第5話 ジルド=オール帝国
ージルド=オール帝国ー
首都ジルド=メサイア
皇宮殿最上階の皇帝ギャラドネアの部屋に近衛兵が、空挺師団総大将ムンディル・サージキアが緊急の訪問に来たことを告げに来る。
皇帝ギャラドネアはすぐに大会議室に騎士団総大将ネレイドも呼び出し、そのムンディルからの緊急報告を受ける。
「ふむ。冥王の妃の復活か…」
「はい。復活後の動きは分かりませんが、まず皇帝陛下に一報をと思い、馳せ参じさせていただきました」
「ん。ご苦労だった、ムンディル。で、どう見る? ネレイド」
「詳細が分からないので、何とも言えませんがこれにより〈冥府の住人〉達が何か動きを見せる可能性があると思います。こちらの備えも急いだ方がよろしいかと…」
ギャラドネアが目を閉じて、頷きながらネレイドの話を聞いていると、大会議室の扉がノックされる。
扉の横にいた兵士が、外から来た兵士に話を聞いてその兵士がギャラドネアの側に来る。
「皇帝陛下。会議中に失礼致します。冥府の大地の使者を名乗る男が皇宮殿に来たようです」
それを聞いたムンディルとネレイドが反応する。
「使者…だと?」
「はっ。皇帝陛下にお目通りしたいとのことですが…」
ギャラドネアは両側にいるムンディルとネレイドを見て、その兵士に告げる。
「分かった。すぐにこの会議室に通せ」
◇ ◇
「突然の訪問にも関わらず、お時間をいただき、誠に感謝致します。ギャラドネア皇帝陛下」
「よい。して、貴殿は冥府の大地の使者ということらしいが…」
「申し遅れました。自分は〈冥府の大地〉
ギョヌはその場に跪き、深々と頭を下げる。
「ギョヌ殿か。今日は何用にてこちらへ参ったのだ?」
「はっ。自分達の盟主、冥王ヘイデス様の妃ルセネール様がこの度、かの地に復現されました。つきましては一度、王妃ルセネール様と会談をお願いしたく、参上した次第でございます」
「ほほう。王妃様が。なるほどなるほど…」
ギャラドネアはチラッとネレイドとムンディルの方を見る。
そして、ギャラドネアは再びギョヌに問い掛ける。
「ギョヌとやら。その会談は何の為に必要なのか説明してもらえるか?」
「特に他意などはございません。隣国の代表として挨拶をと、王妃より賜っております」
「はっはっは…。隣国か、なるほどな」
ギャラドネアの乾いた笑い声が会議室に響くが、それと同時にネレイドとムンディルの顔に緊張が走る。
まだニヤニヤした表情でギャラドネアがギョヌに話す。
「ならば‘隣国の’代表として王妃様の復活パーティーでも催すか? 良いと思わんか? ネレイド?」
ネレイドの背中から大量の冷や汗が滴り落ちる。
ギョヌが落ち着き払った声で話す。
「お戯れを…。本気で申しているのではありますまいな?」
「なに? パーティーではもの足りんかな? では他の国賓も招いて…」
パンッ! パンッ!…
一瞬でギャラドネアの隣に移動したギョヌがそこからネレイドとムンディルの頭を掠めるように拳銃を放った。
ネレイドとムンディルは腰の剣に手がかかっているが、全く身動きが取れなかった。
「調子に乗るなよ。人間風情が。次はその中身のない頭に風穴を開けるぞ」
ギャラドネアの顔が一瞬にして凍りつく。
「今宵、我が王妃ルセネール様がこちらに参る。もしまたそのような舐めた態度を取れば容赦はせん。お前たちに拒否という選択肢はない。それを肝に命じておけ」
ギョヌはそう言い残すと、転移魔法でその場から消えた。
会議室で3人は唖然とした表情で顔を見合せる。
ふぅーと息を吐き出したギャラドネアがネレイドに尋ねる。
「ネレイドよ。あのギョヌという者、強さはいかほどだった?」
「はっ。私の【鑑定】では正確な数値は計れませんでしたが、相当な強さを有しておりました」
「具体的にはどのくらいだ?」
「戦闘LVは50を悠に越えるほどかと…」
「50!? 50だとっ? SSSランクを越える強さだというのか!?」
「はい。それを越えるものと推測いたします…」
ギャラドネアは腕組みをして考え込む。
戦闘LVとはこの世界では冒険者や軍人などの総合的な強さを表す指標となっている。
力や魔力、体力などを総合的に評価して数値化したものである。
更にその数値を元にランク付けがされ、この世界にはSSSからEまでのランクがある。
帝国軍騎士団総大将ネレイドは戦闘LV37のSランク。
同じく隣にいる空挺師団総大将のムンディルはLV32のSランク。
つまりこの総大将2人のLVを足しても、ギョヌの戦闘LVには届かない。
ジルド=オール帝国にはもう1人、戦術魔法師団総大将ガーラテアがいるが、彼女の戦闘LVは36のSランク。
帝国にはこの3人を越える戦闘LVの兵士はいない。
つまり単騎ではギョヌに対抗しうる兵士は帝国にはいないという事を、ギャラドネアは理解した。
大陸の冒険者で何人か、Sランクの冒険者がいるのだが、それも片手で数えられるほどしかいない。
「恐るべし〈冥府の住人〉といったところか…」
ギャラドネアは自虐気味に呟いた。
そしてネレイドとムンディルに向かって、
「しかし、戦争とは個々の戦闘LVが必ずしも勝利に結びつくものではない。それを我ら帝国はその戦術と科学力で証明をしてきた。違うか?」
「仰る通りでございます。皇帝陛下」
「ネレイド! ムンディル! すぐにガーラテアをここに呼び寄せろ! 夜の会談の準備をするぞっ! 帝国があのような孤島の野蛮人どもに舐められるわけにはいかんっ!」
ネレイドとムンディルは返事をすると、会議室を出て行った。
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