第14話 召喚は また明日ねと ショタ退場

 困惑しながらも、エリオットは基本的な魔法陣の書き方を教えてくれ、召喚方法も教えてくれた。

 でも、口で説明するには複雑すぎる図形だし、道具も清めなくてはいけないから、今すぐ召喚魔法を使うのは無理――ということだった。


 出端ではなくじかれ、『な~んだ』と肩を落とした私を見て、エリオットは焦ったように、


「でもあの――っ!……今は、ダメだけど……あした、レッタちゃんが、うちにあそびにきてくれるなら……ボクが、つかうものとか、ちゃんとよーいしておく、けど……」


 モゴモゴと、相変わらずハッキリしない口調ではあったけど、そう申し出てくれた。

 私はすぐさま気を取り直し、エリオットの両手をギュッと握って。


「ホント⁉ ありがとーエリオット!――明日ね⁉ 明日、君の家に行けばいーのね⁉ そーすれば、使い魔召喚できるのね⁉」


 ブンブンと上下に振りながら、ストレートにお礼を言うと、エリオットは真っ赤な顔をして、コクコクと何度も首を振った。


「まあ、レッタしゃまに、使い魔をショーカンできりゅだけの、まほーちゅかいのしょしちゅがごじゃいましたりゃーの、話でしゅけど~~~?」


 からかうように言った後、ミックは意地悪く『きゅひひ』と笑う。



(む、うぅぅ~~~……ッ! まったく、生意気な生き物ね! 見た目はめちゃくちゃ可愛いのに! ほんっと、もったいないったらないわ!)



 私はミックを睨みつけ、心の中で、思いつく限りの悪口を言いまくった。


 〝この子みたいなペットが欲しい〟って思ったのが、使い魔召喚に興味を持った、そもそもの理由だったけど……。


 フン! もーいーもんね!

 こんな性格悪い子、いくら見た目が可愛くったって、仲良くやって行ける気がしないし!


 見てなさい? ミックなんかよりももっともっともーーーっと、可愛い使い魔ゲットしてやるんだから!




 ……なーんて、さんざん強気な発言をしてしまってたワケだけど。


 エリオットとミックを見送った後、部屋で一人きりになったとたん、私は後悔し始めた。



 だって、よくよく考えてみたら、ド素人しろうとの私に、魔法なんて使えるはずないし。

 使い魔招喚だって、できるワケがないじゃない?


 私の夢の中だったら、何でもできるんじゃないかって思ってたけど……。

 これも、考えてみたら無理な話だったわ。

 今まで一度だって、夢が、自分の思い通りの展開を迎えたことなんてなかったもの……。



 あーーーーーっ、なのに何故ッ⁉

 どーして根拠もないのに、あそこまで自信満々に、


「否定するなら、こっちの素質とやらを見極めてからにしてもらいたいもんだわ!」


 とか、


「使い魔とやらを、見事召喚してみせよーじゃない!」


 ――なんてことが言えたの!?


 ファンタジーのことなんて、これっぽっちも詳しくないのに!

 〝使い魔〟だの〝魔法陣〟だののことだって、現実世界で、ちらっと聞いたことある程度だってのに!



 無謀むぼうだわっ、あまりにも無恥むちすぎるわっ!

 エリオットにいろいろ教えてもらったところで、そんな簡単に事が運ぶワケないわーーーーーッ!!



 ……ああ、もう……どーしよう?


 今更、『やっぱやめましょ』なんて言えないし。

 明日、エリオットの家に行くって、約束しちゃったし。


 それに何より。

 できません、なんて口にしようものなら……あのミックに、何言われるかわかったもんじゃない!



 ――嫌! 嫌ッ‼

 あいつにバカにされるのだけは、ずうぇーーーーーったい、イヤーーーーーーーッ‼



「……仕方ない。今から死に物狂いで、魔法の勉強するしかないか……」



 勉強なんて、大っ嫌いだけど。

 テスト勉強は、一夜漬けしかしたことなかったけど。

 夏休みの宿題に至っては、毎年、最終日に友達に泣きついて手伝ってもらって、どうにかこうにか終わらせてたタイプ……だったけど。


 背に腹は代えられない。

 大嫌いな勉強、死んだ気になってするしかないわね。



 覚悟を決めた私は、魔法の勉強をするためには、まずはどうしたらいいのかを考えた。



 魔法の勉強……。


 そうか、本だ!

 知識が詰まってるものと言ったら、やはり本しかないだろう。


 現実の世界だったら、真っ先にスマホに手を伸ばしてるとこだけど。

 残念ながら、この世界にスマホはない。パソコンだってない。


 本よ! 魔法について書いてある、専門書を探さなきゃ!

 本屋か図書館!

 どっちかに連れてってもらって、専門書を探すのよ!



 善は急げとドアまで走って行き、ドアノブへと手を伸ばす。

 ドアを開けようとしたとたん、


「フローレッタ様ぁ~~~! お茶のお時間でございま~~~す!」


 ノックの音と共に、またしてもヴァーベナさんの声がし、外側からドアが開けられた。

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