第6話 宣戦布告

 ジルド=オール皇宮殿 応接の間

 応接室にいる皇帝ギャラドネアと3人の帝国軍各総大将の元に近衛兵士が伝令に来る。


「皇帝陛下。〈冥府の大地〉よりルセネール王妃とアヘロンタス様がお見えになりました」


 応接の間の扉が開き、そこへルセネールとアヘロンタスが入って来る。


 ギャラドネアが席を立ち、3人の総大将も同じく立ち上がると、ギャラドネアが口を開く。

「これはルセネール王妃。遠路はるばる、ようこそおいでいただき、恐れ入る」


「いえ、こちらこそ。急な会談の申し出で、大変申し訳ありませんでした」


 皇帝ギャラドネアに続き、ネレイド、ガーラテアが順に自己紹介をしていき、最後にムンディルが自己紹介をする。


お初に・・・お目にかかります。帝国軍空挺師団総大将ムンディル・サージキアと申します」


「よろしく」


 ルセネールは仮面を着けたまま、表情一つ変えずに対応する。


 そしてルセネールは頭を下げながら、

「〈冥府の大地〉冥王妃ルセネールと申します。ギャラドネア皇帝陛下。改めて会談の機会を頂戴し、感謝の意をお伝えいたします」


「〈冥府の大地〉冥鋭護代めいえいごだい首席、最高執務官アヘロンタスと申します」


 アヘロンタスの挨拶の間、3人の総大将の顔に緊張の色が走る。


 …とてつもない強さ…。

 まさしく人外の雰囲気を纏うアヘロンタスに総大将3人の体は思わず強ばった。


 6人は席に着くと、まずギャラドネアが口を開く。


「まずは王妃殿。この度の復活おめでとうございます。私は以前のお姿を拝見しておりませんが、これほどまでに美しくお若い王妃とは驚きました」


「まあ。ありがとうございます。皇帝陛下はお世辞もお上手なのですね」


「いえいえ、決してお世辞などではございませんよ」


 和やかな雰囲気のやり取りが終わると、ルセネールが核心の一言を発する。


「時にギャラドネア皇帝陛下。今現在、ジルド=オール帝国は領土拡大を押し進めている真っ最中だとお伺いしましたが…」


 3人の総大将とギャラドネアに緊張が走る。


「その侵攻というのはどのあたりまで進んでいるのでしょうか?」


「なるほど…。そうですね。それは国家機密にあたりますので、いかに王妃様とはいえ国外の方に、おいそれお伝えする事は控えたいのですが…」


「なるほど…、確かにそうですね。では質問を変えましょう。今後、帝国は我らの〈冥府の大地〉に侵攻のご予定はございますか?」


 何の探りもない、直球の質問にギャラドネアが面食らった。

 質問の答えを促すように、ルセネールは余裕の笑みを浮かべている。


 ーこの小娘がっ! 調子に乗りよって!

 自分達はいつでもこの帝国の相手が出来るとでも言いたいのか?


 ギャラドネアが答える前に隣にいるムンディルが先に口を開く。


「ルセネール王妃。それは帝国があなた方に対して敵対心があるのか、とお尋ねですか?」


「ええ。私どもは正式な国家ではありませんが、私は代表として知る義務があります。誰が味方で、誰が敵なのかを…」


 ルセネールが正面からムンディルを見据える。

 ムンディルもまたルセネールを睨み付ける。


 その沈黙をギャラドネアが破る。

「王妃。では私が帝国の代表としてお答えしよう。これが我々の答えだっ!」


 ガーラテアが魔法を発動させ、部屋の四方の壁に魔法陣が展開され、ネレイドが自身の体に身体強化魔法を発動させて剣を抜いた。


「王妃っ!」

 アヘロンタスがルセネールの前に出る。


 そしてそれと同時にルセネールはアヘロンタスの前方に【完全障壁】を展開する。


「どるぁぁぁー!」

 ネレイドが雄叫びと共にアヘロンタスに斬りかかる。

 その剣はルセネールの【完全障壁】に弾かれ、アヘロンタスがその一瞬を逃さずネレイドに殴りかかる!


極雷撃ザーギラベ!」

 ガーラテアの両手から7階域の雷魔法が放たれる。

 しかし、一瞬早く殴る動作を止めてアヘロンタスがルセネールの【完全障壁】の後ろに下がり、ガーラテアの雷魔法が【完全障壁】に吸収される。


 アヘロンタスはそのままルセネールの体を抱えると、宙に浮かび転移魔法を唱える…が、転移しない。


 ー転移無効の魔法陣か? ならば…。


 アヘロンタスが壁を破ろうと構えた瞬間、ルセネールが声を上げる。


「ギャラドネア! これが貴方達、帝国の答えなのですね?」


 ネレイドとムンディルの後ろにいるギャラドネアがルセネールに向かって叫ぶ!

「そうだ! 我々の侵攻は誰にも止めさせんっ! それは冥府の大地であってもだっ!」


 ルセネールはアヘロンタスに体を抱えられながら、眼下にいる4人を見ながら答える。

「帝国のその敵対心。しかと聞きました。この時より貴方がたは我々の敵です。我々の地を侵攻するというのであれば、相応の犠牲を覚悟なさい」


「ふんっ! 無傷で冥府の大地を手に入れられるなど思っておらんわ! 異形のお主らに帝国の脅威を思い知らせてやるわ!」


「なるほど…。それは楽しみですわね…。アヘロンタス!」


 アヘロンタスはルセネールの体を抱えたまま、部屋の魔法陣に向けて猛スピードで飛ぶと、魔法陣もろとも壁をぶち破り、部屋の外へと飛び出して行った。


 大きく穴の開いた壁を見ながら、ガーラテアが呟く。

「化け物め、魔法陣ごと一撃で壁を破るのか…」


 ギャラドネアが顔を紅潮させて、3人の総大将に向かって叫んだ。


「ネレイド! ガーラテア! すぐに冥府の大地侵攻の艦隊部隊を編成してスミラド基地へ集結させろ! ムンディル! 建造中のエンケラドスの完成を急がせろ! 完成の目処がつき次第、冥府の大地への侵攻を開始する!」


 3人の総大将がその場に跪き、揃って返事をする。


「「はっ! 直ちに!」」

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