第9話 開戦

 帝国軍艦隊12隻が扇型に展開して、〈冥府の大地〉に向かって飛行している。


 扇の要、最後方に旗艦が位置して、この艦隊の指揮を取るディーベン・サージキアは指令デッキから前方に展開する艦隊郡を見据える。


 親の七光りと揶揄された時期もあったが、今は実力で周りを黙らせたと自負している。

 今回の〈冥府の大地侵攻作戦〉には妹のエウーリも参加している。

 もちろん、父のムンディルも後ほど超大型飛行艦エンケラドスで合流予定になっている。


 リタース…、ルセネールとの因縁もある。

 これはサージキア家にとって、いつもの侵攻作戦とは意味合いが違う。

 何がなんでも成功させなければならない作戦であった。


 ディーベンがそんな思いを巡らせていると、通信兵が声を上げる。

「艦長! 1番艦より入電! 敵影を捕捉!」


 指令デッキ内に緊張が走る。


「よし! 数は?」


「……6騎? 艦長! 敵影は6騎。単騎で6騎とのことです!」


「な……6騎?」

 ーまさか…6騎だけで迎え撃つつもりか? 冥府の大地には百人ほどの住人しかいないとは聞いていたが……。


「降伏を知らせる使者かもしれん。白旗は掲げていないか?」


「…白旗は……掲げていないそうです」


 少し考えた後、ディーベンが通信兵に命令する。

「1番艦に伝えろ! 威嚇射撃を許可する。絶対に当てるなと」


「はっ!」


 しばらくして前方の飛空艦から大砲の発砲音が聞こえた。


「艦長! 敵影、依然として我が隊に向かって前進中! 白旗は確認出来ず」


「眼前の6騎は敵の迎撃隊と認定する! 全艦に伝えろ! 全艦、魔導挺まどうてい魔導騎馬まどうきばを出撃させろ! 相手はあの・・冥府の住人だ! 全隊、一瞬たりとも油断するなと」


「はっ!」


 そして12隻の大型飛行艦から一斉に魔導挺と魔導騎馬が次々と出撃していった。


 ◇ ◇ ◇


 ヒュー……

 先頭の飛空艦から放たれた弾が大きく外れていった。


「なんでぇ、全然違うトコに飛んでいってるじゃねえか」


「違うよ、ヨール。あれは威嚇。たぶん僕たちの数が少ないから、伝令なのかどうか確かめたんだよ」


「え? そうなんか? アタイらがアイツらを墜としにきたって分かってねえの?」


「そりゃ、あの数の飛空艦をこの数で迎え撃つとは思わないよ、普通」


 ルセネールはガーロンの後ろから前に展開している艦隊郡を見つめる。

 ーさて、あの中にムンディルとディーベンはいるのかしら?


 アヘロンタスの念話がルセネールと冥鋭護代めいえいごだいに聞こえてくる。


(皆、準備はいいか?)


(もちろん! いつでもオッケーよん☆)


(うむ。油断するなよ、ケルブヌス。では皆左右に散開して、それぞれ奴等の単騎の飛空挺に気をつけながら、艦隊を沈めていってくれ)


(首席殿~。ちょっと指揮、手抜き過ぎじゃないっすか~?)


(ふん。指揮をきっちり守るようなお前達ではないだろう。ただガーロンだけは前に突っ込み過ぎるなよ。それだけだ)


((はーい))


「それじゃ、姫様! ちょっと行って来ますんで、このヨールの活躍、見ててくださいよ!」


「あっ! ヨール、ズルい! ボクも! それじゃ、姫様、行ってきますっ☆」


「では、ガーロン。王妃を頼むぞ。自分も向かいます。失礼します」


「じゃ、僕も暴れてきますっ! 王妃! 見ててくださいねっ」


「それでは、わたくしも参りますので。ルセネール王妃、くれぐれもご無理されないように…」


 皆、ルセネールに手を振ってから、スピードを上げて左右に散って行った。


 ルセネールは前にいるガーロンに声を掛ける。

「ガーロンさん。しばらく皆さんの様子を見させていただきますので、この辺りで待機していただけますか?」


「御意! 仰せのままに」


 ー皆、すごく余裕があったけど、大丈夫かな?

 ひとまずこの辺りで見ている分には、アヘロンタスも心配しないでしょう。


 先頭を切ったヨールに、何騎もの魔導挺と魔導騎馬が向かって来る。


 魔導挺とは一人乗りの笹舟型をした飛空挺で、帝国軍空挺師団の主力兵器である。

 少ない魔力消費で高い飛行能力と旋回能力を持ち、機銃を装備した、空挺師団を象徴する兵器である。


 そして魔導騎馬とは文字通り、騎馬を模した飛空挺である。

 騎士団が空中戦を行う為に開発された兵器で、速度は魔導挺に劣り、機銃も装備していないが両手が使える為、接近しての剣撃や拳銃、小銃を装備しての戦闘が可能となっている。

 主に騎士団所属の兵士が騎乗し、騎士団の活躍の場を空へと押し上げた兵器である。


 この艦隊は空挺師団と騎士団の共同作戦であるため、1200機以上の魔導挺と魔導騎馬が配備されている。

 その大部隊が冥鋭護代の6人とルセネールに向かって今、放たれたのだ。


 ヨールが背中から大剣を取り出す。

 自分の身の丈と同じぐらいの長さがあるにも関わらず、その重さを感じさせず、片手で振りかぶり横薙ぎに払った。


 ブゥンッ!


 飛空挺隊までまだかなり距離があるにも関わらず、魔導騎馬に乗った数人がその風圧に吹き飛ばされて、海へ落ちていった。


「おいおい…こんなもんかよ、お前ら。もうちょっと、このヨール様を楽しませろよっ」


 ヨールの乗る魔導騎馬がスピードを上げて、艦隊へと向かって行った。

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