型艦に振り返る。

 その大型艦、6番艦の艦長カルレスはその巨大な輪っかを見て、呟く。

「なんだあれは……? まさか…」


 ヒイアカが6番艦に向けて腕を振り下ろした。

 それと同時に【水切輪】が激しく回転して、6番艦に向かっていく。

 カルレスが叫ぶ!

「回避ーっ! 全速回避しろーっ!」


 6番艦は艦体が傾く勢いで方向転換をするが、【水切輪】が艦体の横っ腹に、激しい音を立ててめり込んでいった。


 ギャギャギャギャギャギャ……


 回転するノコギリが鉄を切り裂くような音が響き、6番艦が【水切輪】に真っ二つに両断された。

 更に【水切輪】がブーメランのように6番艦に戻ってきて、更に切り裂いていき、6番艦から爆発が起きる。

 三つに分断された6番艦は黒煙を上げながら、海へと墜ちていった。


 ヒイアカはそれを見下ろしながら、満足げな表情で魔導騎馬の上に立った。

「これはなかなかインパクトあったんじゃない?」


 そして振り返ると、視線の先に別の大型艦が見える。

「よーしっ! この調子で次も墜とすぞっ」


 ヒイアカが魔導騎馬に跨がり、そのスピードが上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る