第10話 ヨールとケルブヌス
ヨールの駆る
「おっらぁー! 邪魔だぁーーー!」
帝国軍の空戦部隊の一斉射撃がヨールに向けられるが、それを振り切りながら、ヨールは大剣を振り回す。
剣から暴風と炎が生まれ、空戦部隊に降り注ぎ一気に10騎ほどが海へと落ちていった。
赤い髪をなびかせ、魔導騎馬の上に立ち上がり、その強靭な腕で大剣を振り回し、空戦部隊の間を駆けていく。
美麗な顔立ちをした女性だが、その体は逞しさに溢れていた。
ヨールが大剣を振る度に、帝国軍の空戦部隊の何騎かが撃墜されていく。
まさに重戦士に相応しい豪快な戦い方だった。
彼女の属性である、火の力が付与された攻撃は空戦部隊の銃弾すらも叩き落としていった。
「おっしゃ! じゃあまず、あのデカイのだっ!」
ヨールは1隻の大型艦に狙いを定めると、その艦に猛スピードで迫って行った。
どぉぉんっ!
ヨールは大剣を背負ったまま、1隻の大型艦の甲板に飛び降りた。
降り立つと同時に甲板にいる兵器達が小銃で撃ってきたがヨールが大剣を振り回し、兵士達を吹き飛ばした。
「これじゃ、ちょっと壊しにくいな…。うっし、【
ヨールが叫ぶと、手から大剣が消えて代わりに、これまた巨大なスパイクハンマーが現れた。
ハンマーの頭の部分だけでヨールの体が隠れるぐらいの大きさだ。
それを片手で軽々と持ち上げると大きく振りかぶり、床に向かって叩き落とした!
「うらぁぁぁーーー!!」
ドゴォーン!!!
爆音とともに甲板に巨大な穴が空く。
その振動で何人かの兵士も艦から落ちたようだった。
ヨールは【火那槌】を肩に担ぎ、甲板を見回す。
「やっぱ、貧弱だなぁ。お前ら」
艦の中から剣を持った騎士団の兵士がヨールに向かって来る。
「その向かって来る勇気は評価してやんよ。けど……、あそこだな」
ヨールが見上げた先には、この艦の指令デッキがあった。
「さっさと墜とさせてもらうよっ!」
ヨールは甲板で助走をつけると、床を蹴って跳んだ。
兵士たちを飛び越えて、指令デッキの高さまで上がると空中で【火那槌】を振りかぶる。
「だらぁぁぁーーー!」
バッキィーーン!!
指令デッキに【火那槌】を叩き落とした!
衝撃で艦全体が大きく傾く。
ヨールはそのままの勢いで、指令デッキも飛び越えると、艦後方部分にも【火那槌】を振り落とす!
再び艦全体が大きく揺れ、ヨールが振り落としたその大型艦の最後部から爆発音とともに黒煙が上がる。
ヨールの一撃が大型艦の機関部を破壊したためだった。
急激に速度を落とした艦の高度が下がっていく。
ヨールは自身の魔導騎馬を呼び寄せ、それに飛び乗った。
「よーっし! 一丁上がりだなっ!」
ヨールは次の大型艦めがけて、飛んで行った。
ケルブヌスの周りに帝国軍の空戦部隊が迫る。
機銃や小銃を構えた兵士たちに戸惑いが走る。
狙いを定めた魔導騎馬に乗っているのは、ピンク色の髪をした獣耳に尻尾もある、可愛らしい可憐な女の子だからだ。
ケルブヌスはそんな相手の戸惑いを無視してどんどん距離を詰めていく。
「じゃ、いくよっ☆ むーたん☆ ひーたん☆」
ケルブヌスのマフラーが伸びて2匹の狼犬の頭がその先から現れる。
そしてその頭が勢いよく伸びながら、どんどん大きくなる。
「ガウガウガウゥゥー!」
「オラオラオラァァー!」
その狼の頭は雄叫びを上げながら、眼前に迫る空戦部隊に襲いかかる!
巨大化した頭は至近距離の敵は噛み砕き、距離をとる敵には大きな口から雷撃を放ち、次々と空戦部隊を海に墜としていく。
「あのでっかいの、行くよっ☆」
ケルブヌスがそう叫んだ瞬間、ヨールが攻撃した大型艦が煙を出しながら墜ちていった。
「だぁぁぁ~! 先越された~! むーたん! ひーたん! 戻ってぇ~」
ケルブヌスの元まで頭が戻って来ると、ケルブヌスは近くの大型艦に向かって飛び降りた!
飛び降りたケルブヌスのマフラーから狼犬の頭が伸びていく。
その頭はどんどん伸びて、遂にマフラーから完全に離れると2頭の大きな狼犬になった。
その狼犬の体長は5メートルを悠に越えていた。
すると、その内の1頭がケルブヌスに尋ねる。
「オジョウ! コノフネコワス?」
「うん☆ 壊す☆」
2頭は走り出すと、甲板に出てきた兵士たちをなぎ倒し、辺り構わず雷撃も放ち出した。
ケルブヌスの後方から兵士たちが甲板に上がって来て、小銃や剣を構えて向かってきた。
「えぇ~、まだ出てくるのぉ~。じゃあ、ボクが相手しなきゃね☆ 【
ケルブヌスの両手に雷を纏った、2本の大型のダガーが現れる。
その2本のダガーを手にケルブヌスが華麗に回りながら、巨大な雷撃を放った!
雷撃は兵士たちを直撃して兵士たちがバタバタと倒れていき、当たった甲板の一部も黒焦げにした。
更に新手の兵士がケルブヌスを掃射するが、ケルブヌスはくるくる回りながら、体の周りに雷を展開して弾丸を弾いていく。
そしてそのまま雷撃を放ち、兵士たちを吹き飛ばしていった。
ドゴォーン!
艦の後方から爆発音が響く。
どうやら2頭の狼犬が機関部を破壊したようだ。
バリバリッ!
2頭の狼犬が甲板をぶち破って、ケルブヌスの前に飛び出してきた。
「オジョウ! オレ、フネコワシタ!」
「ナニイッテンダ! オレガヤッタンダロ?」
甲板にでてきて、すぐ口ゲンカを始めた2頭の頭をケルブヌスが同時に撫でだして、
「2人とも偉い偉い☆ ありがとねっ☆」
2頭とも舌を出して嬉しそうな顔になった。
そこへ半壊した指令デッキから1人の兵士が剣を持って出てきた。
ケルブヌスと2頭の狼犬を見つけると、ケルブヌスに向かって叫んだ。
「俺はこの3番艦の艦長ハリメ。冥府の住人よ! 俺と勝負しろっ!」
ケルブヌスがキョトンとした顔でそのハリメを見つめる。
「えっ? もうこの
「冥府の住人の情けなど要らぬ! 名を名乗れ! 俺が相手をしてや……ガハッ!」
狼犬の前足が伸びてハリメの胸を貫き、ハリメの体がその場で崩れ落ちた。
「ウルサイカラ、ヤットイタ」
「あはは☆ ありがと☆ あっ、名前だったね。この子は【無惨】、こっちの子は【悲惨】。で、ボクは【惨酷】のケルブヌス……って、もう聞こえてないか」
ボーンッ!
更に爆発が起きて艦が傾き出す。
「よし☆ むーたん、ひーたん! 次の
「ワンッ!」
「オンッ!」
2頭の狼犬は一吠えした後、ケルブヌスのマフラーに入っていき、ケルブヌスは魔導騎馬に乗り込むと、墜ちていく大型艦から離れて行った。
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