第8話 迎撃準備②

 ジルド=メサイア近くのメサイア基地から6隻の大型飛空艦が出航していくのを皇帝ギャラドネアが皇宮殿の最上階から眺める。


 そこへ騎士団総大将ネレイドが報告に来る。

「皇帝陛下。フェーベ級艦6隻、無事にスミラド基地に向かって出航致しました」


「うむ。これで合計12隻か。エンケラドスの準備はどうなっておる?」


「はっ。空挺師団総大将ムンディルより明日、出航準備が整うとの連絡がございました」


「そうか。ガーラテアはこの艦隊に帯同するのか?」


「いえ、今回の編成主力は空挺師団と騎士団となりますので、戦術魔法師団は技師のみの乗船で、残りは首都防衛の配備となり、ガーラテアはそちらの防衛指揮にあたっております」


 ギャラドネアは深く椅子に腰かけると、

「あれだけの艦隊が攻めるのに防衛は必要なのか?」


「はい。相手は人外の〈冥府の住人〉です。我々の考えも及ばない手段を取る可能性もあります。念には念を入れる必要があるかと…」


「なるほどな、慎重な総大将たちがいると心強いもんだな」


「恐れ入ります…」


「ではここで儂は朗報を待つとするか…」


 ギャラドネアは更に大きくのけ反るように椅子に腰をかけた。


 ◇ ◇ ◇


 冥府の大地

 エレーボス城の大広間


 ルセネール王妃と7人の冥鋭護代めいえいごだいは写し出された映像を見ていた。

 そこには冥府の大地の対岸から山あいに少し入った場所にあるスミラド基地を上空から映し出していた。


 そこに6隻の大型飛空艦が続々とスミラド基地に着陸していく様子が見てとれた。


 映像を見ながらケルブヌスが驚きの声を上げる。

「ほえぇぇー☆ これで何隻めぇ~? どんだけ飛んでくるのぉ~?」


「これで10隻だな。まだあと2隻、向かって来ているそうだ」


「ほえぇぇ…☆」


「なんだ? ケルブヌス、怖じ気づいたのか?」


「ううん。墜とした後の片付けがめんどくさいな~と思って☆」


「はっ! そんなもん海に墜としゃ問題ねえよ」


「おぉ~! そうだね、ヨール! 脳筋なのによく思いついたね☆」


「脳筋じゃねえ! くそ犬!」


 ケルブヌスとヨールのやり取りが止まり、アヘロンタスが話し出す。

「皆、見ての通り帝国は我が〈冥府の大地〉に対して艦隊を編成し、攻め入ろうとしている。おそらく明日、明後日にはあの大艦隊は海を越えて、この冥府の大地に向かって来るだろう」


 ルセネールが皆の方を見て話し出す。

「さて、この艦隊に対する私達の作戦ですが…、アヘロンタスからは冥鋭護代だけで対抗すると伺いましたが…」


 アヘロンタスが答える。

「はい。私は城に残り、指揮を取りますので他の冥鋭護代6名で対抗致します」


 にわかには信じられない提案だった。

 大型飛空艦が12隻。

 おそらく1隻あたり、単騎の魔導挺まどうていまたは魔導騎馬まどうきばが100挺は乗っているだろう。

 そうなると、1200以上もの単騎があの艦隊郡から出撃してくることになる。

 更に大型飛空艦にはそれぞれ大砲が2門と、対空機銃も船体両側にビッシリと装備してある。


 それをたった6人で相手にしようというのである。

 普通に考えれば全く話にならない戦力差ではあるが、アヘロンタスは問題ないと言わんばかりに、自信満々の顔でルセネールを見つめる。


 ー普通ならあり得ないけど、アヘロンタスがこれだけ言い切れるんなら大丈夫かしら?


 するとルセネールが手を挙げて、話し出す。

「では、冥鋭護代6人でこの帝国の艦隊を撃ち破ってください。ただ一つお願いがあります。私も出撃させていただけますか?」


 なっ!?

 えっ!?

 ほえっ!?


 皆が一斉に驚きの声を上げる。

 動揺を隠せないアヘロンタスが口を開く。


「お、王妃。お一人で、しゅ、出撃なさるおつもりですか?」


「そのおつもりですけど…?」


「い、いけません! いかに王妃のご要望であっても、その要望は、よ、容認出来ませんっ!」


「そうですわ、王妃! 王妃はこちらでわたくし達の指揮を取っていただかないと…。戦闘は我々、冥鋭護代にお任せくださいな!」


「指揮はアヘロンタス一人で充分でしょう? 私は皆さんを信頼していないわけではないのです。ただ自分がけしかけた相手ですから、私が出向くのが礼儀かと思いまして…」


 ヨールが大笑いしながら声を出す。

「あっはっは…、確かに姫様がけしかけたというのは間違いないですねー」


「でしょ? ヨールさん」


「「ヨール!」」


 アヘロンタスとバイタラニーが同時に叫んだ。


「ダメかしら? アヘロンタス」


 アヘロンタスがタメ息交じりに答える。

「はぁー…。分かりました。王妃。ただ陸上の戦闘とは勝手が違います。もう魔導騎馬などを練習している時間はありません。なので、単騎での出撃は許可出来ませんが、二人乗りタンデムであれば…」


「まあ! いいのですね? アヘロンタス!」


「ただ…。私が危険だと判断したらばすぐに帰投していただきます。よろしいですね?」


「はい☆ もちろんです」


「では、誰の後ろに乗ってもらうか…」

 アヘロンタスが皆の顔を見ると、


「はいはーい☆ 姫様! ボク、ケルブヌスの後ろはいかがですかぁ?」


「あ!? オメーの後ろに乗ったら姫様が船酔いしちまうよ! アタイの方がマシだっつうの」


「ケルブヌスもヨールも、飛び方が雑だから王妃が疲れちゃうよ。その点、僕ヒイアカの後ろでしたら、快適に空の旅をご案内出来ますよ」


 アヘロンタスがそのやり取りを無視して、ガーロンに声をかける。

「ガーロン。ルセネール王妃を頼む。帰投命令が出たらすぐに撤退してくれ」


「御意。必ず王妃をお守り致します」


 ケルブヌスとヒイアカが口を尖らせて、

「「ぶー!」」


 ルセネールはガーロンの魔導騎馬に乗り込むことになり、〈冥府の大地〉冥鋭護代は帝国軍の大艦隊を迎え撃つことになった。

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