宇津保草子――異世界平安後宮に召喚された琴の巫女、鬼と出逢う

中臣悠月

「巫女様。どうか、この世界を――お救いください」


 突然告げられたあまりにも大それた言葉に、私は困惑していた。

 つい先ほど、トーストと目玉焼き、ベーコンのオーソドックスな朝ご飯を食べたばかり。そして、いつもと同じように学校へ行こうとしただけだった。

 なのに――

 なぜ、私はこのような馴染みのない世界に紛れ込んでしまったのだろう。

 平安時代のようなこの異世界を、ごく普通の高校生でしかなかった私なんかに救うことなどできるのだろうか。


 私はただただ困惑していた。

 世界を救うという、そのあまりにも重すぎる役割に。

 そして、自分の運命に――。


 それでも、この場から逃げ出してしまわなかったのは、ただひとえに、あの少年にもう一度逢えるかもしれないというかすかな期待が心の奥底に存在していたからだ。

 あの金色の髪をした美しい少年に――

 私は、また巡り逢えるだろうか。

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