第13話 すぐキレる ショタの使い魔 メンドクサイ

「ギャッ」


 ミックの強烈な頭突きを額に受けた私は、短い悲鳴を上げ、後方へと数歩よろめいた。


 小動物とは言え、ものすごい勢いでぶつかって来られたら、それなりのダメージは食らうものだ。

 私は両手で額を押さえ、『イテテ』とつぶやいた。


「なーにが『私もやってみたいなー』でしゅか! しょんなカンタンに、ショーカンができるワケないでしゅ! ショーカンができるのは、ご主人しゃまのよーな選ばれしお方だけなんでしゅ! 魔法使ちゅかいの素質しょしちゅもないよーな人に、いきなりできるもんじゃないんでしゅ!」


 ミックはプンスカと腹を立てながら、ヒラリヒラリと私の周りを飛び回っている。



 モモンガって、鳥のように自力で飛ぶんじゃなくて、風を受けて、高いところから低いところへ移動する生き物、だった気がするけど……。


 ミックってば、風もない室内で、やたら自由に飛び回ってるわよね?

 上から下だけじゃなく、下から上にも飛べてるようだし……。


 これっていったい、どーゆーこと?

 見た目がどんなに似てても、やっぱりミックは、モモンガじゃないってこと?



 自由自在に飛び回っているように見える、ミックという存在が不思議でたまらず、私はまじまじと彼を見つめた。

 頭突きされた額の痛みなんかより、〝どうして、翼も風もないのに飛べるのか?〟という疑問の方が大きかった。


「ねえ。さっきからヒュンヒュン飛び回ってるけど、あなた、どーして飛べるの? 風も吹いてない室内で、翼を羽ばたかせてるワケでもないのに。ねえ、なんで?」


 額をさすりさすりしつつ、気づくとそう訊ねていた。

 ミックは空中でピタリと止まると、不敵にニヤリと笑った。(動物が笑うかとか言われそうだけど、私には笑ったように見えたのだ)


「そんなの決まってましゅ。ご主人しゃまが、ボクに魔力を分け与えてくれてるからでしゅ。使い魔は、ご主人しゃまの魔力によって、活力かちゅりょきゅを得てるんでしゅ。ご主人しゃまあっての使い魔なんでしゅ。……って、しょーんなカンタンなこともわからないんでしゅかー? これだから、まほーちゅかいのしょしちゅがない人は、困りものなんでしゅー。しょしちゅアリアリの、我がご主人しゃまとは大違いでしゅねー。プクククッ」


 バカにするようなセリフを吐き、ミックは私をチラリと窺う。

 カチンときた私は、


「魔法使いの素質? そんなもの、あるかないかなんて、まだわからないじゃない。私にだって、もしかしたら、すっごい素質があるかもしれないわよ? あんた自慢の〝ご主人しゃま〟よりも――ねッ!」


 両手を腰に当て、売り言葉に買い言葉で、思わず言い返してしまった。

 ミックはムッとしたように私を睨んでから、ピューッと眼前まで飛んで来て、またも不敵な笑みを浮かべる。


「ご主人しゃまよりも、しゅごーいしょしちゅがあるでしゅって?……フッフッフ。ご主人しゃまが、世間しぇけんでどーうわしゃしゃれてるか、わかってて言ってるんでしゅか? ご主人しゃまは、まだ6しゃいになられたばかりでしゅのに、『しゅえは大まほーちゅかいになられるに違いない』とまで、言われているお方なのでしゅよ? 使い魔にちゅいてなんにも知らないよーな人が、ご主人しゃまよりも、しゅごいしょしちゅがあるワケないじゃーないでしゅか。あんまり変なこと言わないでほしーでしゅ。鼻で笑っちゃいましゅよ」


 ミックのバカにした言い方に、私はますますムカついて、ギリギリと奥歯を鳴らした。

 エリオットがどれだけすごい子かは知らないけど、やってもいないうちから〝無理〟と決めつけられるのは、我慢ならなかった。


「フン! こっちの力がどれだけのもんか知りもしないクセに、最初からダメだと決めて掛かるのは、あまりにも失礼なんじゃない? 否定するなら、こっちの素質とやらを見極めてからにしてもらいたいもんだわ!」


 両足を肩幅まで開き、おまけに両手まで組んで仁王立ちした私は、不敵な笑みを浮かべ返して言い放つ。

 ミックも負けじと、


「へーえ! しゅごい自信でしゅね! しょこまでゆーなら、見しぇてもらおーじゃないでしゅか!――ご主人しゃま、この人に魔法使いのしょしちゅがあるかどーか、テシュトしてやってくだしゃい!」


 何故かエリオットまで巻き込んで、私を試そうとしてきた。


 オロオロと私達の様子を見守っているだけだったエリオットは、唐突に話を振られ、ビクッと体をこわばらせる。

 私とミックを交互に見やり、困惑顔で小首をかしげると。


「え……え? テストって? えっ……と……。ど、どーやって? ボク、何をすればいーの?」


「マホージンの書き方と、使い魔の呼び出し方を、この人に教えてあげてほしーんでしゅ! まほーちゅかいのしょしちゅがあるのなら、ボクほどのゆーしゅーな使い魔ではないにしちぇも、超低級の使い魔くらいは、ショーカンできるはじゅでしゅ! もしもショーカンできなかったら、しょしちゅはないって、ハッキリしゃしぇられましゅ! しょーしゅれば、この人も諦めがちゅくはぢゅでしゅ!」


「え……え……? でも……ツカイマをショーカンするのに、ボクだって何日もレンシューして……」


「だからいーんでしゅ! ご主人しゃまでもカンタンには行かなかったものが、この人にできるわけないんでしゅ! しょれをわからしぇてやるでしゅ!」


 ミックに促されても、エリオットはまだためらった様子で、モジモジモジモジしていた。

 私はいい加減イラッとして、


「いーのよエリオット! 遠慮はいらないわ! だから早く、私に魔法陣の書き方と、使い魔の召喚方法を教えて!」


 ここが異世界だからと言って、魔法なんてものが使えるとは、これっぽっちも思ってなかったけど。

 生意気なまいきなミックにバカにされたままの状態は、どうしても我慢ならなかった。


「見てなさいよ、ミック? 使い魔とやらを、見事召喚してみせよーじゃない!」


 ここは私の夢の中だもの。何とかなるでしょ。

 テキトーな自信だけをり所にした私は、強気な態度を少しも崩すことなく、声高らかに宣言した。

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